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HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

高架下でメジャー復権。

2020-09-30 06:43:21 | Weblog
 かつて一世を風靡した「VAN」。米国・東海岸のキャンパスファッションを手本に、着こなしからライフスタイルまで徹底して拘った日本生まれのメンズブランドだ。筆者より10歳以上年上の洋服好き、中でもアイビー派の方々には垂涎の的だった。今でも偶にロゴ入りのスタジャンを着た人を見かけるが、それだけ根強い人気があるのだと思う。

 一方で、誕生から70年もの間には紆余曲折があった。発売元の(株)ヴァンヂャケットは、70年代までは順調に売り上げを伸ばしたが、ブランド拡大や多角化が災いして1978年に会社更生法の適用を申請し倒産した。80年に設立された新会社のヴァンヂャケットは、旧会社がもつ商標権を継承して再建にこぎつけたが、ファッションの多様化もありメジャーブランドとして復権を図れないまま、今日に至っている。

 今から20年ほど前には、メジャー化の動きがあった。2001年、福岡でカジュアル衣料の製造卸を手掛ける「バイスコーポレーション」が新生VANのプロジェクトを主導した。同社の中村勝司社長は東京でヴァンヂャケット社長の宮川烈氏と会い、ブランドに対する思いを伝えた。当時、筆者はその内容を直接、中村社長から聞いた。以下がそれである。

 「VANは御社のものでも、石津先生のものでもありません。VANは日本の文化そのものです。VANがほしい人は今でもたくさんいます。全盛期を知っている人にも、お金がなくて買えなかった人にも、夢をかなえてもらいたいんです。今の店舗数では満足いっているとは思いません。石津先生がご健在のうちに自分でなくてもいいから、もう一度浮上させてください

 この思いに宮川社長は相当驚いたとか。そこまではっきりものを言った企業は、それまでなかったからだ。そして、中村社長は宮川社長に対して、以下のような「VANファミリーショップ」戦略を提案した。

 1.団塊ジュニアのファミリー層を主なターゲットにする。
 2.ファミリーが買えるようにアイテムを絞り込み、リーズナブルな価格にする。
 3.企画は日本、生産は中国で行う。
 4.売場面積150坪の標準店としたストア型SPAで、FC展開する等だった。





 こうしてVANはメジャー化の道を歩み始めたか、に見えた。しかし、ブランド名こそVANではあったが、中国生産が災いしてチープさは否めず、今とは違い生産管理も十分ではなかった。実際に商品を見ると、全体的に企画が大味で作り込んでいない。そのため、MDの完成度は低かった。販売担当者は「機会ロスを無くすために、商品はどんどん供給する」と、豪語した。まるでユニクロと同じ手法だ。

 メジャー化=価格を下げ、多くの人に買ってもらうのを意図したが、往年のVANを知る人からすれば、それは似ても似つかない代物だった。急速な店舗展開に販売教育が追いつかず、売り上げが伸び悩んだにせよ、結果的に「量産品に商標を付けただけ」が仇となって運営会社の(株)ベルソンジャパンは2006年3月、倒産を余儀なくされた。


ブランド復権を秘めた旗艦店出店

 ブランドが頂点を極めれば極めるほど、一度でも凋落すると再建の道のりは険しい。三井物産に買収される末路を辿ったビギ然り、クロスプラスに身売りして量販系に堕したジュンコシマダ然り。どうしてもかつてと比べられるため、少々のリニューアルや再構築では物足りない。それはVANの商標を管理するヴァンヂャケットがいちばんわかっていたのではないか。

 2000年代に入り、ヴァンヂャケットはユナイテッドアローズやコムデギャルソン、ハリウッドランチマーケットなどとコラボアイテムを企画する一方、VANショップについては百貨店とオンラインでの展開で、定番的な商品を販売した。いたって愚直な経営、地道な戦略にも見えるが、それだけではブランドバリューの浸透には限界があった。

 ただ、ブランド復権とはいかないにしても、再開発事業が続く東京ではデベロッパーから出店要請があっても、おかしくない。先日、その兆しを感じるニュースを目にした。

 「ヴァンヂャケット 日比谷に『VAN』旗艦店を開設




 である。9月10日、東京のJR有楽町〜新橋駅間の高架下に開業した商業施設「日比谷オクロジ」にテナントとして誘致されたのだ。旗艦店だから、レギュラー店とは店作りもMDも異なる。「トラディショナルな定番商品ではなく、ここでしか買えない商品」で構成したとか。しかも、VANのユーロバーション「Mr.Van」は、この店限定でモダンなテイストのドレスカジュアルとして販売するという。

 メジャー化という言葉こそ使われていないが、出店の目的は、「VANを知らない40代男性など次世代顧客の開拓を目指し、限定品や協業品、セレクト品などによって新たなイメージを発信する拠点と位置付ける」と、している。この旗艦店が軌道に乗れば、駅ビルなど30〜40代を引きつける商業施設への出店にも弾みがつくと思われる。

 オクロジ(奥路地)と言っても辺鄙な場所ではない。鉄道を支えてきた重厚な高架、朽ち果てたレンガはトラディショナルそのもので、VANとシンクロする。ここなら、すでにリタイアした往年のファンも、映画や演劇を見に行った序でに立ち寄れる。逆に新橋界隈で働く現役は歩いて覗きに来れる。大人の男性が行きつけにするには丁度いい立地だ。

