さよならワンダーラビット 小室悠貴 若くして両親を亡くした引きこもりの少女・ルナ。社会に馴染めず陰鬱とした日々の中でとあるテレビ番組を唯一の心の支えとしていたルナだったが、実はその番組は"存在していなかった"ことが発覚し…?
映画では男の姿がはっきりと描かれる。京本が座るソファのすぐ側に、振り下ろしたツルハシが突き刺さるシーンでは、その鋭角な先端に体重が乗っていて、(如何にも批評用語で気が引ける表現だが)他者性がはっきりと伝わってくる。簡単に言えば生々しく、娘のように目を覆いこそしなかったものの、自分も反射的に身構えてしまった。一方、原作では男は光を浴びているかのように輪郭が曖昧に描かれる。そのシーンは事件をニュースと伝聞から知るしかなかった藤野による現場の想像で、彼女が事実を受け止められないからこその世界線とも捉えられるからだ。そしてその光の中で“男”は、殺される京本やそれを想像する藤野と溶け合った存在として居る。 “男”のモデル=青葉真司被告 先述したように、『ルックバック』が藤本版『まんが道』だということは誰もが思うだろう。ただし藤子不二雄のキャリア初期を、コンビの片割れ=藤子不二雄Ⓐが自身の視点から描い
2021年、コミック配信サイト「少年ジャンプ+」で公開されるやいなや、SNSを中心に瞬く間に話題となった藤本タツキの長編読切漫画「ルックバック」。一般の読者のみならず、著名な漫画家やクリエイターからも評価を集めた本作が、アニメーション作品としてスクリーンで公開となった。制作担当スタジオの代表であり、監督も務める押山清高に、本作との出会いをはじめクリエイターとして共感する点や、アニメ化にあたりどのような点に心血を注いだのかなど、劇場版『ルックバック』への思いを聞いた。 天狗の鼻を折られる経験は、誰にでもある“通過儀礼” 「ルックバック」は、学年新聞で4コマ漫画を連載し「漫画家になれる」と周りから称賛を受けている小学4年生の少女、藤野(声:河合優実)と、同い年で不登校児の京本(声:吉田美月喜)の2人が、ひたむきに漫画を描き続けていく物語だ。当時、「ルックバック」が話題になっていることを知り、す
漫画家漫画を読むと喰らうなぜなら主人公が真っ向から漫画を描き続ける話だから。 漫画家漫画は漫画を描くという目標の元、一生懸命漫画を描き続ける。 なぜなら漫画家の漫画だから。 なのでバクマン。や、アオイホノオなどが読めない。 読んで「漫画のキャラはこんなに努力をしてひたむきなのに、俺は何もやってないおじさんだ!」となってしまうので。 申し遅れました。私、漫画家をやっております、福岡太朗と申します。 過去に2作ほど連載をしており、現在は連載を目指してやっている最中です。 そう。 連載を持っていない名ばかりの漫画家である自分にとっては、漫画家漫画は劇薬なのだ。(ちなみに、吼えろペンや燃えよペンは読めるし大好き。ギャグ色とファンタジー色が強いし、まだダメージを喰らうようになる前に読んだので読める。大好き。それを言うならアオイホノオは読めるかもしれない) でもルックバックは読んだでもルックバックは読
もしもアメリカの分断が進み、国を崩壊させるような内戦が起きたらどうなるのか。10月4日(金)に公開されたA24による最新作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は、そんな構想から生まれた映画だ。 連邦政府から19もの州が離脱し、共和党支持者が多いテキサス州と民主党支持者が多いカリフォルニア州が同盟を組み、政府軍に対抗する「西部勢力」をつくる――。一見するとありえない設定にみえるが、秩序が保たれなくなった末に起きる数々の争いや暴力行為は、世界中でいま起きていることをふまえると、途轍もなくリアルにも感じられる。 監督を務めたアレックス・ガーランドは、「この物語は現実と地続きである」としたうえで、「右派と左派の観客が喧嘩をせずに議論できるような、双方に共通点がある映画をつくりたかった」と語る。この作品の狙いは何だったのか、インタビューで聞いた。 あらすじ:連邦政府から19もの州が離脱したアメリカ。
2024年6月29日(土) 新宿武蔵野館で『あんのこと』。 *ネタバレ的な記述があるので、これからご覧になられる方はご注意を。 新型コロナウイルス感染症パンデミックによって引き起こされた二次災害=孤立や分断を記録した作品として価値があると思った。 ダイヤモンド・プリンセス内での集団感染が始まって報道されたとき(あんが介護施設で明るくそこの人たちと交流していたとき)、自分は何をしていたか。ブルーインパルスが都心の上空を飛んだ日(あんがああした日)、自分は何をしていたか。そのことをこの映画を観て思い出した。気持ちが晴れないあの日やあの時期、ブルーインパルスが空につけた飛行機雲を見て「なにをやってんだか? 何が空からエールだ、くだらねえ」と思ったことも思い出した。観る者の多くにあのとき/あの時期を思い出させる、忘れないようにさせる、そういう意味において価値のある作品だとは思った。 自分の背中
