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makinoに関するtetzlのブックマーク (30)

  • 効率の領域 - 傘をひらいて、空を

    ふだん行かない部署を訪ねて、タスク管理ツールの使い方を教えてもらう。わたしの親しい同期の現在の配属部署で取り入れられて、「他部署の人でも、仕事で使わなくても、タダで教えてもらえるよ」と聞いたからである。 を読んでひとりで勉強するのも良いし、今はあちこちの企業や教育機関が無料で公開している動画もある。だからたいていのことは低コストで自習できるのだけれど、それはそれとして、目の前に人がいてしゃべってくれるとやけに学習効率が良いのである。どうしてかはわからないが。 導入担当の社員はわたしよりいくらか若い男性で、まだ小さい子がいるのだそうだ。それで、仕事のために覚えたタスク管理ツールを家庭生活でも使っているのだという。とにかく時間がなくて、管理しないと混乱するんすよ、と彼は言う。たとえば子どもの成長と性質にあわせて商品を買う。そしたら、週末の買い出しパターンも定期便の品目も買ったものの収納や入れ

    効率の領域 - 傘をひらいて、空を
    tetzl
    tetzl 2024/11/20
    「ただのコスパタイパくそ野郎じゃなさそうだな」「通じすぎ」のやり取り好き
  • 生き物ではない者として - 傘をひらいて、空を

    ちょっと自慢話を聞いてもらえませんか。 このあいだ、○○さんと仕事したんです。ええそうです、よくご存知ですね、そんなに知名度はないんだけど、僕は昔からとても好きで、彼の書いたものはすべて読んでいます。雑誌に少し書いただけのものも追っている。若いころには「こういうのって恋愛みたいなもので、そのうち醒めるんだろうな」と思ってたんですけど、いまだに好きです。 他にも好きな作家はいるけれど、そういう感情がずっと続いたことはないな。○○さんが特別なんだ。 そうですか、あなたも○○さんの著作を読んでいらっしゃいますか、嬉しいなあ。 いや、業で○○さんのを担当したのではないんです。僕は編集者ではありますが、会社では違う分野のを作っていて、○○さんは、うちの会社で書かれている方ではないですし、接点はないんです。○○さんとした仕事は、いわば課外活動です。うちの会社は副業OKでして、外でを作ってもかま

    生き物ではない者として - 傘をひらいて、空を
    tetzl
    tetzl 2024/09/25
    ブラッドベリの「交歓」を思い出した
  • 特別でない人の選ばれかた - 傘をひらいて、空を

    先だって中古のマンションを購入した。紹介者は飼い犬である。 わたしの犬は四歳の柴犬で、和犬のわりにお調子者の社交家である。朝によく行く公園と夜によく行く別の公園に、それぞれ顔見知りの犬たちがいる。子犬のころはとっくみあって遊んだものだが、もう大人の犬なので、たがいをふんふん嗅ぎあって、あとはせいぜい追いかけっこをするくらいである。社交の目的の半分以上はよその犬の飼い主さんたちだ。でれでれと甘え、おやつをもらって嬉しそうにしている。 そのような場で、人間同士は名も知らない。なかには代々このあたりに住んでいてたがいの名を知っている人たちもいるが、わたしもわたしのパートナーも新住民である。 ただし、犬たちについてはよく知っている。名前はもとより、年齢、性格、アレルギーの有無などの体質、誰に散歩させてもらっているか、家ではどんな振る舞いをしているのか、おおむね知っている。わたしはとにかく犬が好き

    特別でない人の選ばれかた - 傘をひらいて、空を
    tetzl
    tetzl 2024/08/29
    ストレスでコップ溢れちゃう喩えあるけど、あれポジティブな方向で似た構造あるよね。なんだろ果物がじわじわ育って、ある日ぽこんと果実が手に入りましたとさ、みたいな。
  • ウニ丼と無思考 - 傘をひらいて、空を