 価格帯は既存のアイテムでTシャツ1万円程度。シャツ1万円台、パンツ1万円台後半〜2万円台前半。ジャケットが4〜5万円。百貨店展開では妥当なプライスラインだから、日比谷立地ではいたって値ごろと言える。他にも上質素材を使った大人が着られるTシャツが9800円、ロンTが1万2000円。パンツブランド「バーンストーマー」とのチノパン、「ブルーブルー」とのブレザーといったコラボアイテムも販売される。


セレクトショップの客層にアプローチしては

 では、40代の男性を開拓できるのか。カギになるとすれば、セレクトショップの顧客層へのアプローチではないか。日本の大手セレクトショップは、少なからずVANの影響を受けた世代が創業した。ビームスの設楽洋社長やユナイテッドアローズの重松理名誉会長がそうだ。彼らはショップを発展進化させる過程でユーロテイストも取り入れたが、根底にあるのはVANがモチーフにしたアメリカントラディショナルである。



 創業者のもとに集まった生え抜きスタッフも皆、アメリカンテイストに対する造詣が深く、そのエッセンスを品揃えの其処彼処に打ち出しながら、40代以下の若者を攻略していった。だから、この旗艦店がトラディショナルな定番商品ではなく、ここでしか買えない商品やMr.Vanのドレスカジュアルを揃えるにしても、VANの底流にあるテイストから大きく外れることはないと思う。旬を知らない世代でも、引きつける要素は十分にある。

 お客の側からしても、日本男児は老弱を問わず米国風のテイストを好む。というか、それがファッションとしてはいちばん無難でしっくり来るからだ。ところが、巷に溢れるメンズウエアはチープで妙に流行を追っかけ、クロージングは似非オーダーのスーツばかり。しかも、ヤングトレンドは、抜け感のあるシルエットに揺り戻している。

 20代から30代前半までなら、それでもいいだろう。しかし、30歳後半になり体型が崩れ始めると、あまりにルーズで見栄えが悪い。むしろ、50歳近くもなれば、米国テイストの方がお腹が出ても、カチっとして様になる。購入方法もシーズン毎に服を買い換えるより、流行に左右されないアイテムを組み合わせる方が合理的と考えるのが多数派ではないか。多少値段が割高でも、結果的にはそちらの方がお得になる。

 また、ウィズコロナでリモートワークが定着するのは間違いなく、オンオフ兼用アイテムへのニーズは高まる。ただ、GAPのように一度洗濯するとヨレてしまうアイテムを中高年が着ると、やはりだらしくなく見える。ならば、布帛のシャツにしてもニット・カットソーにしても日本人の体型を知り尽くし、ベースのパターンを受け継ぐVANの方がリモートワーク向きのアイテムになりやすいのではないか。

 ヴァンヂャケット出身の貞末良雄氏が手掛けた「メーカーズシャツ鎌倉」が人気を博しているのも、そうした理由からだ。在宅ワーク着の上にジャケットを重ねるだけのスタイルが汎用になり、オフィス出勤や営業で外出する場合もOKになると思う。その意味では、日比谷店が手掛ける「アイビーらしいディテールはそのままに背幅や肩線、袖山などを修正し、更なる着心地の良さを追求したジャケット」などにも期待が持てる。

 冬に向けてレザーブルゾンも加わるというから、ロゴマークの入ったスタジャンより一格上のスタイリングも楽しめるのではないか。今度は新たなVANフリークが銀座の中央通りを闊歩する。そんな光景が見られた時、VANの復権は現実になる。

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多店舗化するOPSの怪。

2020-09-23 05:41:34 | Weblog
 米国の「センチュリー21・デパートメント・ストアーズ」(以下、Century 21)が9月10日、連邦破産法11条の適用を申請し経営破綻した。筆者が初めてニューヨークに行った1980年代初めからよく知る店舗で、「オフプライスストア(OPS)」という名称を知ったのも、ワールドトレードセンター近くにあったCentury 21を訪れてからだ。

 米国は富の9割近くが上位2割の富裕層に集中し、国民の3割以上が貧困層と言われる。おそらく中間層の没落も日本以上に深刻ではないか。だからこそ、オフプライスビジネスが拡大すると言える。かたやCentury 21はマンハッタンの一角に旗艦店を構えていた。ストアロイヤルティを上げるには、知名度がある高価格ブランドを主体にしなければならない。

 しかし、それらの放出は限られる。ブランド側がイメージの毀損を恐れるからだ。そのため、処分をせずに取っておかれたキャリー品や、小売店のセールで売れ残った在庫品を仕入れるわけだが、これらは色や型・サイズがバラバラで、ジャストトレンド、ジャストシーズンの品揃えは難しい。きちんと編集して売場の体裁を整えたところで、どうしても品揃えの奥行きは浅くなってしまう。

 Century 21はこうした課題を抱えながらも、好景気に支えられ中間層を集客して収益を上げることができた。ところが、富裕層による富の収奪が中間層を没落させると、品揃えがネックとなって一気に影響を受ける。おまけにニューヨークはコロナ禍でエリート層がリモートワークとなり、全米からの観光客やインバウンドまでが激減した。



