今年は例年になく肌寒い。2月も半ばを過ぎればとっくに春の装いでいけるのに、まだレザーが重宝している。
ただ、年が明ければ業界も私の頭も春色一色。どうしても現物が気になってくるのだ。
何か「ゾクッ」と来るアイテムはないかと、2月半ばのある日、リサーチをかねて店巡りをしてみた。 昨今の
百貨店にはあまり期待できないので後回しにするとして、ストリ-トのカジュアル、インポートや外資のSPA、
そして大手のセレクトショップを順に見た。
大方のトレンド予測は、欧米コレクションから「ミリタリー」「ミニマル」「ランジェリー」「ジオメトリッ
ク」だが、実際の店頭は昨年とさほど変わらない「フレアライン」や「フェミニン」なテイストばかり。
さらに大手セレクトでさえ、店頭では価格も昨年より5~10%程度下げている。それでいて気候のせいか、動
きは芳しくない。一角には冬物の在庫も残っている始末。これでは今年も早期のデフレ克服は図れそうもないよ
うに思う。
レディスを一通り見終わると、メンズも押さえておこうと、めったに立ち寄らないジャーナルスタンダードや
UAのビューティユースなどに足を運んだ。JSやBYはショートジャケットやハーフパンツなど少しクセのある商
品もあるにはあったが、ビームスはプレッピーをストリートで焼き直ししたアイテムが主流だ。
でも、そんなビームスでいちばん目を引いたのは商品ではなく、「丸刈り、筋肉質の身体をジャケットスタイ
ル」で包んだ御仁。一目ですぐに「その人」とわかった。伊勢丹出身で、福助の再建を果たし、セブンアンドア
イの商品改革も手がけた人物。かの「藤巻幸夫」氏である。
商品を見るふりをしながら、心の中では「あッ、藤巻さんだ」と叫ぶ。声をかけるには一瞬ためらったものの、
ここぞとばかり「失礼ですが、藤巻幸夫さんですよね」と切り出した。
するとどうだろう、すぐに大きな目から笑みがこぼれ、「いや~、よくご存知で。講演で来たんですが、服が
好きなもんでいろいろ立ち寄るんですよ」と気さくな応えが返ってきた。
「業界メディア等でよく拝見しています」「麻布のお店はいかがですか」とこちらが尋ねると、ポケットから
輪ゴムで束ねた名刺をさっと差し出し「西麻布のシャツの店ね。他にもいろいろやっているもんで」と。
スタッフの接客中にも関わらず、初対面のこちらにこうも腰の低い対応。伊勢丹のバイヤーや福助のトップを
経験したにも関わらず、業界人然としたところなんか微塵も感じさせない。むしろ、「豪放磊落と」いった形容
詞がぴったりなお方のようである。
「ディレクターさんか何かですか」と逆に尋ねられ、「ええ、まあ。時々業界誌にも原稿を書いています」と
応えると、「だから、カッコいいんだ」とお褒めの言葉までいただいて、こちらの方が恐縮してしまった。
「今、ファッション業界は厳しいから、いろいろお仕事が来ているんではないですか」「特に百貨店とか」と
こちらもすぐに取材モード。
「ええ、いろんな案件も来ているんですが…」。やはり実績通り、藤巻さんに対する信頼は厚いようだ。
「イトーヨーカドーを手がけられたんで、お分かりでしょうが、他の業態までチープ商品ばかりではいけない
と思うんです。最近、何か服が面白くないですよね」と間髪入れずに聞き返すと、「そうだね。いいものを長く
着るということを考え直さないと。シャツの店クラムはそんなコンセプトで作ったんですよ」と、藤巻さん。
ほんの数分の会話だったが、実に密度の濃い話ができて、自分の服探しなんてどうでもよくなった。
東京生まれでトラッドなキレカジ。ファッションリーダー的百貨店のバイヤーとして、世界中で商品を買い付
け、解放区というメーカーの枠を取っ払った売場を作った藤巻さん。伊勢丹が誇る人材育成は、藤巻さんのよう
な素質があって花開いたのかもしれない。
片や、博多生まれでDCブランド系。マンションメーカー、小売り、デザイン会社を経て、プレス事務所でディ
レクターの経験を積み、フリーとなった自分。ファッションに対して妥協しない面はこちらだって決して引けを
取らない。
育ちもキャリアも全く違う二人が「服について語れば、共通項が見いだせる」。ほんのちょっとながら濃密な