    三家族の大所帯で海辺の町を旅行し、帰る日のお昼に名産のウニを載せた丼をべた。 帰宅して洗濯機を回しながら家族が言う。さすが生産地、質の良い海胆だったね。ちなみにどうやってべた。 わたしは自分の昼の行動を思い浮かべる。通常の丼ものはおかずとごはんの配分を均等にしてべるが、海鮮丼は例外である。酢飯でない普通のごはんとあわせるとき、たいていの刺身は単体かごはん少なめのほうが美味しい。だからまずは海胆をつまみ、海胆と少量の米飯を試し、わさび多めと海胆の組みあわせにごく少量のコメを「このたびのベース」と決め、半分べたところで、中央に落とされていたうずらの卵を慎重に拾ってミニ卵かけごはんゾーンを作成、香の物とともに気分転換ポイントとし、その後、海胆に戻った。 わたしの話を聞き、彼はおお、と嘆息した。わがベターハーフよ。さすがだ。おれもまったく同じことをした。愛をあらたにした。 うずらの卵一個で

    ウニ丼と無思考 - 傘をひらいて、空を
    tetzl
    tetzl 2024/05/23
    あらゆることに拘るのは難しくて、拘る部分の優越感が伸びてきたら刈り取るメンテってセルフケアの一つだと思う|食とファッションのところすごい考え方近くて仲良くなれそうだと思った。でも映画は選ぶ。
  • 自分ひとりの皿 - 傘をひらいて、空を

    仕事やめたんだあ。 友人が言う。皆が一斉に失業保険について質問する。もうやったか。自己都合退職でももらえる。手続きはこう、必要な書類はこう。 その場にいる全員が失業保険の申請をしたことがある、または申請方法を調べたことがあるのだから、就職氷河期世代とはせつないものである。資格職外資大学院入りなおし中途採用公務員、そんなのばかりである。 しかし、五十近くともなると職が落ち着き、転職がぐっと減った。だから仲間うちで仕事を辞めたという話が出るのは久しぶりなのである。 退職したという友人は、失業保険ねえ、とつぶやく。めんどくさい。 皆がいっせいに、もったいない、と言う。もらえもらえと言う。 しかし、よく考えればこの女には昔からそういうところがあるのだ。 彼女はふだんはパワフルだ。早くにできた子どもが二人いて、若くして配偶者を亡くし、親類や友人や、もちろん自分の能力と時間も含め、手持ちのリソースをフ

    自分ひとりの皿 - 傘をひらいて、空を
    tetzl
    tetzl 2024/05/18
    割とわかるし、「推し活」とかで薄皮一枚隔ててるだけの人も多いんだと思う|だからこそ私たちは依存先を増やす必要があるのよな
  • そういう係 - 傘をひらいて、空を

    今年は給料を上げることができたのでちょっと安心している。 わたしは勤め人だが、「給料が上がった」とは言わない。報酬は職位や役職を得ることによって、あるいは労働組合を経由しての交渉によって「上げる」ものである(わたしの職場には労組があり、わたしは労組委員である)。 給与は実績を作れば順調に上がっていくものではない。同じ職場にあって、何も言わなくても「上がる」あるいは「上げてもらえる」人もいれば、肩書きだけついて待遇を据え置かれている人もいる。 給与だけではない。この数年で職場の慣例をいくつか変えた。仕事をしているとさまざまな雑務が発生するが、調べてみるとどういうわけか女性と一部の若手が「慣例として」それを引き受けているのである。そして彼女たちは「大変そうだから」小規模で評価につながりにくい仕事に配置されやすく、その結果「正当に」賃金が上がらない。 わたしはちまちまと雑務をリストアップし、あれ

