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世界最長距離のフライトが豪で誕生間近。国際線の日本史と世界史

今までに経験したフライトの中で、最長距離を直行で飛んだ路線はどこになるだろうか。

定期旅客便化されている日本からの最長国際線は、ANA(全日本空輸)、およびメキシコのアエロメヒコ社が運航する成田・メキシコシティ線だ。ボーイング787-8型機で約1万1270キロを直行する。

ただ、もっと長い距離を飛ぶ飛行機が世界にはあり、その最長路線はさらに近々、オーストラリアのカンタス航空によって更新されようとしているらしい。

カンタス航空LGBTQI+ コミュニティのサポーターとしての特別機Pride is in the Air

そこで今回は、航空ジャーナリストの北島幸司さんに、長距離フライトの歴史と未来を教えてもらった(以下、北島幸司さんの寄稿)。

直行で行けない場所は地球上になくなる

オーストラリアのナショナル・フラッグ・キャリアであるカンタス航空をご存じだろうか。100周年を迎えた世界最古のエアラインの1つだ。

1920年(大正9年)に、オーストラリア北東部のクイーンズランド州で、創業地名を冠した「クイーンズランド・アンド・ノーザンテリトリー・エアリアル・サービス」として産声を上げた。

ブリスベーン北西1100キロ位置するクイーンズランド州ロングリーチが創業の場所となる。

そのカンタス航空で数年内に、シドニーからロンドン、およびニューヨークという世界最長路線を直行で結ぶ予定で路線調査が進んでいる。

その直線距離はそれぞれ、およそ17,019キロ、16,013キロだ。この路線がどれだけ長いかを日本の視点で考えてみたい。

ロンドンから日本へ帰国すると14時間ほどのフライトでクタクタになって到着する。そこから、乗り継ぎでシドニーまでの9時間ほど搭乗すると思ってほしい。

身体的にかなりキツイ行程ではないだろうか。この区間に近い距離を直行で飛ぼうとしている。この直行路線が開設されれば、世界で飛べる場所がなくなるほどの超長距離飛行になる。

10人乗りのプロペラ機で始まったカンタスの国際線

実は、このカンタス航空、航空業界における長距離路線の誕生と変遷に大きく関与している。

ブリスベーンとシンガポールを結ぶ旅客便を初めて就航させ、英国海外航空(British Overseas Airways Corporation)のロンドン線に接続した1935年(昭和10年)まで、同社の長距離路線の起源はさかのぼる。

当時、機体は、デハビランドDH86機というプロペラ機が使われた。10人乗りのこの機体が、初期のカンタス航空の国際線を支えた。

その後、カンタス航空は、1947年(昭和22年)から、ロッキードスーパーコンステレーションというプロペラ駆動の旅客機でオーストラリアからロンドンへの全路線を運航した。

この路線では、途中7都市を経由した。ロンドンとシドニー間で、オーストラリア北部のダーウィン、シンガポール、コルカタ(現・カルカッタ)、パキスタンのカラチ、カイロ、リビアのトリポリにあるカステル・ベニート、ローマを経由し、目的地のロンドンまで58時間で結んだ。直行ではないが、総飛行距離はおよそ19,346キロだ。

経由地を何度も「ホップ」するため、飛び跳ねるカンガルーの動きにちなんで「カンガルールート」と名付けられた。同社も、次世代のフライトとして大々的に宣伝した。

1959年(昭和34年)には機材をジェット化する。具体的には、ボーイング707-100Bで、タヒチ・メキシコ・カリブ海と、太平洋、および大西洋を越えて、ロンドンと結ばれるルートを開発した。

1979年(昭和54年)には、ボーイング747-200Bジャンボジェットを導入し、従来のアジア、中東を経由するルートに戻して、シンガポール・バーレーンを経由し目的地を目指した。

ボーイング747-200のジャンボジェット。カンタス航空創業地ミュージアムにて。

1989年(平成1年)8月16日には、ボーイング747-400を導入し、その航空機をロンドンに配置して、ロンドン西部のヒースローからシドニーまで直行で飛んだフライトもある。その際の乗客はわずか18名で、飛行時間は20時間9分だった。