 ニュージャージーやペンシルベニア、フロリダの店舗も、かなりの集客減になったはずだ。それをECでカバーするにしても、端から商品の色や型・サイズが揃わないのだから、ワールドシッピングが可能でもアクセス数は上がらない。結果、コンバージョンレート(アクセス数に対する買い上げ率)も低いままだったと思う。

 一方で、米国のオフプライスストアは総じて好調に推移している。第1位はT.J.MAXXやMARSHALLSなどを展開する「TJX」で、米国の他、カナダ、ヨーロッパと3200以上を出店し、2019年は年商315億ドルで対前年比5.9%の伸びを誇る。第2位の「ROSS」は約1800店を有し、年商160億ドルで対前年比7%増。第3位の「Burlington」は700店以上の展開で、年商は72億ドル、対前年比9.6%増と、2ケタに迫る勢いだ。



 三社で550億ドルも売り上げるのだから、寡占というより鼎占(ていせん)と呼ぶ人もいる。いずれも広大な北米大陸の郊外で店舗を広げ、家賃負担を抑えている。しかも、そこそこの知名度があって値引き率が訴求でき、放出量が多いメーカー余剰品を仕入れて品揃えを組み立てている。その方が売上げが伸びて、利益率が良くなるということ。収益に貢献するビジネスモデルを作ったことが成功の要因と見て間違いない。


多店舗化するオフプラスストアはまやかしか

 日本でも今、オフプライスストアが注目されている。バブル景気がはじけた時もスポットを浴びたが、マスメディアはアウトレットとの違いを明確に伝えることはなかった。一般大衆を引きつけるには「全品○%オフの激安」と訴えれば、十分だったからだ。現在はSDGs(持続可能な開発目標)が叫ばれる中で、メーカーや小売業では売れ残りを廃棄するだけでなく、二次流通に放出する選択肢が出てきた。少しでも現金化したいとの思惑も見え隠れする。

 オフプライスストアとは「仕入れ」を伴う小売業態だ。ワールドもゴードン・ブラザーズ・ジャパンと合弁で「アンドブリッジ」を開発し、OPS市場に参入した。品揃えはSCや駅ビルの「値頃なブランド」(単価1万円未満)、駅ビルに出店するショップやアパレルメーカー、百貨店の平場に並ぶ「アッパーブランド」(単価2万円未満)、それ以上の「高級ブランド」(単価2万円以上)で構成されるが、仕入れを伴うのでその割合は必ずしも一定しない。




 アンドブリッジは埼玉、東京、神奈川、京都に4店舗を展開している。さらにワールドはOPSの「ネストドア」を「ららぽーと愛知東郷」に出店した。こちらは直営で「アンタイトル」や「インディヴィ」など自社ブランドで構成するから、実質はアウトレット業態と言ってもいい。同社のアウトレットはすでに全国で22店舗になった。約350店舗の閉鎖による余剰在庫を処分したいのはわかるが、売れ残りがどこまで売れるかも気になるところだ。



 一方、オンワード樫山は9月18日、環境貢献型オフプライスストア「オンワード・グリーン・ストア」1号店をSCのモラージュ柏にオープンした。同社は、展開の意図について「生産した製品に最後まで責任を持ち、廃棄することなく循環させることで地球環境に貢献するサステイナブルを目的とした」と耳障りの良いことを語るが、まずは約1400もの店舗閉鎖で生じた余剰在庫を処分したいのが山々だろう。

 ブランドの顔ぶれは、レディスが「23区」「自由区」「組曲」「ICB」「エニィスィス」「フェルゥ」、子供服が「組曲キッズ」「J・プレスキッズ」「トッカバンビーニ」。ライフスタイルが「エニィファム」「シェアパーク」。百貨店系、SC系となりふり構わず、総数1万点をオフプライスで売り捌くというから、いかに切羽詰まっているかがよくわかる。

 今後は面積300㎡以上の大型店を標準とし、他社が展開するものを含めて取り扱いブランドを拡大する計画で、来春までに関西、東海地域で各1店を出店する。米国はアウトレット業態がプロパー店に影響を与えないように店舗間を50マイルとか、70マイルとか離す規制をしている。それは国土が広大な米国だからできることだ。狭い日本でそれを行うと、今度の他県の都市にある店舗にも影響するので、線引きは難しい。

 識者の中には、オフプライスストアを経営が厳しい「地方百貨店に出店しては」という人がいるが、全国各地にはまだまだ40店ほどの地方百貨店がある。もしOPSが出店すれば、プロパーブランドの売上げに影響があると、百貨店側が反対するのは間違いない。ワールドが名古屋近郊にネクストドアを出店したことについても、「都心部の百貨店が激怒しているのではないか」と、懸念を示す識者もいるほどだ。

 ワールドはアンドブリッジの展開でゴードン・ブラザーズJPと組んでいるし、オンワード樫山もオンワード・グリーン・ストアで、他社が展開するブランドまで取り扱いを拡大する計画を表明している。大手2社がオフプライスストアを多店舗化していけば、自社在庫だけでは足りなくなるから、他のメーカーや問屋の余剰在庫、商社やOEM業者からの未引き取り品、いわゆるバッタ屋ルートにまで手を出さなければならなくなるのではないか。

