1923年、2度目のエベレスト登頂に失敗したイギリス人登山家ジョージ・マロリーにニューヨーク・タイムズの記者が、「なぜエベレストに登るのか?」と尋ねると、彼が「そこにあるからだ」と答えたのは有名な逸話である。続けてマロリーは、「エベレストは世界で最も高い山であり、(当時)誰もその頂上に到達したことがない。存在そのものが挑戦なのである。その答えは本能的なものだが、宇宙を征服したいという人間の欲望の一部なのだろう」と答えたとされる。その翌年、3度目のエベレスト登頂に挑んだ彼らが帰還することはなかった。 なぜ命の危険を冒してまで登るのか。不可解な衝動に対する約100年前のこの問いに、1994年から小説『神々の山嶺』を執筆した夢枕獏、そして2000年からそれを漫画化した谷口ジローも魅了された。マロリーとパートナーのアンドリュー・アーヴィンは、人類で初めてエベレスト登頂を成し遂げたのかもしれない──