    そういう係 - 傘をひらいて、空を
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    tetzl 2024/04/10
    すごくわかる、「善良であること」じゃなくて「気持ち悪くない方」「寝覚めの悪くない方」みたいな。
  • いつもどっか行きたい あるいは老いについて - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。それ以来ずっとがまんしていたことがある。海外旅行である。 このたびそれを解禁した。三日ばかり台北で遊んできただけなのだが、それでもなにかこう、生き返るような心地である。 海外旅行好きには二種類あるように思われる。たとえばリゾート島で心ゆくまで休むとか、場のテーマパークを堪能するとか、日には巡回しない美術や建築物や自然を鑑賞するとか、そういうのを求める人々である。目的がある旅行、とでもいいましょうか。私も目的を定めて旅行することはある。 でも私にとってそういうのはおまけだ。時代を象徴する名画より、完璧なリゾートより、ただ「いつもとちがうところ」であることが重要なのである。その「ちがう度」が高いというだけで海外が大好きなのだ。ふだんはつましい生活をし、一週間の休みがあればどこかの大陸に行く。「くさくさするなあ」と思ったら

    いつもどっか行きたい あるいは老いについて - 傘をひらいて、空を
    tetzl
    tetzl 2024/04/06
    (私にとってたくさん本を読んだ作家は空想上の友人なのである)
  • 十人いれば楽しい - 傘をひらいて、空を

    職場のアルバイトの学生が就職活動をするというので、休み時間に、どういう業界を受けるの、と訊いてみた。彼は責任感が強くてきちんと仕事をこなす有能なアルバイトだ。他人の状況をこまやかに理解してサポートしてくれる。 彼の見た目はなんというかたいへんにカジュアルであり、パンツは思いきり腰ばきで、つねに(下着のほうの)パンツが見えている。どうやらそれもふくめてコーディネートしているらしく、シャツやスニーカと同系色だったりする。極度に背で、上目づかいだと三白眼になる目できろりと人を見る。 彼はいつもそうであるように、ものすごくだるそうな口調で、しかし内容は生真面目に、志望の職種とその理由、狙っている会社と勝算について話した。私はうんうん、とうなずきながら聞いた。よく考えているなあ、と感心した。私の学生時代は極端な就職難で、私はそれを言い訳にして投げやりになっていたので、真面目な若者と対面すると少し恥

    十人いれば楽しい - 傘をひらいて、空を
  • いいよいいよ、溜め込んでな - 傘をひらいて、空を

    五十の坂が見えるとにわかにホットになる話題が「親の家の片づけ」である。 友人が言う。うちの親もね、わたしがちょいちょい顔出してやいやい言ってるし、近所の友だちに対する見栄もあるから、一階はきれいにしてる。でもさあ、なにしろ田舎の立派な一軒家だから、二階は物置よ。で、人はもう階段上がるのも面倒になってる。どうすんの、あの大量のがらくたを。 わたしは友人の話に頷きつづける。友人は怪訝そうに尋ねた。なに仏さんみたいな顔してんの。 わたしは言った。わたしはもう、親の持ち物に関しては、好きにしてもらおうって決めたの。物置部屋があるなら万々歳、生活空間が多少ごちゃついたっていいじゃない。 かつてはわたしも親たちの大量の所有物に眉をひそめていた。最後に片づけるのはわたしら子どもじゃん、と思っていた。そして生家を訪ねては、物置と化した客間(昔の住宅にはなぜかこの客間というやつがあった)とかつての子ども部

    いいよいいよ、溜め込んでな - 傘をひらいて、空を
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    tetzl 2024/02/18
    「お願い」や「配慮」をしたりされたりしなくていいの、やっぱり最後はカネの問題なのだよな
  • 彼のスタイル - 傘をひらいて、空を

    わたしが彼氏と出会ったのはインターネットのオフ会だった。十年前にはそういうのがあったのだ。映画好きのオフ会である。いわゆるシネフィルの集まりで、面倒くさい人間ばかりが来ているのだろうなと思って(わたしもそうだ)、面倒くさい人間同士で楽しく飲もうと思って行った。 その中に彼はいて、そして、驚異的にめんどくさくなかった。なんでだろ、たましいの薄暗さはわたしや他の人と変わらないのにさ。 いや俺はめんどくさいですよ。オフ会で意気投合して後日ふたりで飲みにいったら、彼はそのように言うのだった。あなたがあまりにめんどくさいから俺のささやかなめんどくささが気にならないだけでしょう。 そうかい、とわたしは言う。そうですよと彼は言う。彼はずっと背筋を伸ばしていて、ジャケットの襟とまなじりとくちびるの端がナイフで切ったみたいなかたちして、いいにおいがして、わたしばかりがラフで、化粧もろくにしていなくって、だっ