「私のところに来たからには、もう大丈夫だよ」。 実在の事件をもとに作られた映画『あんのこと』で河合優実さんが演じたのは、幼い頃から実母に虐待を受けて育ち、21歳で薬物依存症となっていた主人公の杏。脚本を読んだとき、河合さんは杏にそう語りかけずにいられなかったと振り返ります。 「最初に脚本を受け取ってすぐに、『私がこの役をやるべきだ』『絶対に届けなきゃ』と思ったわけではないんです。そんなに簡単なものではありませんでしたから。それでも、この女性を私が守りたいと思ったし、これから心の中で彼女と手を繋いでやっていこう、という気持ちになったのを覚えています」 俳優として、役のモデルとなった女性を守る。それは、できる限り相手を尊重することでもあったそう。 「普段の私は美味しいごはんも食べられるし、愛情をくれる家族もいる。ジャーナリストや誰かを支援する仕事に就いているわけでもありません。俳優という立場か
「不適切にもほどがある!」(2024年、TBS系列)で大きな話題を呼んだ女優、河合優実。そんな彼女が主演を務める映画『あんのこと』が公開中だ。機能不全の家庭に育ち、麻薬に溺れながらも生きる道を見つけようとする少女を描いた本作。今回は、監督をつとめた入江悠氏にモデルとなった事件や俳優の魅力についてたっぷりとお話を伺った。(取材・文:司馬宙) 写真武馬玲子――作品を拝見しましたが、杏の壮絶な人生に胸をえぐられるような壮絶な印象を受けました。本作は、実話がもとになっているとのことですが、具体的にどういったお話がもとになっているのでしょうか。 「4年くらい前に僕が読んだ新聞の記事がもとになっています。薬物から立ち直った女の子が学校に通い始めるというものだったんですが、後日、その子が自ら命を絶ったという記事が掲載されていて、とても衝撃を受けました。 また、コロナ禍で親しい友人を亡くしたという僕自身の
河合優実(23)は、祈りをささげるように「あん」という役に取り組んだ。主演作「あんのこと」(入江悠監督・脚本)で、暴力と貧困から抜け出そうと精いっぱいに生きる主人公だ。いまもっとも注目されている俳優は、誰よりも誠実に役の人生を生きたいと願った。 杏は、暴力的な母親に売春を強いられ、苦しさから逃れるため薬物に溺れる。小学校すらまともに卒業していないが、担当した刑事の励ましなどにより、介護士になるという目標を見つける。だが、コロナ禍が夢を奪う。 実在した女性がモデルだ。新聞記事で知った映画プロデューサーの國實瑞惠が「彼女の人生を残したい」と企画、共鳴した入江監督が、関係者への取材を重ねて脚本を書いた。女性は、なぜ死を選ばなくてはならなかったのか。その思いを「杏」という主人公に託した。 映画「あんのこと」©2023「あんのこと」製作委員会河合も関係者や薬物更生の専門家らの話を聞き、メモをとり、懸
「あんのこと」は公開中(C)2023「あんのこと」製作委員会「あんのこと」(2024)は、物語の主人公である杏(河合優実)の背中から始まる。その後ろ姿はどこか力無く、自ずとわたしたちは彼女の表情を想像しはじめる。やがて、彼女の姿を正面から撮影したショットを目にすることで、彼女の絶望を確信するのだ。表情や眼差しだけでなく、全身から漂わせる言葉よりも雄弁な絶念。それは「彼女と心の中でしっかりと手を繋いで絶対に離さない」と述懐する河合優実の信念が、役に宿っていると感じさせる由縁なのだろう。あくまでも本作は実際の事件を基にしたフィクションだが、彼女が演じるのは母親から暴力を振るわれ、生活のために売春を強いられるという過酷な人生を歩んできた21歳の女性。杏に対する演技アプローチには、モデルとなった女性への敬意を感じさせるのである。河合優実は「ナミビアの砂漠」(2024)などの演技と併せて、本年度の演
日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 貧困のただなかを生きる、ある女性の実話をベースにした物語と若き環境活動家たちの石油工場爆破作戦を描いた問題作! * * * 評点:★3.5点(5点満点) © 2023『あんのこと』製作委員会 負のスパイラルは社会の機能不全だ どうしようもない貧困が生み出す負のスパイラル、その悲惨を前に人の「善意」はいかにも頼りないものに見える。 というのも、その「負のスパイラル」は本質的に社会のシステムが機能不全を起こしていることが理由だからだ。 「総体としての社会」の非情さは個人レベルの「善意」をいとも簡単に押し潰す。 義務教育も受けておらず、暴力と麻薬と売春しか知らずに育った本作の主人公は、周囲のわずかなヘルプによって、生活を立て直して「社会」に居場所を作ろうと懸命に努力する。 だが彼女の立ち位置は
