自宅勤務の自営業者にとって、電話の鳴る音ほど恐ろしいものはない。 最新の電話機はストレスを感じさせないように優しげなメロディが流れるようになっているのだが、それでも鳴った瞬間に心拍数は跳ね上がり脂汗が吹き出してくる。これがもし、旧式の黒電話で「リーン!」と鳴ろうものなら俺はとっくに心臓麻痺を起こすか、精神を病んでいただろう。 「もしもし?」 電話に出て催促でないと判ったら、今度は恐怖が怒りへと変わる。この野郎、脅かしやがって。何度も言うが、俺はREITにもFXにも興味はねえんだよ!光ファイバーのご案内だあ?今取ってる電話はお宅の光電話だボケ!そう怒鳴って受話器を叩き付けた事は枚挙に暇がない。この間ついに、充電池を収めているフタが割れてしまった。おかげで今俺が抱えている子機にはガムテープでグルグル巻きにしてある。 「あのー。先日振り込め詐欺の件でお電話させていただいた者ですが」 電話口の向こ