マルキ・ド・サドが敬愛した男、ジル・ド・レ。『青髭』のモデルになったことでも知られる彼は、少年たちを残虐に殺害した。犠牲者の数とその所業は多分に誇張されているとの批判もあるが、その伝説は永遠に語り継がれて行くことだろう。 1404年、ナント近郊のシャントセ城で生まれたジル・ド・レは、たった一人の世継ぎであり、従って輝かしい将来を約束されていた。父ギイ・ド・ラヴァルは名門ラヴァル家の家長であり、母マリー・ド・クラオンもフランス王国屈指の貴族だった。両親はそれぞれブルターニュからポワトー、更にはメーヌからアンジューへと至るフランス西部一帯にまたがる広大な領地を所有していた。その世継ぎであるジルは、フランス王国で最大の勢力を誇る領主となる筈だった。 1415年、父ギイが死亡し、これを追うように母マリーも亡くなると、途方もない財産を相続した幼い世継ぎは、母方の祖父ジャン・ド・クラオンに引き取られた