時間を過ごせたことに感謝を表したい。気分が良かったので、今回の辛口評論はお休みにしておこう。
ただ、年が明ければ業界も私の頭も春色一色。どうしても現物が気になってくるのだ。
何か「ゾクッ」と来るアイテムはないかと、2月半ばのある日、リサーチをかねて店巡りをしてみた。 昨今の
百貨店にはあまり期待できないので後回しにするとして、ストリ-トのカジュアル、インポートや外資のSPA、
そして大手のセレクトショップを順に見た。
大方のトレンド予測は、欧米コレクションから「ミリタリー」「ミニマル」「ランジェリー」「ジオメトリッ
ク」だが、実際の店頭は昨年とさほど変わらない「フレアライン」や「フェミニン」なテイストばかり。
さらに大手セレクトでさえ、店頭では価格も昨年より5~10%程度下げている。それでいて気候のせいか、動
きは芳しくない。一角には冬物の在庫も残っている始末。これでは今年も早期のデフレ克服は図れそうもないよ
うに思う。
レディスを一通り見終わると、メンズも押さえておこうと、めったに立ち寄らないジャーナルスタンダードや
UAのビューティユースなどに足を運んだ。JSやBYはショートジャケットやハーフパンツなど少しクセのある商
品もあるにはあったが、ビームスはプレッピーをストリートで焼き直ししたアイテムが主流だ。
でも、そんなビームスでいちばん目を引いたのは商品ではなく、「丸刈り、筋肉質の身体をジャケットスタイ
ル」で包んだ御仁。一目ですぐに「その人」とわかった。伊勢丹出身で、福助の再建を果たし、セブンアンドア
イの商品改革も手がけた人物。かの「藤巻幸夫」氏である。
商品を見るふりをしながら、心の中では「あッ、藤巻さんだ」と叫ぶ。声をかけるには一瞬ためらったものの、
ここぞとばかり「失礼ですが、藤巻幸夫さんですよね」と切り出した。
するとどうだろう、すぐに大きな目から笑みがこぼれ、「いや~、よくご存知で。講演で来たんですが、服が
好きなもんでいろいろ立ち寄るんですよ」と気さくな応えが返ってきた。
「業界メディア等でよく拝見しています」「麻布のお店はいかがですか」とこちらが尋ねると、ポケットから
輪ゴムで束ねた名刺をさっと差し出し「西麻布のシャツの店ね。他にもいろいろやっているもんで」と。
スタッフの接客中にも関わらず、初対面のこちらにこうも腰の低い対応。伊勢丹のバイヤーや福助のトップを
経験したにも関わらず、業界人然としたところなんか微塵も感じさせない。むしろ、「豪放磊落と」いった形容
詞がぴったりなお方のようである。
「ディレクターさんか何かですか」と逆に尋ねられ、「ええ、まあ。時々業界誌にも原稿を書いています」と
応えると、「だから、カッコいいんだ」とお褒めの言葉までいただいて、こちらの方が恐縮してしまった。
「今、ファッション業界は厳しいから、いろいろお仕事が来ているんではないですか」「特に百貨店とか」と
こちらもすぐに取材モード。
「ええ、いろんな案件も来ているんですが…」。やはり実績通り、藤巻さんに対する信頼は厚いようだ。
「イトーヨーカドーを手がけられたんで、お分かりでしょうが、他の業態までチープ商品ばかりではいけない
と思うんです。最近、何か服が面白くないですよね」と間髪入れずに聞き返すと、「そうだね。いいものを長く
着るということを考え直さないと。シャツの店クラムはそんなコンセプトで作ったんですよ」と、藤巻さん。
ほんの数分の会話だったが、実に密度の濃い話ができて、自分の服探しなんてどうでもよくなった。
東京生まれでトラッドなキレカジ。ファッションリーダー的百貨店のバイヤーとして、世界中で商品を買い付
け、解放区というメーカーの枠を取っ払った売場を作った藤巻さん。伊勢丹が誇る人材育成は、藤巻さんのよう
な素質があって花開いたのかもしれない。
片や、博多生まれでDCブランド系。マンションメーカー、小売り、デザイン会社を経て、プレス事務所でディ
レクターの経験を積み、フリーとなった自分。ファッションに対して妥協しない面はこちらだって決して引けを
取らない。
育ちもキャリアも全く違う二人が「服について語れば、共通項が見いだせる」。ほんのちょっとながら濃密な
時間を過ごせたことに感謝を表したい。気分が良かったので、今回の辛口評論はお休みにしておこう。