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HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

閉店ドミノの回避策は。

2020-09-09 06:32:14 | Weblog
 ちょうど、2年前の9月末だった。三越伊勢丹HDが傘下におく「伊勢丹相模原店」「伊勢丹府中店」「新潟三越」の営業終了を発表した。この時は大手百貨店のニュースだったため、正直、インパクトは凄まじかった。しかし、百貨店がかつてのような栄光を取り戻す要素はほとんどなく、営業不振が続く地方店は重荷でしかない。これ以降、独立系の地方百貨店までもが堰を切ったように閉店している。構造改革に踏み出せない体質と中間層没落による市場の縮小を鑑みると、閉店ドミノは日常化しても不思議ではない。

 この2年で、ざっと以下の地方百貨店が閉店を余儀なくされている。

○山口井筒屋宇部店(2018年12月31日)
○コレット井筒屋(2019年2月28日)
○井筒屋黒崎店(2019年5月31日を2020年8月17日)
○西武大津店(2020年8月31日)
○西武岡崎店(2020年8月31日)
○そごう西神店(2020年8月31日)
○そごう徳島店(2020年8月31日)





 来年には「恵比寿三越」「そごう川口店」「松坂屋豊田店」の閉店が決まっている。また、「西武福井店」「西武秋田店」は営業面積を縮小して収益性の向上を図るというが、存続できるかは予断を許さない。地方は人口減少が続き、郊外にはショッピングセンターやロードサイド店などが林立する。中心部の百貨店までわざわざ出向かなくても、買い物はこれらの店舗で十分に事足りる。ましてインターネットで何でも購入できる時代だ。

 すでに地方百貨店はブランドリーシングでも限界があり、あの程度の品揃えでは購入に至らなくなった顧客もいるはず。拘って選り抜かれた逸品が買えるのは大都市の百貨店で、採算ベースに乗せるのが難しい地方店にそれを求めるのは酷だ。一定の需要があるデパ地下の食材やワインとて、カルディコーヒーファームのような業態が十分にフォローしてくれる。包装紙がカギと言われるお歳暮やお中元にしても、ネットやコンビニで注文できるようになった。

 それらが尚更、地方百貨店の客離れを助長する。このまま何も手を打たなければ、どんな百貨店と言えど、安泰ではなくなるかもしれない。


百貨店の跡地利用はうまくいっていない

 閉店した百貨店を見ると、だいたい年商150億円が黄色信号で、100億円をきると営業終了の赤信号が点滅する。井筒屋黒崎店は2018年2月期の売上高が約129億円。この時、「閉店を検討している」との報道があったが、19年8月には売場を5フロアに縮小して営業を継続した。ところが、建物を管理するメイト黒崎が今年1月24日に破産を申請し、専門店街も4月30日での閉店を発表。井筒屋のみが残留する予定だったが、集客減は否めず閉店を決断した。

 西武大津店は2019年2月期の売上高が99億7200万円、西武岡崎店は同じく84億4100万円で、閉店決断は妥当なところ。営業面積を縮小する西武福井店は2019年2月期の売上高が115億5500万円と100億越えだが、西武秋田店は同期で売上高は93億1800万円。売上げ回復で収支トントンに乗せるには稼ぎ頭が欠かせない。果たしてそれが可能なのか。



 また、閉店後の再生計画では、公共施設とテナントをシンクロさせて活性化を図るものもある。2009年に営業を終了した久留米井筒屋は周辺と一体で再開発され、16年にコンサートホールやコンベンション機能、そして物販や飲食テナントを加えた低層の「久留米シティプラザ」に生まれ変わった。

 ところが、開業からわずか2年の2018年にはハンバーガー店、靴メーカー「ムーンスター」の「コンセプトギャラリー」が退店。さらに梅の花が運営する鉄板焼の「六角庵」、定食屋「満天」も売上げ不振で閉店するなど、苦戦を強いられている。



 現在はコンビニ、保険代理店、音楽教室、老人ホーム紹介センターを除き、飲食業態3店、ファッション専門店、ケーキ店、六角庵後に出店した楽器店は、すべて地元テナントだ。計画の段階で自治体からたっての出店要請があったと思われるが、旺盛な集客力をもつ顔ぶれとは言い難い。また、コンサートホールなどのイベント施設は稼働日が限られるため、盛んに利用募集がなされている。これでは相乗効果さえ疑わしく思えてしまう。

