【中国のゲーム規制】なぜ規制?政府の狙いとゲーム産業への影響を解説

中国政府は、ゲームに対しての規制を強化し続けており、経営難に陥るゲーム会社も珍しくありません。ゲーム会社は海外展開を進めるなど生き残りをかけた新たな経営戦略を練っています。今回は、そんな中国のゲーム規制に関して、政府の狙いと企業の動向の側面から解説します。

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目次

中国のゲーム規制の概要と政府の狙い

中国のゲーム規制の概要

2021年8月30日、中国当局は、18歳未満のユーザーがオンラインゲームをする時間を定めた新たな制限を発表した。この発表によると、未成年のオンラインゲームユーザーは、祝日、金曜日、土曜日、日曜日の午後8時から午後9時までしかプレイできない。

2019年にはすでに、18歳未満の子供たちは、平日は1日1時間半、週末と祝日の日中は3時間に限るというオンラインゲームの時間規制が発表されている。これらの時間外は、ゲーム会社は子供にオンラインゲームサービスを提供することを禁止されていた。2021年の発表は、時間規制をさらに厳格化したものである。

また、ゲームを提供する企業は、本名でユーザー登録がされているかどうか確認する必要があり、未成年であることも登録する必要があるとしている。規制に違反した者に対する罰則はないが、国は、ゲーム会社に対して、未成年者が制限に従うことを保証する責任を課している。ゲーム会社は、顔認証などのテクノロジーを活用し、ルールが確実に守られるよう模索している。

中国政府のゲーム規制の狙い①~ゲーム依存症の対策~

National Press and Publication Administration(国家新闻出版署)は、ゲーム規制をする理由として、未成年の精神的・肉体的な健康を守るためとしている。中国ではゲーム依存症が問題となっており、2018年には中国の未成年の30%以上がゲーム依存症に苦しんでいるとされる。また近視の増加も懸念されている。

国営メディアによると、中国の未成年者の約62.5%がオンラインでゲームをプレイすることが多く、未成年のモバイルゲームユーザーの13.2%が平日に1日2時間以上モバイルゲームをプレイしている。2017年、Tencent Holdingsは、主力のモバイルゲーム「王者栄耀」の一部未成年ユーザーのプレイ時間を制限した。これは、子供が中毒になっているという親や教師からの苦情への対応であった。

2021年に発表された新たな制限で、未成年がオンラインゲームをできる時間は週約3時間(金・土・日・祝日の午後8時から9時まで)とされ、2019年に発表された制限よりも厳しくなった。

長時間オンラインやインターネットを使用し「ゲーム依存障害」となった若者に対する、治療と軍事訓練を組み合わせたクリニックも存在している。ゲーム規制をする理由の1つは、このような若者のゲーム依存をなくし、勉学やスポーツに興味を向けさせ国力を上げる目的がある。

中国政府のゲーム規制の狙い②~特定企業の市場独占の解消~

中国のゲーム業界は、コミュニケーションアプリWe chatなども手掛け、世界最大のゲーム会社であるTencentと、業界2位のインターネット企業NetEaseがシェアを大きく占めている。

中国当局がゲーム規制を強めている理由として、上記企業の独占を抑制する狙いもあるとされる。2021年、中国当局はTencentとNetEaseなどゲーム企業に対し、同業界への監督強化と違法行為の検査を開始する計画を命じた。

近年、中国当局は主にTencentなどインターネット大手企業に対して、独占禁止の観点から規制を強めている。例えば2021年、Tencent系列のゲーム動画配信サイト「虎牙(Huya)」と「闘魚(Douyu)」の合併計画を認めないことを発表した。虎牙と闘魚は中国のゲーム動画配信市場で1、2位を占める。当局は両社が合併すれば市場シェアは7割を超え、 Tencentの市場支配が強まり、公正な競争を妨げると指摘している。

ただ実際は、今回のゲーム規制で苦しむのは大手企業よりも、その他の小規模企業への影響のほうが大きいのではないかともされている。実際に、ゲームの新規ライセンス発行が一時停止したことなども含め、2021年には14,000を超える小さなスタジオとゲーム関連企業が倒産したとされている。