 もしそんな店舗が百貨店に出店すると、色・型、サイズがバラバラの商品が並んで売場が荒れ、ジリ貧まっしぐらは間違いない。ワールドやオンワード樫山とて売場づくりや編集を標準化するのは容易ではないだろう。しかも、いくら余剰在庫の処分とは言え、ブランド休止による生産調整で在庫は減っていくはずだから、何シーズンも余剰在庫が溢れるとは考えにくい。それとも、アウトレットと同様に「専用品」を作って体裁を整えるのか。それでは在庫処分も二次流通もあったものではない。


Century 21と同じ轍を踏みそうなエストネーション

 オンワード樫山は、2020春夏からEC限定のブランド「アンクレイヴ」を販売している。親会社のオンワードHDがデジタル分野における構造改革として進めるD2Cオリジナル開発の一部で、将来的には中核ブランドに成長させる考えという。

 だが、アンクレイヴはあくまで生産先行の既製服ブランド。そのため、ネットの向こうにいる消費者がいかに反応するかは、実店舗以上に不確かだ。生産した商品が計画通りに消化する保証はない。それとも、EC限定ブランドを拡大することにより、また余剰在庫が増えるのを見越しているのか。その受け皿としてもオフプライスストアを展開するというなら、なおさら怪しさを禁じ得ない。

 サザビーグループが運営するセレクトショップの「エストネーション」も、銀座店の1階をオフプライスストア「エストネーション セントラル」にリニューアルする。2~3階は当面、エストネーションを継続するが、来年2月には全フロアをOPSにするという。こちらも消費増税や暖冬、コロナ禍よる2ヶ月の休業で業績が悪化したからだろうが、他にもいろいろ理由は考えられる。

 インポート中心のセレクトショップは、バイヤーの独りよがりで仕入れた商品も少なくない。だが、お客のほとんどがSPAの色柄、デザイン、サイズ別の編集に慣れて来ており、チョイスされた商品で奥行きがない品揃えでは、必ずしも満足できなくなっている。それはお客のライフステージや階層に関係なくだ。市場が成熟すればするほど、セレクトショップで、お客が「これ、ください」にならないことも、在庫を残している理由と思われる。

 もっとも、オフプライスで高価格ブランドが75%オフになるのは魅力だが、プロパーで20万円なら割り引きされても5万円。デフレ慣れしたお客からすると、決して安くは感じない。オンシーズンに買い逃し、色型もサイズもどんピシャなアイテムならともかく、どれかの条件が欠ければ購入には二の足を踏む。ならば、メルカリなどで欲しいブランドを見つけた方が得だと考えるのではないか。

 巷では売れ残りブランドのタグや品質表示を切り取り、別のものに付け替えて販売するビジネスが登場している。だが、これはVMDなどに左右されないオンライン販売によるものだ。しかも、元の商品が原価率をかけた高価格ブランドだから集客できている面もある。ただ、今度は安定した仕入れができるかや倉庫負担にどこまで耐えられるかという課題も出てくる。果たしてエストネーション・セントラルの商品までが流れるのだろうか。

 日本は米国とは市場性も消費行動も違う。いくら中間層が没落しているとは言え、掘り出し物のブランドがあれば、なけなしのカネをはたいても買いたい人々は一定層いる。もちろん、格差社会の拡大で、とにかく安ければ何でもいいという人々も増えている。ただ、安い商品ならすでに掃いて捨てるほどある。まやかしのオフプライス商品など、すぐに見破られるのがオチだ。米国で好調だからと、日本でもOPSが多店舗化が進むとは限らない。

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再犯対策を一考せよ。

2020-09-16 06:37:50 | Weblog
 すでに全国的に報道された「マークイズ福岡ももち」での女性刺殺事件。筆者は2018年の開業時はプレスプレビューに招待され、その後も家族で訪れているだけに「えっ、あそこで人殺し。しかも、容疑者は更生施設を抜け出した少年って」ことに驚きを隠せない。

 改めて事件を振り返ってみよう。8月28日、金曜日、午後7時半頃、福岡市中央区にあるショッピングモール・マークイズ福岡ももちの1階女性トイレで、21歳のアルバイト吉松弥里さんが刃物で刺されて死亡した。現場近くにいた中学生の少年(15)が血の付いた包丁を持っていたとして、現行犯逮捕された。

 福岡県警によると、容疑者の少年が持っていた刃物の形状と、 女性の傷跡が一致したことなどから、9月9日、少年は殺人の疑いで再逮捕された。その後の取り調べで、少年は「腹が減ったので、包丁で店員を脅せば食べ物をもらえると思って盗んだ」と供述。だが、詳しい動機や事件の背景は未解明な点が多く、警察は慎重に捜査を進めている。

 このコラムは、少年法の厳罰化や実名報道の是非、更生支援について、言及する場ではない。むしろ、アパレルを販売する施設でお客が命を奪われた事実を見つめ、いかに殺人などの凶悪犯罪を未然に防ぎ、買い物客の安全を守るか。それについて、考えてみたい。


凶器となる刃物の展開を見直す 

 福岡警察によると、凶器となった包丁は刃渡り約18.5センチ。事件の直前に少年が「施設内で盗んだ」疑いがあることがわかっている。

 包丁を入手したのはどこか。マークイズ福岡ももちで包丁を販売していると思われるのは、以下の店舗だ。1階では、100円ショップの「キャンドウ」、生活雑貨の「デイアンドデイズ」、インテリア・生活雑貨の「フランフラン」。2階では、インテリア・生活雑貨の「ニトリ」、アウトドア用品の「スノーピーク」である。だが、これら全てが万引き防止の装置を設置しているわけではない。




