麻生太郎氏の政見には語るに足るものはないが、唯一おもしろいと思ったのが「安倍晋三氏には岸信介以来の保守の理念に殉じる気概があったが、私の政治哲学は吉田茂以来のプラグマティズムだ」という話だ。 戦後の占領期に7年以上も政権にあった吉田は、日本の戦後体制をつくったといってもよい。安倍氏の否定する「戦後レジーム」というのは「吉田レジーム」である。しかし、そこに一貫した信念があったわけではない。吉田は「平家・海軍・外務省」といわれる傍流の外交官であり、敗戦で本流の陸軍や内務省が解体されたために「消去法」で首相になったにすぎない。彼はリベラルでも平和主義者でもなく、晩年には「憲法第9条は間近な政治的効果に重きを置いたものだった」と語っている。平和憲法は「侵略国」とか「軍国主義」というイメージをぬぐい去るための機会主義的なレトリックであり、いずれ日本が豊かになれば改正が必要だと考えていたのである。