本書は、鎌倉時代の「踊り念仏」で知られる時宗の開祖・一遍上人の評伝だ。 開祖といっても本人は死ぬまぎわまで、こんな活動は一代限りでやめろと門弟に釘をさしている。 仏教本でお堅いのかと思いきや、全くそんなことはなく、著者は口語で語りかけてくるので読みやすい。そして一遍の怒涛を体感するだけでもエンターテイメントとして成立している。 一遍は、伊予水軍で名高い河野家の元武士だった。しかし他人を殺してでも家を守れ、財産を増やさねばと働くうち、身内同士で所領争いになり、挙句のはて殺し合いにまで発展してしまう。こんなのやってられねえ!と家も土地も、奥さんも子供も、財産をぜんぶ捨てて旅に出てしまった。 一遍の思想における究極は、「捨てる」ことにある。彼は富も地位も権力もすべて捨て、空っぽになり、生きながらにして往生しようと考えた。 しかし実際に家を出ると、奥さんと娘も出家して旅についてきてしまった。一遍は