 更地にして複合ビルに作り替えるだけでは、中心部への集客は限られる。久留米シティプラザを見れば活性化にはほど遠い状況で、他の地方都市でも同じ轍を踏まないとも限らない。そのまま営業を続ける店舗でも、近鉄百貨店の和歌山店や伊勢丹浦和店、丸井今井函館店などは、好調とは言い難い子供服で空いた売場を埋める急場しのぎ。抜本的な戦略などあったものではない。

 さらにコロナ禍が百貨店を直撃している。商業施設の売上げ状況を見ると、はっきり明暗が分かれている。営業が再開された6月はセールの前倒しと定額給付金の恩恵で、各店舗とも売り上げは回復傾向にあった。ただ、その内訳を見ると、郊外のSCが順調に挽回する一方、大都市の百貨店は依然として大きく落ち込んだままだ。

 SCは既存店売上高が前年同期比で15%減と、5月の61.4%減から大幅に回復。しかし、百貨店は三越伊勢丹が同22.5%減(5月は91.8%減)、大丸松坂屋百貨店が同28.0%減(同72.7%減)、阪急阪神百貨店が同21.4%減(全店64.1減)。回復はしたものの、SCには及ばない。さらにウィズコロナの環境下ではインバウンドの回復にも時間がかかるし、リモートワークの浸透で大都市への通勤者減少は否めない。三越伊勢丹のような都市型百貨店が従来の売上げを取り戻すにはかなり難しい状況だ。


デジタル化で具体的に何をするのか

 6月の売上高では、伊勢丹立川店が前年同期比8.5%減、伊勢丹浦和店が同7.6%減。大丸須磨店が同5.3%減、松坂屋高槻店が同18.3%減と、総じて地方百貨店の方が落ち込み幅は小さい。コロナ禍により「通勤や買い物で大都市まで出かけない」「近場の百貨店で済ませる」という消費行動の変化が影響したと思う。だが、それを今後の売上げ挽回につなげるには、やはり品揃えやサービスで、新たな戦略を打ち出さないと厳しいだろう。

 百貨店経営者の中には、「デジタル化を進める」という人がいるが、デジタルの利点は「双方向のやりとり」ができること。そのメリットを最大限に活かすには、お客が大手百貨店のサイトで注文した商品を近くの系列店で購入できるなどの仕組みが求められる。何も自店に商品を置く必要はないのだ。百貨店単体で勝てる時代ではないのだから、多面的なサービスに踏み込んでお客を集め、活路を見出すしかない。

 地方百貨店が苦戦しているのは、品揃えに満足できず購入しなくなった顧客がいるからだ。ならば「大都市の有名百貨店には行けないけど、そこにしかない商品が自宅で注文できて最寄りの百貨店で受け取れるのなら、購入してもいい」というニーズをもっと深掘りすべきではないか。ウィズコロナは大都市の消費を地方に分散させる。それをドーナツ化と呼ぶ人もいるが、地方百貨店にとっては小売り原点に帰るチャンスでもある。

 先日、J・フロントリテイリングの好本達也社長が「コロナ戦略」というテーマで、サンデー毎日×エコノミストのインタビューに答えていた。そこでは「地方店の生き残りの処方箋」について「書店などのテナントで集客力を高め、利用客を地下の食品売り場へ誘導する取り組みなどを考えています」と、語っていた。松坂屋豊田店はそれが難しいから閉店する決断に至ったのだという。(https://news.yahoo.co.jp/articles/b369f6bfac7a1fbccfe3d9d668bd560c426d6ea3?page=2)

 だが、そもそも上階にカルチャー系などのテナントを入れて集客し、地階の食品売り場に誘導する「シャワー効果」こそ、遺物のような戦術だ。令和の時代、ウィズコロナの状況下で、未だにそんな愚策で売上げが挽回できると考える経営感覚には驚かされる。結局、脱・百貨店を声高に叫んでも、パルコのような業態をグループ傘下に収めてポートフォリオを整え、本店は高層化して不動産効率を高める。あとはテナントを入れて歩率家賃を稼ぐしかないようだ。

 地上8階、地下1階、営業面積3万㎡以下。もうこのような規模の地方百貨店が求められる時代ではない。それは誰の目から見てもわかることだ。では、どう改革するのか。抜本的でポジティブな戦略を語れる経営者は見当たらない。ウィズコロナを千載一遇のチャンスと見て、ドラスティックな改革に踏み出さなければ、地方百貨店の閉店ドミノは避けられない。
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