 キャンドゥは原則として包丁は店頭に展開せず、「包丁をお求めの方は店員にお声掛けください」とのPOPを掲示している。マークイズ福岡ももちも同様の対応をとっており、店頭で盗まれるのを防ぎ、犯行に使われることがなかった点では、危機管理が奏功したと言える。

 デイアンドデイズとフランフランは、包丁を取り扱っていたとしても1〜2種類。防犯装置がなければ、盗むのはそう難しくない。ニトリは施設に隣接する構造で、平日の夜7時過ぎはお客も少ない。防犯カメラはあっても死角が多く、防犯装置がなければ盗まれた可能性もある。スノーピークはまな板セットと包丁単体を取り扱うが、店舗に在庫を置くとすれば店頭の柱を取り囲む棚だ。ここはレジからは視認性もいいので、犯行は不可能と思われる。

 どちらにしても、施設内の店舗が扱っている包丁が盗まれ、殺人の凶器となったことは、店舗もデベロッパーも重く受け止めなければならない。その点で、キャンドゥは管理をきちんと行って犯行に使用されることを防いだのだから、他店でも包丁のような商品の展開方法は、一考せざるを得ないだろう。

 米国のショッピングセンター(SC)では、エントランスに金属探知機を設置しているところもある。凶悪犯が外部から侵入するのを防ぐためだが、日本はそこまではしていない。それだけ「安全な社会だった」わけだが、ついに施設内で販売されている商品が凶器になった。休日で昼間の時間帯なら、被害は計り知れない。

 かつて小倉駅周辺で刺傷事件が相次いだ時は、ラフォーレへの影響を心配して本社の森ビルから「小倉、大丈夫か」との連絡があったと、西村一孝館長は語っていた。マークイズ福岡ももちを運営する三菱地所は、これから天神イムズの再開発事業を控えており、防犯対策を再考せざるを得ないだろう。また、2022年春には福岡青果市場跡に「ららぽーと」と「キッザニア」が開業する。デベロッパーの三井不動産にとっても、今回の事件は他人事ではない。

 来店客がいつ危害を加えられるかわからない。凶器が外から持ち込まれるかもしれない。最悪の事態を想定した防犯対策、警備態勢の見直しが急務と言える。


再犯に対する刑事政策が十分ではない

 今回の事件は、更生施設を抜け出した15歳の少年によるものだった。しかし、少年だろうと、成人だろうと、矯正教育の最中や仮出所中に殺人事件を起こす可能性は排除できない。だから、再犯をいかに防ぐか。また、再犯の可能性を前提にした対策を取らなければ、今回のような殺人事件は防げない。人が殺されてからでは遅いのである。

 日本では2016年12月、「再犯の防止等の推進に関する法律」が施行され、「再犯防止推進計画等検討会」が就労・住居の確保や保健医療サービス、修学支援、犯罪をした者に対する効果的な指導等、様々な取り組みを行っている。しかし、現状は検挙者に占める再犯の割合が48.7%と、約半分にも達する。ソフト面だけの刑事政策では再犯防止には不十分なのだ。



 米国でも、出所者の約4割前後1年以内に逮捕されている。そこで再犯を未然に防ぐために制定されたのが「電子監視・位置情報確認制度」だ。いわゆるGPSによる出所者や性犯罪者などの遠隔監視である。1997年、フロリダ州が全米で初めて犯罪者の位置情報確認にGPS方式を導入した。

 米国は連邦制国家であることから、刑事司法は法域ごとに異なる。電子監視・位置情報確認の利用目的や対象者も、公判前被告人の保釈条件からプロベーション(外出禁止等条件の履行を担保する条件)、在宅拘禁、外部通勤、パロール(仮釈放)後の監督指導、施設内位置情報確認等までと様々。暴力犯罪の経歴がない保護観察処分者や仮出所者にも使用したいという州もある。犯罪者の態様が多岐にわたるため、監視・確認の対象範囲も広がっていくのだ。
 
 一方で、人権の問題が持ち上がる。ただ、米国の刑事司法は合衆国憲法上、電子監視機器による在宅確認は、「在宅しているかどうかだけを確認するものであり、プライバシーの侵害には当たらないと考えられる」と、判断している。また、刑事司法機関による制裁の対象者は、「一般市民の安全の確保や保護が優先されると考えられること、刑事制裁措置を受ける者では憲法上の権利が一定の制約を受けることは、各種の判例でも認められている」との解釈だ。

 再犯を未然に防ぎ、一般市民の安全を守る上では、仮出所者や性犯罪者などが人権上の制約を受けるのは当然というのが米国の認識なのだ。では、日本はどうなのか。リベラルの政治家や人権団体は大反対するだろう。まして、更生途上の少年にGPS装置を着ければ実名報道と同様、一般に情報が広まり更生に向けやり直すのが難しくなるとの意見が出てくると思う。

 しかし、それと再犯の防止とは別個に考えなければならない。なぜなら、今回の少年は更生施設に入所2日後に施設を抜け出している。これは自分の意思でだ。施設側は福岡県警に行方不明者届を出したと言うが、1日経っても少年は保護に至らず殺人まで犯してしまった。位置情報が確認できていればすぐに保護され、事件は起きなかったと言える。SCの警備態勢も万全を期すことができたと考える。