    彼のスタイル - 傘をひらいて、空を
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    tetzl 2023/12/30
    “わたし今しがた急にすっきりの反対になったんですけど? わたし気持ち悪いな。わたしだけ気持ち悪いな。”すき
  • 雑で速いやつに対する説諭 - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。弊社ではそのために些末な打ち合わせもオンラインでおこなわれ、皆が慣れてきた今となってはリアルタイムの共同作業も気楽に実施されている。日は上司からの資料レビューであった。 上司:急ぎでイレギュラーな仕事やってもらっちゃってごめんね わたし:いえいえだいじょうぶです 上司:こういう差し込みの仕事、ガッてやってバッて出してくれるのほんと助かる わたし:いやあ、この程度でよろしければ 上司:あのね、できればこの程度じゃなくしてほしい 上司:あなたの仕事はいつもスピーディで対応も柔軟で素晴らしい。でも雑 わたし:あっそれが題ですね 上司:うん。赤字のところ見ておいて。とくに数字の誤字は致命的だからね。あと図の作りとレイアウト。せめて余白を左右対称にしてほしい。総じて雑 わたし:承知しました。赤線ありがとうございます。すごく直し

    雑で速いやつに対する説諭 - 傘をひらいて、空を
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    tetzl 2023/08/30
    “思春期にはちゃんと劣等感ありましたよ。わたしだって自意識あるホモ・サピエンスなんだから。ゴリラとかではない"→"いや劣等感を思春期の現象と思っているところがすでにわかっていない”のくだりとかすごい好き
  • 犬の眠り - 傘をひらいて、空を

    午前二時、そっとベッドを抜け出す。眠ろうと努力して一時間あまり、長年の経験から「これはベッドにいても解決しないやつ」と判断してのことである。 ベッドの中でずっと覚醒しているときには、あれこれ工夫すれば存外眠れる。そういうときには頭の中に思考が滞留していて、それが入眠を邪魔している。たとえば仕事が忙しくて長時間グイングインに回した頭の中が止まってくれない、というような状態だ。それなら頭の中を止める工夫をすればよいのである。そのために有効ないくつかの方法を、わたしは持っている。 そうしたやり方が通用しないのが、一度は半ば眠りに入ったのに半端に目が覚めてしまうパターンだ。わたしはこれを「半再起動」と呼んでいる。この状態はうっすらと不快で、足首あたりにそこはかとない恐怖が溜まる感覚があり、複雑な思考はできず、しかし何も考えないこともできない。こうなるとたいてい夜明けまでだめである。 かくしてわたし

    犬の眠り - 傘をひらいて、空を
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    tetzl 2023/08/23
  • だって他人だもん - 傘をひらいて、空を

    上司がビールを注文した。わたしは咄嗟に目を伏せ、その目を左右に泳がせた。隣の後輩とがっちり目が合った。彼もまた目を伏せてそれを泳がせていたのである。 今日は会社の近くで飲んでいた。わたしは様子を見て一次会でおいとました。駅に向かって歩き出すと、先ほど目があった後輩が追いついてきた。 彼は言った。あの人、飲むんすね。わたしも言った。飲むんだね。びっくりしたわ。 上司は先月、会議中に倒れた。発見が遅れたら死んでもおかしくなかったそうだ。人があとからそう言っていた。人がいるところで倒れたのがよかった、というのもなんだが、しかしよかったのだ、迅速に病院に運ばれて、死なずに済んで、すぐに会社に出てくるほど回復したのだから。 この上司の不摂生は有名だった。今どき珍しいくらいよく飲む。翌日が平日でも終電を超えて飲む。短めの二次会までは普通の飲み会である。最初からよく飲む人だが、その後は飲み方がより激し

