遅くまで残業していると、ナミキさんがコーヒーを飲みにきた。お菓子を持っているので禁止令はどうしましたと訊くと、わかりゃしませんよとこたえて笑った。先だって来たとき、体重増加により彼女からオフィスグリコ禁止令が出ましたと言ってしょんぼりしていたのだ。 こういうときはたいていそのまま休憩に入る。私は二人分のコーヒーを淹れ、ナミキさんは私にチョコレートを勧めて、世間話を物語にスライドさせる。 彼は彼の兄からのメールを開かずに無視した。彼はひどく動揺していて、そして、少し、愉快だった。彼は生まれてはじめて兄の上に立っていた。 彼の兄は子どものころから頭の回転が速く、何をやらせても上手だった。兄が訪ねると祖父母はおおいに盛りあがった。母が彼だけを連れていくときとの違いを幼い彼は敏感に察していた。祖父母は彼をちやほやしたけれども、兄といるほうがあきらかに愉快そうだった。兄は陽気で人を楽しくさせる。 よ