少年再犯を危惧した保護観察所の立ち退き運動

 福岡市に土地勘のない方はわからないだろうが、市の中心部では以前から犯罪に手を染めた少年の再犯が懸念されていた。マークイズ福岡ももちと同じ中央区では、居住人口の減少により大名、舞鶴、簀子の3小学校が統廃合され、2014年に舞鶴中学校と同じ敷地に新しく「舞鶴小中学校」が開校した。

 舞鶴中学校時代には道を挟んで反対側に「福岡保護観察所」があり、更生に向かう少年らが定期的に通っていた。舞鶴校区の父兄らには転勤族も多く、このことを知って「新しく通学するわが子が危害を加えられるかもしれない」と、マンションの外壁に横断幕を掲げるなど保護観察所の立ち退き運動を展開した。結局、福岡高等・地方など4つの裁判所が中央区六本松の九大教養部キャンパス跡地に移転するのに併せ、保護観察所も一緒に移ることで問題は決着した。今のところ、子供たちの安全は保たれている。(六本松地区でも再犯は起きていないが、周辺には駅、商店、マンション、一般住宅、小学校があり、今後のことはわからない)

 ところが、今回、舞鶴校区からそう遠くないマークイズ福岡ももちで殺人事件は発生した。少年は県警の調べに対し、「バスに乗って福岡市に行った」が、天神で下車した後は「所持金がなくなり、目的地もなく歩いた」と供述している。位置関係からすれば、少年がどのルートを歩いたにしても、舞鶴校区を通らないとマークイズ福岡ももちにはたどり着けない。

 少年は犯行後、取り押さえられる直前に6歳の女児に馬乗りになって押さえつけている。福岡県警は人質にして逃げようとした可能性があると見ているが、これが事実なら明らかに「犯意」や「違法性」、「有責性」が認められるということだ。どう考えても、矯正教育が機能しておらず、再犯が起こるべくして起きたのは否定できない。

 少年がもし天神の商業施設で包丁を入手していれば、時間的に小中学生が下校中(夏休みは8月7日〜19日に短縮)の舞鶴校区で犯行が起きた可能性は十分に考えられる。保護観察所の立ち退き運動を展開した父兄らは、「心配していたことが現実になったかもしれない」と、青ざめたのではないだろうか。少年の人権や更生も大事だ。しかし、市民の安全が脅かされるリスクがあることも想定しながら、最善策を考えていかなければならない。

 刑事政策的見地から、再犯を防止するハード面の施策についても、積極的な議論が進むことを心から願う。でないと、命を落とされた吉松弥里さんは浮かばれないし、彼女もそう願っているはずである。

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閉店ドミノの回避策は。

2020-09-09 06:32:14 | Weblog
 ちょうど、2年前の9月末だった。三越伊勢丹HDが傘下におく「伊勢丹相模原店」「伊勢丹府中店」「新潟三越」の営業終了を発表した。この時は大手百貨店のニュースだったため、正直、インパクトは凄まじかった。しかし、百貨店がかつてのような栄光を取り戻す要素はほとんどなく、営業不振が続く地方店は重荷でしかない。これ以降、独立系の地方百貨店までもが堰を切ったように閉店している。構造改革に踏み出せない体質と中間層没落による市場の縮小を鑑みると、閉店ドミノは日常化しても不思議ではない。

 この2年で、ざっと以下の地方百貨店が閉店を余儀なくされている。

○山口井筒屋宇部店(2018年12月31日)
○コレット井筒屋(2019年2月28日)
○井筒屋黒崎店(2019年5月31日を2020年8月17日)
○西武大津店(2020年8月31日)
○西武岡崎店(2020年8月31日)
○そごう西神店(2020年8月31日)
○そごう徳島店(2020年8月31日)





 来年には「恵比寿三越」「そごう川口店」「松坂屋豊田店」の閉店が決まっている。また、「西武福井店」「西武秋田店」は営業面積を縮小して収益性の向上を図るというが、存続できるかは予断を許さない。地方は人口減少が続き、郊外にはショッピングセンターやロードサイド店などが林立する。中心部の百貨店までわざわざ出向かなくても、買い物はこれらの店舗で十分に事足りる。ましてインターネットで何でも購入できる時代だ。

 すでに地方百貨店はブランドリーシングでも限界があり、あの程度の品揃えでは購入に至らなくなった顧客もいるはず。拘って選り抜かれた逸品が買えるのは大都市の百貨店で、採算ベースに乗せるのが難しい地方店にそれを求めるのは酷だ。一定の需要があるデパ地下の食材やワインとて、カルディコーヒーファームのような業態が十分にフォローしてくれる。包装紙がカギと言われるお歳暮やお中元にしても、ネットやコンビニで注文できるようになった。

 それらが尚更、地方百貨店の客離れを助長する。このまま何も手を打たなければ、どんな百貨店と言えど、安泰ではなくなるかもしれない。


百貨店の跡地利用はうまくいっていない

 閉店した百貨店を見ると、だいたい年商150億円が黄色信号で、100億円をきると営業終了の赤信号が点滅する。井筒屋黒崎店は2018年2月期の売上高が約129億円。この時、「閉店を検討している」との報道があったが、19年8月には売場を5フロアに縮小して営業を継続した。ところが、建物を管理するメイト黒崎が今年1月24日に破産を申請し、専門店街も4月30日での閉店を発表。井筒屋のみが残留する予定だったが、集客減は否めず閉店を決断した。