現在、カンタス航空の主力便であるQF1便はエアバスA380型機で、シンガポールを経由しシドニーからロンドンに就航している。

カンタス航空はまた、2017年(平成29年)から、ボーイング787-9ドリームライナーを使用し、その翌年からは、パース・ロンドンの直行便を毎日運航している。

わが国において国際線を確立したJALの歴史

カンタス航空機から見た多くの僚機。シドニー空港にて

現在は、シンガポールを経由してシドニーからロンドンへ向かうQF1便は、カンタス航空の栄えある便名となっている。

その歴史は、同じワンワールドアライアンスに所属し、わが国において国際線を確立したJAL(日本航空)のJL1便と比較すると、より理解が深まる。

JALの国際線史は、1954年(昭和29年)に始まる。JL1便を冠した初の国際線をダグラスDC-6を使用し、東京羽田からウェーキ島、およびホノルル経由で、サンフランシスコまで就航させた。飛行距離は、およそ10,748キロだ。

その後、使用機がダグラスDC-7Cになり、ホノルルまで直行となった。

ジェット化は、カンタス航空より1年遅れの1960年(昭和35年)となる。ダグラスDC-8-53を就航させている。

1970年(昭和45年)には、ボーイング747ジャンボジェットが登場し、1990年(平成2年)には、ボーイング747-400が導入された。

2002年(平成14年)には、ボーイング777-200ERが仲間に加わり、2004年(平成16年)に、ボーイング777-300ERが配備される。さらに、ボーイング787-8が2012年(平成24年)に導入され、現在に至る。

ちなみに今では、JAL(日本航空)が運航する最長路線はサンフランシスコではなく、羽田(東京)・ニューヨーク(アメリカ)線で10,887キロとなっている。

世界最長フライトでは乗務員のウェルネスも工夫される

カンタス航空とJAL(日本航空)の比較で言えば両社には、共同運航の歴史もある。1986年(昭和61年)4月に始まり、すでに37年が経過する長い提携関係だ。

現在も、同じワンワールドアライアンスの中核エアラインを成し、アジア・オセアニア地区のエアラインの代表として切磋琢磨(せっさたくま)する友好関係を続ける。

アボリジナルピープル(先住民族)の画家、故パディベッドフォードの作品にインスピレーションを得たフライングアートシリーズ4番目の航空機〈メンドゥウールジ〉

機材に関しては、ボーイング747、787、および将来の両社のフラッグシップとなるエアバスA350-1000が共通している。しかし、その飛行距離は、カンタス航空の方が長い。歴史的に見ても、カンタス航空の方が早く開拓した。

話は、数年内に誕生する世界最長路線に戻る。

このドニーからロンドン、およびニューヨークという世界最長路線について調べるために筆者は、カンタス航空を利用してシドニーへ取材に出掛けた。

羽田空港から毎日2便が就航する夜間便を利用した。たまたま、日本と親交の深い客室乗務員にサービスを受ける機会があった。

客室乗務員は、カスタマーサービススーパーバイザーのティモシーさんで以前、東京都青梅市に1年間短期留学していたそうだ。

カスタマーサービススーパーバイザーのティモシーさん

今でも、東京便に乗務する時には、ホームステイ時の家族と酒を酌み交わすという。日本語も流ちょうだ。

自然に話が弾み、カンタス航空の長距離路線への備えに及んだ。

「お客さまへの長距離飛行への影響を研究するだけでなく、乗務員のウェルネスも工夫されます。

機内専用レストも快適になるようで、休憩時間、現地ステイ時間、乗務頻度もいろいろ考えられつつある状況です。

それらも含め、なかなか経験のできない長時間の乗務が楽しみです」

と言う。 さらに、カンタス航空は、シドニーからロンドン、ニューヨークへの直行便の実現に尽力しながら、シドニーからリオデジャネイロ、ブリスベーンからシカゴといった超長距離路線のチャンスもうかがっている。

JAL(日本航空)の長距離路線の未来を考えた時、地球の裏側のブラジルへの就航は航空機が埋まるほどの旅客が見込めないため実現は厳しい。そうなると、現在以上の長距離路線の誕生はないだろう。

一方のカンタス航空はまさに、ロングリーチで世界をつなげようとしている。歴史的に見ても、これからの未来を考えても、長距離フライトなら「カンタスに聞け」である。

オーストラリア旅行の際には、そのあたりの歴史を踏まえながらカンタス航空に搭乗すると、移動の時間もより深く楽しめるのではないだろうか。

[写真・文/北島幸司]

航空会社勤務歴を活かし、雑誌やWEBメディアで航空や旅に関する連載コラムを執筆する航空ジャーナリスト。YouTube チャンネル「そらオヤジ組」のほか、ブログ「あびあんうぃんぐ」も更新中。大阪府出身で航空ジャーナリスト協会に所属する。Facebook avian.wing instagram @kitajimaavianwing

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