本書がすばらしいのはまず、市川崑の映画ではなく、そのタイトルどおり『市川崑のタイポグラフィ』に目をつけたところである。 市川崑の「犬神家の一族」はじまるあの独特の文字デザイン=タイポグラフィは、「新世紀エヴァンゲリオン」をはじめ、「古畑任三郎」のクロスワード風のタイトルデザインなど、さんざんオマージュやパロディの対象にされてきた。 だが、この本ほど徹底した研究はいままでなかったのではないか。 ちなみに「エヴァ」で使われた明朝体は、本家「犬神家の一族」(このばあい1976年公開の最初のバージョンを指す)のクレジットの書体よりも肉太だったりする(これは意図的にそうしたものらしいが)。 このほかにも本書では、グラフィックデザイナーでもある著者ーーこの本のブックデザインも手がけているーーならではの方法によって、市川崑の文字デザインの秘密が次々とあきらかにされている。 じつは、映画のタイトルロゴやク