この本を読んだのは,もう何年前になるだろうか。上梓が2004年で,当時新刊だった気がするので4年前というのが冷静な答えだが,その間イラク情勢は一向に改善していないように見える。現に7月28日にも大規模な自爆テロがあったばかりだ。そして,そのまさに改善しない理由を早々に指摘してくれていたのが,阿部重夫氏の『イラク建国 「不可能な国家」の原点』である。 この本はかなりの程度,20世紀初頭におけるイギリスの中東問題専門家であるガートルード・ベルの伝記と見なしてよいわけだが,彼女が手がけた大仕事の一つが,そもそもイラクという国を立ち上げることだった。映画「アラビアのロレンス」でもつぶさに描かれるとおり,第一次世界大戦に中東植民地を巻き込んだイギリスは,戦後の独立をエサに各有力部族をいいように使嗾した。例えば「サイクス・ピコ協定」という言葉を調べてみれば,そのいいかげんさの一端が分かる。 そして,友