映画評論家で「日曜洋画劇場」の解説者としてもおなじみの顔だった淀川長治は、晩年の栖(すみか)を東京六本木の全日空ホテル34階の一室で過ごした。ひとり暮らしをするうえでホテル住まいが何より便利で快適だったこと、そのホテルが当時番組の解説をしていたテレビ朝日のすぐ近くにあったことから、約10年あまりをそこで過ごしたのだった。晩年彼の口癖は「もうすぐ死にますから、何でも聞いてください」で、死に際は「映画館で映写が終わったのに、まだ座っている老人がいる。従業員が『お客さん、もう終わりましたよ』と声をかけると、死んでいた。そんな最期が最高」と願っていた。映画は映画館で見るのがベストというのが彼の持論だったそうだが、テレビで映画解説を引き受けたことについてはこう語っている。 正直申してジョン・フォードの『駅馬車』をテレビで見るのはしんどい、つらい。だが、見ないよりはいい。それもテレビでやると、いつもは