 西武大津店は2019年2月期の売上高が99億7200万円、西武岡崎店は同じく84億4100万円で、閉店決断は妥当なところ。営業面積を縮小する西武福井店は2019年2月期の売上高が115億5500万円と100億越えだが、西武秋田店は同期で売上高は93億1800万円。売上げ回復で収支トントンに乗せるには稼ぎ頭が欠かせない。果たしてそれが可能なのか。



 また、閉店後の再生計画では、公共施設とテナントをシンクロさせて活性化を図るものもある。2009年に営業を終了した久留米井筒屋は周辺と一体で再開発され、16年にコンサートホールやコンベンション機能、そして物販や飲食テナントを加えた低層の「久留米シティプラザ」に生まれ変わった。

 ところが、開業からわずか2年の2018年にはハンバーガー店、靴メーカー「ムーンスター」の「コンセプトギャラリー」が退店。さらに梅の花が運営する鉄板焼の「六角庵」、定食屋「満天」も売上げ不振で閉店するなど、苦戦を強いられている。



 現在はコンビニ、保険代理店、音楽教室、老人ホーム紹介センターを除き、飲食業態3店、ファッション専門店、ケーキ店、六角庵後に出店した楽器店は、すべて地元テナントだ。計画の段階で自治体からたっての出店要請があったと思われるが、旺盛な集客力をもつ顔ぶれとは言い難い。また、コンサートホールなどのイベント施設は稼働日が限られるため、盛んに利用募集がなされている。これでは相乗効果さえ疑わしく思えてしまう。

 更地にして複合ビルに作り替えるだけでは、中心部への集客は限られる。久留米シティプラザを見れば活性化にはほど遠い状況で、他の地方都市でも同じ轍を踏まないとも限らない。そのまま営業を続ける店舗でも、近鉄百貨店の和歌山店や伊勢丹浦和店、丸井今井函館店などは、好調とは言い難い子供服で空いた売場を埋める急場しのぎ。抜本的な戦略などあったものではない。

 さらにコロナ禍が百貨店を直撃している。商業施設の売上げ状況を見ると、はっきり明暗が分かれている。営業が再開された6月はセールの前倒しと定額給付金の恩恵で、各店舗とも売り上げは回復傾向にあった。ただ、その内訳を見ると、郊外のSCが順調に挽回する一方、大都市の百貨店は依然として大きく落ち込んだままだ。

 SCは既存店売上高が前年同期比で15%減と、5月の61.4%減から大幅に回復。しかし、百貨店は三越伊勢丹が同22.5%減(5月は91.8%減)、大丸松坂屋百貨店が同28.0%減(同72.7%減)、阪急阪神百貨店が同21.4%減(全店64.1減)。回復はしたものの、SCには及ばない。さらにウィズコロナの環境下ではインバウンドの回復にも時間がかかるし、リモートワークの浸透で大都市への通勤者減少は否めない。三越伊勢丹のような都市型百貨店が従来の売上げを取り戻すにはかなり難しい状況だ。


デジタル化で具体的に何をするのか

 6月の売上高では、伊勢丹立川店が前年同期比8.5%減、伊勢丹浦和店が同7.6%減。大丸須磨店が同5.3%減、松坂屋高槻店が同18.3%減と、総じて地方百貨店の方が落ち込み幅は小さい。コロナ禍により「通勤や買い物で大都市まで出かけない」「近場の百貨店で済ませる」という消費行動の変化が影響したと思う。だが、それを今後の売上げ挽回につなげるには、やはり品揃えやサービスで、新たな戦略を打ち出さないと厳しいだろう。

 百貨店経営者の中には、「デジタル化を進める」という人がいるが、デジタルの利点は「双方向のやりとり」ができること。そのメリットを最大限に活かすには、お客が大手百貨店のサイトで注文した商品を近くの系列店で購入できるなどの仕組みが求められる。何も自店に商品を置く必要はないのだ。百貨店単体で勝てる時代ではないのだから、多面的なサービスに踏み込んでお客を集め、活路を見出すしかない。

 地方百貨店が苦戦しているのは、品揃えに満足できず購入しなくなった顧客がいるからだ。ならば「大都市の有名百貨店には行けないけど、そこにしかない商品が自宅で注文できて最寄りの百貨店で受け取れるのなら、購入してもいい」というニーズをもっと深掘りすべきではないか。ウィズコロナは大都市の消費を地方に分散させる。それをドーナツ化と呼ぶ人もいるが、地方百貨店にとっては小売り原点に帰るチャンスでもある。

 先日、J・フロントリテイリングの好本達也社長が「コロナ戦略」というテーマで、サンデー毎日×エコノミストのインタビューに答えていた。そこでは「地方店の生き残りの処方箋」について「書店などのテナントで集客力を高め、利用客を地下の食品売り場へ誘導する取り組みなどを考えています」と、語っていた。松坂屋豊田店はそれが難しいから閉店する決断に至ったのだという。(https://news.yahoo.co.jp/articles/b369f6bfac7a1fbccfe3d9d668bd560c426d6ea3?page=2)