    だって他人だもん - 傘をひらいて、空を
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    tetzl 2023/07/05
  • 一人であること、あるいは機嫌のいい犬 - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのために人々の楽しみが減り、数少ない疫病伝染性の低い娯楽に注目が集まった。その筆頭がキャンプである。 僕もご多分に漏れず毎月ソロキャンプをするようになった。子どもが中学生になって生活の世話や送り迎えが減り、勉強も塾まかせになった。パパとのお出かけなんか年一回もあればいいという感じだ。そんな中で疫病がやってきた。 僕は自然豊かな場所にアクセスしやすい郊外に住んでいて、自家用車を持っており、アウトドア経験がある。いかにもソロキャンプをはじめそうな人間でしょう。 とはいえ僕が昔やっていたのはハードな登山である。ちょっと間違えると死ぬやつである。その種の人間のゆるいアウトドアに対する感覚は二つに分かれる。一つは「オートキャンプなどというものは野外活動のうちに入らない」というアウトドア過激派、もう一つは「自然っぽいところにいるだ

    一人であること、あるいは機嫌のいい犬 - 傘をひらいて、空を
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    tetzl 2023/05/31
  • 不安に耐えることができない - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。企業の対応はさまざまだったが、時が経つにつれて社員から見捨てられる会社が出始めた。 わたしの友人も所属している会社を見捨てた。その会社は、経営層の「不安に耐えられない性質」によってその身をほろぼしかけているのだそうである。 彼女は小さいながらも評判の老舗企業につとめている。はたからは「業界外の人間も知っているブランド企業で専門職として働き、若くして活躍している」というふうに見えた。そんな彼女が、疫病下でずいぶんひどい目に遭ったという。 彼女は言う。給与はもともと良くないんですよ。業界の水準から見たらあきらかに低い。でもまあがまんできないほどではないし、この仕事が好きだし、新卒で入って数年なのだから、と思っていました。 うん、まあ、そんなふうに言ってもらうほどじゃないけど。でもたしかにレア職種ではあるから、同業他社の転職

    不安に耐えることができない - 傘をひらいて、空を
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    tetzl 2022/08/31
    “不安になると理屈が通じなくなる人がいるの”“不安の原因の解決より不安の解消を優先する人”
  • いなくなったあの人のこと - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。それから二年半、わたしの会社からは何人かがいなくなった。転職や定年退職はカウントしていない。職場を変えるのではなく、ただ辞めた人の数である。 このところ疫病の感染状況はまったくよろしくないのだが、それでも出社は増えた。あまりに長期間なので、弊社の経営陣は「ある程度のリモートワークを残し、リスクは承知で出社してもらって、それでやっていくしかない」と考えたようである。緊急対応というには、二年半はあまりに長い。 そうすると増えるのが立ち話である。新人や新しいクライアントについての情報交換、リモートワーク生活のこと、リモート対応で導入されたソフトウェアの感想、そして、いなくなった人の話。 いなくなった人のひとりはわたしの新人時代の指導役だった。 二十年前のことだから、今から考えるとハラスメントが横行していた。社員個人を「女は」と

    いなくなったあの人のこと - 傘をひらいて、空を
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    tetzl 2022/08/31
  • 家族を分ける - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。遠方の親族に会いに行くのも「自粛」の対象である。私的なコミュニケーションの大部分がオンラインに移行し、そして、オンラインでの飲み会といった集まりの物珍しさが減衰すると、その相手を選ぶようにもなった。当然のことながら、疫病の感染リスクを取ってでも面会する相手とそうでない相手は厳しく峻別された。 同居の家族もそのままではなかった。いまや感染リスク低下のために家庭内別居をする者も珍しくない。自室がある者はそこに籠もり、場合によってはリビングルームに衝立をめぐらせ、水回りを使う時間を分けて、使用前と使用後に消毒するのである。 わたしの家ではそうしていない。夫と息子と一緒に生活している。わたしたちはそのことをきっちり話し合って決めた。息子はもう十歳だ。両親と手をつなぎ一緒に事をすれば感染リスクが上がると理解している。あなたには選

