→紀伊國屋書店で購入 「「ア―――ドンノオ」としてのビートルズ体験」 無茶である、と最初は思った。かつて本屋で本書を見かけたときは、馬鹿げているとさえ思って無視してしまった。何しろビートルズが発表した全公式曲213曲をその録音順に、すべて新書版1頁(40字×16行)の同じ字数のなかで批評するという試みなのだ。おそらくそこにあるのは、ビートルズの楽曲全体を万遍なく見渡したいというデータベース的欲望の集積にすぎないだろう。そんな官僚的なやり方では、優れた批評に必要であるところの、熱い思いや独自の偏見や深い洞察が発揮できないだろう。そう思い込んでいた。ところが読んでビックリ、まるっきり正反対の本だった。ビートルズに対する著者の熱い思いと偏見と深い洞察が、ものすごいドライブ感を持った文章によって見事に表されていくのだ。単調な記述形式は、むしろその熱い情動を発揮するための、土俵として選ばれたにすぎな