麻生太郎首相は、自ら言った厚生労働省の分割論を、事実上2週間で撤回した。政策をめぐって首相が発言を二転三転させるのは今に始まったことではない。それでも一度示した分割案を、形勢が悪くなるや「こだわらない」と否定したのには驚いた。結局こうしたぶれは、首相の志向に基軸がないから起こるのだろう。日本丸の船長がかじを切る方向を迷っていたら、国民を漂流させてしまう。麻生氏には「首相としてこうしたい」という理念が感じられない。もし「首相でいること」が目的なら、早晩国民から見放されるだろう。 厚労省の分割騒ぎは、5月15日の政府の安心社会実現会議が発端だ。委員の渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長が分割私案を説明し、賛同した麻生首相が「医療、介護、年金、福祉が社会保障省。雇用、児童、少子化などは国民生活省」との対案を披露したことに始まる。首相は同19日の経済財政諮問会議で、与謝野馨財務・金融・経済財政担当相に