    家族を分ける - 傘をひらいて、空を
    tetzl
    tetzl 2020/04/15
    コロナ禍で仕事の見直しが進んだのと同じように人間関係の見直しも進むんだと思う。どちらも、それが良いか悪いかは別として。
  • 子育てを終える - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。 産んでもいない子を育て上げたような気がしていた。彼らがもうずいぶんと大きくなったので、もういいやと思った。疫病が流行した、この春のことである。 もちろんそれはわたしの子ではなく、わたしはいまだ二十代で、子どもたちは十七と十五の女の子と男の子で、わたしの弟妹である。 わたしの母は十代でわたしを産んだ。十代の母としてはずいぶんと立派だったと思う。彼女はわたしを背負ったまま手に職をつけ、同じく手に職をつけていた若い夫であるわたしの父とともに、せいいっぱい働いた。 彼らはわたしが十三の時に、乳幼児だった弟妹を残して死んだ。ばかだなとわたしは思った。夫婦そろってさんざっぱら働いてようよう手に入れた店で火事を出して、それで死んだ。火が出たらとっとと逃げたらいいのに、店を守ろうとしたのだと聞いた。わたしは警察に呼ばれて両親を確認した

    子育てを終える - 傘をひらいて、空を
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    tetzl 2020/04/08
  • 劇場から出ない - 傘をひらいて、空を

    だって仲良くなって何度かおたがいの部屋に泊まった相手なら、部屋の中を下着でうろうろするものでしょ。 私がそう言うと彼女は完全に沈黙し、それから、ほう、とつぶやいた。そのつるりとしたひたいに「保留」と書いてあるかのようだ。インテリジェントな人間によくあることだけれど、相手の意見を言下に否定することを下品だと考えているのだろう。 それはちがうと思うの?私はそのように訊く。彼女は慎重に首をかたむけ、そう、うん、えっと、そう思う、とこたえる。私は考えて、言う。お行儀がよい人なら、恋人の部屋にいても、ちゃんと部屋着を着るんだろうね、あるいは子どもができて、教育上の理由で部屋着を着てすごすのでしょう。彼女はますます慎重なようすで、そうかもしれない、と言う。 部屋着じゃないのだ。私はそう判断して確認する。つまり眠るまでは街着を着ているわけだ、お化粧も落とさない、おたがいにきちんとしている、それがどちらか

    劇場から出ない - 傘をひらいて、空を
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    tetzl 2020/04/02
    “彼が来ているのに、プランクの格好でリルケを読むような真似はできない”
  • セフレですよ、不倫ですよ、ねえ、最低でしょ - 傘をひらいて、空を

    仕事の都合で別の業種の女性と幾度か会った。弊社の人間が、と彼女は言った。弊社の人間が幾人かマキノさんをお呼びしたいというので、飲み会にいらしてください。 私は出かけていった。私は知らない人にかこまれるのが嫌いではない。知らない人は意味のわからないことをするのでその意味を考えると少し楽しいし、「世の中にはいろいろな人がいる」と思うとなんだか安心する。たいていはその場かぎりだから気も楽だし。 彼らは声と身振りが大きく、話しぶりが流暢で、たいそう親しい者同士みたいな雰囲気を醸し出していた。私を連れてきた女性はあっというまにその場にすっぽりはまりこんだ。私は感心した。彼女は私とふたりのときには同僚たちに対していささかの冷淡さを感じさせる話しかたをしていた。 どちらがほんとうということもあるまい。さっとなじんで、ぱっと出る。そういうことができるのである。人に向ける顔にバリエーションがあるのだ。私は自

    セフレですよ、不倫ですよ、ねえ、最低でしょ - 傘をひらいて、空を
    tetzl
    tetzl 2019/09/18
    マキノさんが再発見されてて震災前後からずっと好きだったマンとしては嬉しくてあれも読んでコレも読んでな気持ちが溢れそうである