厭ミス=厭なミステリの金字塔。 テーマは「結婚」。夫婦が、男と女が、ほんとうにわかり合うということは、どういうことか、震えるほどの恐怖と迫力で伝わってくる。虚栄、欺瞞、嫉妬、支配、背信、復讐、嘘、嘘そして嘘……男女にまつわる、ありとあらゆるマイナスの感情を、こころゆくまで堪能できる。「夫婦あるある」すれ違いだと思っていたら、物語のフルスイングに脳天直撃される(しかも、二度も三度も)。 小説としては典型的な、「信頼できない語り手」で紡がれる。妻の日記と、夫の独白が交互に重なるのだが、どうもおかしい。「ある日突然、妻が失踪する」のだが、妙に冷静で何かを隠しているような夫ニックも、その日に至るまでのナルシズムまみれの妻エイミー日記も違和感を抱かせる。じわじわ不審感が増してくる、この誘導の仕方が抜群に上手いのだ。肘まで腕を差し込んだ腹の探り合いは、気持ち悪さとともに、自分とパートナーの不協和音を増