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デザイナーはビジネスオンチになるな

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代表取締役 枌谷 力

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「そもそも市場にいるデザイナーの数が少ないうえに、ビジネスサイドの期待に応えられるデザイナーとなると相当な希少種である」という話を、経営者や事業責任者の口から聞くことが多い。

私のフェルミ推定だが、様々なメディアの利用者数や購読者数などから推測すると、国内のIT系デザイナー(ウェブデザイナーやUIデザイナー)の母数は数万程度の可能性がある。国内のITエンジニアの数が120万人(出典)と言われており、これらの推測値を鵜呑みにすれば、デザイナーはエンジニアの10分の1も存在しないことになる。

その上で「自社のビジネスとフィットするデザイナー」という条件で絞り込んでいくと、当然その数は相当に少なくなる。「希少種」という表現もあながち誇張でないだろう。

ここでいう「ビジネスサイドの期待に応えられるデザイナー」というのは、

  1. スピーディーにプロアクティブに行動できる
  2. 1つのスタイルに固執せず柔軟に対応できる
  3. デザインの世界の正解ではなくビジネスに寄り添って考えられる
  4. ビジネスの文脈をくみ取って提案できる
  5. 権限を持ったビジネスパーソンと対等に議論・意見できる
  6. お金、数字、利益、LTV、生産性などの感覚を持って判断できる
  7. 優秀なビジネスパーソンと同等のコミュニケーション能力がある

という感じなのだが、経営者として「分かる!」と思う反面、自分自身の一デザイナーとしての経験、また様々なデザイナーと接した経験を踏まえると、「なかなか難しいなあ」と思ったりもする。

難しいと思うのは、デザイナーの中にはそもそも、スピーディーに対応すること、お金や数字、ビジネスやマネジメント、こうしたことが苦手だけど、デザイナーならやっていけそうだ、という動機で職業選択をしている人が、少なからず存在するからだ。全員がそうというわけではないが、その割合は他の職種よりかなり多いのではないかと思う。

こういうタイプの人でも、オペレーションがメインの仕事をしている間は、問題なくバリューを発揮できる。

しかし、非デザイナーとのコミュニケーションが増えたり、ビジネスや経営に直結するようなデザインが増えてきたり、組織の中でコミュニケーションを交えながらアイデア創発する機会が増えたりすると、苦手意識が頭をもたげて、途端にうまく立ち回れなくなる。

また、「多少ラフでもスピーディーに」という考え方がそもそも好きではなく、時間をかけて丁寧に仕事をすることに美意識を感じる人も多い。ある局面ではそれが求められることもあるが、大事なのは使い分けである。いつ何時も「時間をかけて丁寧に」のスタンスを貫いていると、ビジネスサイドからは「スピード感がない」と言われてしまう。

お金やビジネスに関しては、そもそもそういう世界観が好きではなくてデザイナーになった、という人も多いように思う。

ビジネスやマーケティング(つまり商売)には付き物の、一部のユーザーをバッサリ切り捨てる最大公約数思考、商売として不可避な清濁併せ飲む現実に対して、ユーザーファーストやインクルーシブデザインなどの「美しい概念」を錦の御旗とし、経営者やマーケターに対して批判的・攻撃的なポジションを取りたがる人もいる。

ビジネスやマーケティングには負の側面もある。なので時には、理想から現状を批判的に観察し、問題を見つけ出し、よりよく解決できるアイデアを考えることも必要だろう。

しかし、いつ何時も理想論的な捉え方をしてしまうと、ビジネスの現実から乖離していく。現実に向き合う実務家ではなく、安全圏から理想で語る評論家の姿勢が基本となる。ビジネスの世界に内在する矛盾を許容せず、嫌悪・忌避してしまう。そうして、現実最適化された実効性のあるアイデアが出せなくなる。

これがいわゆる「ビジネスオンチ」である。それなりの社会人経験があるにも関わらず、平均的なビジネスの知識がない、一般的な商売感覚が分からない、というビジネスオンチはどんな職種にも存在するが、デザイナーにおいては特に多い印象がある。

デザインには広く深い知識領域がある。これがデザイナーの世界における正解・正義であったりするのだが、これらがビジネスにおける正解・正義とは限らない。

しかし、ビジネスオンチなデザイナーはビジネス側の論理(ビジネスやマーケティングやお金や商売の論理)がいまいち分からないので、デザイナーの世界の正解・正義でものを考え、提案し、ビジネスサイドから却下される、ということが頻発する。

デザイナーはそれに対して「彼ら(経営者やマーケター)はデザインの何たるかを分かってない」「デザインを軽視している」などと憤ったりするが、ビジネスサイドからすれば、「あのデザイナーはビジネスが分かってない」「デザイナー視点しか持ってない」「ビジネスに寄り添ってくれない」という不満に繋がる。このようなミスマッチが、そこかしこで発生しているのではないかと思う。

えらそうに語っているが、私自身にも自覚がある。デザイナーの仕事に没入していた10年以上の期間、それと引き換えに、仕事をする上で大事な何かを学び忘れていた気もする。

今でも時々、優秀と評されるビジネスパーソンの方々とお話すると、キャリア相応・年相応の商売感覚やビジネス知識が不足していることを実感し、恥ずかしいと思うことがある。そのたびに、すぐにネットで調べたり本を読んだりなど、急速キャッチアップをしている。

この手の問題は、特に40歳以上で年齢を重ねた層ほど顕著になる。年を重ねるとビジネスとの接点が増えるから問題が顕在化しやすい、というのもあるだろうが、デザイン業界の風習や体質、働き方が、一般的なビジネスとは乖離していた時代に社会に出たことの弊害もあるのだろう。

デザイナーを採用する企業側としては、ビジネスオンチが多いというデザイナーの現実を踏まえたうえで、彼らの特性を上手に活用する・引き出せる仕組みや制度を作る必要がある。

一方で若いデザイナーに対しては、ビジネスオンチなデザイナーを育ててしまわないよう、普通のビジネスパーソンと同じような育成や啓蒙をしないといけないな、とよく思う。

私が経営するベイジという会社の育成・評価制度にも、そうした考え方は色濃く反映していきたい。

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