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3つの側面からみた中国のゲーム規制

企業に対するゲーム規制

中国国内のビデオゲームライセンスを担当するNational Press and Publication Administration(NPPA)は、2022年4月11日に新たに45タイトルのゲームリストを発表した。これまでしばらく新規ライセンス発行は停止していた。

2018年、ゲーム業界の規制を担当する新たな部署としてNPPAが設立された。NPPAは、市場に参入する新しいゲームに対する国の承認プロセスを一時的に停止し、その改善に取り組んだ。承認の一時停止は同年の4月から12月までの9か月間続いた。

NPPAは2018年12月にゲームの承認を再開。同月に中国のゲームは最初の評価をクリアしたが、外国のゲームは2019年4月まで待つ必要があった。同月を通して、NPPAは999の国内ゲームを承認し、海外からは30ゲームしか承認しなかった。政府は、「独創性、文化、社会的責任の欠如、価値観の誤った方向性」が広まっていることから、ゲームコンテンツの新たな重要性を明確にした。

2017年には9,369のタイトルを承認していたが、2018年には2,000超、2021年には755のタイトルしか承認されなかった。政府の厳格な管理と恣意的な禁止は、中国のゲーム会社にとって市場の不安定性と失業につながる可能性がある。特に大企業ではなく小規模なゲーム会社は経営が不可能となる恐れもある。

コンテンツに対するゲーム規制

中国でゲームライセンスの申請が却下される原因となるゲーム内コンテンツの概要を以下に示す。モバイルゲームに次のようなコンテンツを含めることはできない。

・中国国家、軍隊、政府、社会主義の指導者を中傷または侮辱すると解釈されるもの
・台湾、香港、南シナ海、中国の確立された国境や政治的実体を実際の地図または架空の地図で誤って表現するもの
・現代、歴史、または中国に関する歴史的事実を歪曲するもの
・国家機密と機密情報を開示するもの
・ファシズムを促進し、戦争、暴力、または犯罪活動を称賛するもの
・猥褻またはポルノ、ヌード、同性愛、一夫多妻制、姦淫、または性的タブーを含むあらゆる形態のセックスを描写するもの
・拷問、死体、骸骨、あらゆる色の血、大量破壊など、暴力、恐怖、残虐行為を助長するもの
・他人を侮辱したり、法的権利や利益を侵害したりするもの
・未成年者や犯罪組織が関与する法律や犯罪の違反を助長するもの
・麻薬の使用または麻薬の密売を促進するもの
・ギャンブルまたはギャンブル機器、ゲームポイント取引、交換、または「仮想通貨」の形での現金と財産の交換を偽装するためのサービスを提供するもの
・未成年者にタバコやアルコールの使用、結婚、または未成年者に不適切なその他の行動をとるように勧めるもの

プレイヤーに対するゲーム規制

中国でオンラインゲームをプレイするには、すべての年齢のユーザーが本名と国民ID番号を提供する必要がある。前項までに挙げたとおり、2021年に発表された新たな制限で、未成年がオンラインゲームをできる時間は週約3時間(金・土・日・祝日の午後8時から9時まで)とされている。

また、2019年から引き続き行われている規制として、未成年者のゲーム内の購入制限がある。すべてのゲームとプラットフォームにわたって、出版社ごとに子供1人につき適用される。
 >0〜8歳:ゲーム内購入は許可されていない。
 >8〜16歳:月額200人民元、取引あたり50人民元。
 >16〜18歳:月額400人民元、取引あたり100人民元。

本名と国民ID番号でログインした場合、その情報が中国政府の認証システムと照合される。未成年者は特定され、指定の時間にならないとゲーム画面を開くことができなかったり、指定の時間を過ぎると自動的にゲーム画面が切り替わるなどの対応がゲーム会社によって行われる。

また未成年者の保護者は、子供のゲーム時間を監督し順守するよう努めることが期待されている。しかし、これらの制限がある中で、一部の未成年ゲーマーやその親は、成年者の氏名やIDを使用してログインしたりなど、規制の潜り抜けも行われている。

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中国のゲーム規制を受けた主要企業の動向

Tencent

世界最大のゲーム会社であるTencentは、投資や買収を通じて成長し続けている。2021年5月10日の時点で、Tencentは51のビデオゲーム関連の取引を成立させ、2019年のゲーム関連の取引数の5倍以上となった。