発端はある女性の人生を綴った新聞記事だったという。幼い頃からDVを受けていた彼女は、売春や薬物使用からの更生を誓いながら、コロナ禍で厳しい現実に直面し───。その記事に衝撃を受けた入江悠が、映画化に当たり、早い段階から主演に想定していたのが河合優実だった。ある女性の生きざまを描きながら、コロナ禍という時代を記録する、傑出した社会派ドラマ『あんのこと』はこのようにして出来上がった。 photo: Masanori Kaneshita / hair&make: Takae Kamikawa (mod’s hair) / styling: Tatsuya Yoshida / text: Yusuke Monma / edit: Emi Fukushima
2019年のデビュー以来、数々の映画賞に輝き、ドラマ「不適切にもほどがある!」ではお茶の間にもその名を轟かせるなど、いまもっとも注目の俳優の1人となった河合優実。映画『あんのこと』(6月7日公開)では、幅広いジャンルの作品を手がけ、社会の片隅で必死に生きる人を見つめてきた入江悠監督とのタッグが実現。実在の女性をモデルに、虐待の末に薬物に溺れながらも、更生の道を歩み始めた矢先にコロナ禍によって運命を変えられていく主人公、杏の苦悩、そして彼女の生きようとするエネルギーまでを鮮やかに体現し、観る者の心を奪う。壮絶な人生を辿った女性の人生を映画化するうえで覚悟したことや、本作を通して感じた映画の力について、入江監督と河合が語り合った。 「いつもの河合さんとはまったく違う姿になっていた」(入江) 過酷な人生を送ってきた杏。河合優実が彼女の苦悩や生きるエネルギーまでを体現した[c] 2023 『あんの
『SR サイタマノラッパー』(2008)から『22年目の告白 ―私が殺人犯です―』(2017)、『ギャングース』(2018)など、人間の熱力を映画に焼き付ける入江悠監督の新作は実話がベース。本作『あんのこと』はある少女の壮絶な人生を綴った2020年6月の新聞記事に着想を得て撮りあげた人間ドラマです。貧困家庭に生まれ育ち、刑事との出会いによってドン底の生活から這い上がろうとした【香川杏】の姿を、『サマーフィルムにのって』(2020)や『由宇子の天秤』(2020)、今年放送となった「不適切にもほどがある!」など多岐に渡り活躍する河合優実が熱演。共演に佐藤二朗、稲垣吾郎と興味をそそるキャスティングです。今回は、ドラマに映画と多忙を極める主演の河合優実さんにお話を聞きました。 ――本作のベースなった新聞記事を河合さんは読まれたと伺いました。その時、どんな感想を持たれましたか。 はい、読みました。本
機能不全の家庭に生まれ、虐待の末に薬物に溺れる少女・杏(河合優実)。人情味あふれる型破りな刑事・多々羅(佐藤二朗)や、更生施設を取材する週刊誌記者らに出会い、生きる希望を見いだしていくが…。 実話を基にした映画『あんのこと』(6月7日公開)。その中で、週刊誌の編集部で働くジャーナリストの桐野を演じた稲垣吾郎の登場シーンが到着した。
映画『あんのこと』が話題だ。新聞に掲載された1本の新聞記事を基に描いた一人の女性の物語。公開は6月7日と記事執筆時点ですでに2週間以上の時間が経過しているが、評判が口コミで広がって満席になる劇場も出ている。 実話ベースであることの物語の強度。河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎といった俳優たちの熱演。そして淡々と登場人物に寄り添う演出の確かさ。この映画がヒットする要素はいくつか思いつくが、果たして──異色のヒットが続く『あんのこと』のことを、監督・入江悠に聞いた。 ※この記事はネタバレを含みます。 ──『あんのこと』は事実に基づくフィクションだと思いますが、まるでドキュメンタリーを観ているような手触りがありました。監督はどのようにこの映画を作り上げたのでしょうか。 「『あんのこと』には目を覆いたくなるようなシーンが出てきますが、そういったシーンは俳優たちに心理的な負担を強います。そのため、撮影の環
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