『大漢和辞典』は、私にとってこの研究の世界に入る大きな原因を作ってくれた辞書だ。13巻にも及ぶ大部の漢和辞書であり、そこに難字が詰め込まれているのであるから、多少の瑕瑾があるのは当然だが、少年の頃には神々しく感じられ、漢字の世界へといざなわれた。今でも、中学生の頃にこれを買った、全部読んだなどという若者に会うと、ついつい声をかけてしまう。 5万字以上が収められた、その威容を誇る辞書には、それぞれの漢字や熟語に数多くの出典が用例文などとともに掲げられている。その中には、膨大な漢籍から適切な例を見付け出してきたものがある一方で、残念ながら時代の制約もあって孫引きされたような箇所もなくはないことが知られている。 ともあれ、いわゆる漢字文化を検討する際には、避けて通ることのできない、東アジア、いや世界共有の一大文化財となっている。中国の研究者も、『大漢和辞典』が引けるようになるために、日本語を学習