Tencentは、2021年5月10日時点で成約した51の取引のうち、39件は国内企業、12件は海外企業である。12社の外国企業のうち5社は韓国に拠点を置き、主にPCおよびモバイルゲームの開発分野で活躍している。

2020年以前は、Tencentのゲーム業界への投資はやや保守的であり、ヒットゲームまたはサービスが確立されている企業を支持していた。しかし2020年、投資戦略は市場の変化に基づいて進化している。

Tencentは、ゲームへの投資を成長セグメント、特にアニメコンテンツのファンや女性ゲーマーに広げている。また、既存の大企業だけでなく、小規模企業にも投資を進めている。

NetEase

中国第2位の大手ゲーム企業であるNetEaseは、香港での二次上場を通じて210.9億香港ドルを調達した。それを背景に、世界のユーザーにアピールするために「ハリーポッター」や「ロードオブザリング」など有名なフランチャイズを利用し、積極的に国際展開を進めている。

2020年、「指輪物語:戦争への上昇」というタイトルのゲーム開発を発表した。このゲームは、2019年に「ハリーポッター:魔法の目覚め」をワーナーブラザーズインタラクティブエンターテインメントとともに開発した、同社との第2弾コラボレーション企画である。

NetEaseのグローバル戦略は、まず有名ブランドとの契約を行うこと、次にゲームスタジオの少数株式を取得することであると、同社は新聞社に語っている。

Baidu

百度(Baidu)は中国の検索インターネット企業大手である。近年は、ゲームメーカーとしても存在感を高めている。

2021年に発表したゲーム事業の要点として、①開発会社への委託開発・独占配信 ②自社開発・自社運営の強化 ③グローバル展開を挙げている。

2022年4月、中国のゲーム関連のライセンス発行を担うNational Press and Publication Administration(国家新闻出版署・NPPA)は、45のゲームライセンスを承認した。そのうちの1つが、Baiduが手掛けるものであった。一方でTensentやNetEaseなどの業界最大手企業はライセンスの承認をされていない。

Baiduは中国検索シェアトップで資本力もあるため、今後ゲーム業界でシェアを奪えるか注目すべき企業である。

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中国のゲーム産業の今後の動向

国内市場の鈍化と海外展開

中国のゲーム業界の動向として、規制強化により国内の成長が鈍化すると予測される中で、海外展開に目を向ける企業も多くなっている。

サウスチャイナモーニングポスト紙によると、米国とヨーロッパは、中国のビデオゲーム会社の海外展開の主な焦点となり、149億米ドルに達すると予測される広大な市場である。

米国とヨーロッパでは、スマートフォンの普及率が急上昇しており、消費量も増加している。またこれらの市場では、モバイルゲーム業界は発展途上である。Tencentはフィンランドのモバイルゲーム開発者Supercellを買収するために86億米ドルを費やした。またNetEaseは、テキサス州オースティンで最初の米国スタジオであるJackalope Gamesを立ち上げた。

上海を拠点とするコンサルタント会社Changerのデータによると、中国で開発されたゲームの海外売上高は、2020年から16.6%増加し、2021年は180億米ドルに達している。

海外展開に向けた課題と対応

中国国内のゲーム規制の強化により、海外への拡大を検討するゲーム会社も存在する。NPPAによる新規ゲームライセンス発行が一時止まっていた間、多くの中国のゲーム会社が海外でのタイトル公開に軸足を移した。

ライセンス発行が承認されたゲームは、2017年には9,369タイトルもあったが、2018年には2,000超、2021年には755しか承認されなかった。この傾向は、規制当局が毎年発行するライセンスが少なくなることを示しており、「中国本土で公開できるゲームの数も減少している」ことを示唆している。

中国のゲーム企業にとって海外市場は魅力的でもあるが、課題も多くある。国際市場は規制が不確実であり、各国の規制に沿って進めなければならない。したがって、制作するゲームがその国にとって違法とならないよう、ローカリゼーションにより多くの時間が必要になる。

また海外のユーザーと中国国内のみのユーザの好みは全く異なるため、中国国内でヒットしたゲームをそのまま海外展開してもヒットしない可能性が高い。それでも、欧米の才能あるゲームクリエイターや企業が中国のゲーム会社へ移ることで、ニーズのギャップも埋まっているとされる。

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