 だが、そもそも上階にカルチャー系などのテナントを入れて集客し、地階の食品売り場に誘導する「シャワー効果」こそ、遺物のような戦術だ。令和の時代、ウィズコロナの状況下で、未だにそんな愚策で売上げが挽回できると考える経営感覚には驚かされる。結局、脱・百貨店を声高に叫んでも、パルコのような業態をグループ傘下に収めてポートフォリオを整え、本店は高層化して不動産効率を高める。あとはテナントを入れて歩率家賃を稼ぐしかないようだ。

 地上8階、地下1階、営業面積3万㎡以下。もうこのような規模の地方百貨店が求められる時代ではない。それは誰の目から見てもわかることだ。では、どう改革するのか。抜本的でポジティブな戦略を語れる経営者は見当たらない。ウィズコロナを千載一遇のチャンスと見て、ドラスティックな改革に踏み出さなければ、地方百貨店の閉店ドミノは避けられない。
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バーチャルな売場に立つ。

2020-09-02 06:40:51 | Weblog
 8月26日付の「現代ビジネス」に以下の記事がアップされた。「アパレル業界、いよいよ「販売員」の「使い捨て」がヒドいことになってきた…!」(https://news.yahoo.co.jp/articles/5aa3a65e53b98434685cd04add4efcd4ff4b3409)

 これまでメーカーの経営破綻、ブランド廃止や店舗閉鎖は報道されてきたが、メディアがついに「販売員」にも切り込んだことで、切実な現場の実態が明るみに出た。思えば、ファッション誌がFA(ファッションアドバイザー)と名付けて最先端の売場に立つイメージを煽り、小売業や教育機関が「センス」「コーディネート力」「トーク術」といった客観的評価がしづらいキャリア習得度で、若者を洗脳してきたモデルがついに終焉を迎えたとも言える。

 とは言え、記事にあるように販売員の報酬に「生産性」が関わっているのは、昔から変わりない。アパレル小売りである以上、優良な顧客を何人も抱え、ハイプライスの商品を販売できる力を持ち、高い売上げを稼げば高額な報酬がもらえるのは当然のこと。現にバブル経済が崩壊するまでは、売上げ実績によって販売員の年収や待遇は変わっていた。

 ちょうど、筆者が就職した1980年代前半は、取引先のレディス専門店では成果報酬的な賃金体系をとるところがほとんどで、ベテランの販売員はそこそこの給料を得ていた。また、店舗や個人の目標予算をクリアすれば「報奨金」を出す小売り企業もあり、高い販売力と優良顧客をもつ人は毎月のように給料にプラスαが加算されていた。そのため、店舗やスタッフを管理するマネージャーや国内外のメーカーを巡るバイヤーより、販売に専念して高給が約束される販売員の方がいいという価値観もあった。

 プロ野球ロッテオリオンズの落合博満選手が史上最年少で三冠王に輝いたのが1982年だが、業界にはその頃すでに「1億円プレイヤー」と呼ばれる人がいたのである。もちろん、年収ではなく「年間販売額」という意味で、落合選手よりも10年以上前にそう呼ばれた販売員がいたのは特筆すべきこと。プロとしてお客さんを惹きつける能力が対価を生むのは、アパレルもスポーツも共通すると言っていいだろう。


「まずは店で頑張れ」は、空手形に

 そうした有能な販売員を経営戦略、組織論に従って、昇格・異動させることが企業にとって得策なのか。それが人事を悩ませるいちばんの問題だった。話はズレるが、ちょうど20年ほど前にSPAが店舗網を拡大していく中で、販売員の確保、適材適所への投入が課題となった。そこで、当時のサンエーインターナショナルが打ち出したのが、「地域限定準社員」や「販売専門職」を取り入れた人事体制の整備だった。

 「あなたのライフスタイルに合わせ、自宅近くの店舗で働けて転勤はなし」「販売が好きなら、ずっとその仕事を続けて構わない」。その後、ワールドの子会社ワールドストアパートナーズも、非正規雇用の販売員を正社員化した。大手にとっては多くの販売員を採用する窮余の策だった。当時はそうした手法で頭数は確保できたが、それもブランド休止や店舗閉鎖になれば雇用さえ維持されないのだから、「販売」という職業の不安定さが浮き彫りにされる。

 ただ、筆者が知るある地域専門店は、自社開発のセレクトショップを軌道に乗せる目的で、社員募集ではあえて「県外転勤あり」「幹部候補」という厳しい条件を打ち出した。社長にその意図を訪ねると、「経営者としては属人的で高い業績をあげるより、各自がバランスよく売り上げる仕組みを作ることが重要」で、その前提として「男性であれ、女性であれ、どこの店に赴くことも厭わない人に来てほしい」と断言した。

 この時、社長は生産性こそ口にしなかったが、一人ひとりの売上げの積み重ねが企業の業績になるのは言うまでもない。当然、それを社員に浸透させていかなければならないわけだが、「うちは大手ほど組織が肥大化、硬直化してはいないから、キャリアを積める環境があり、実績を残せば幹部のポストを用意するし、それに見合った処遇も行う」とも。企業の発展と社員のキャリア形成は表裏一体との信念からだろうが、一販売員では終わらず、将来の目標をしっかり定めて仕事してほしいという願いも感じた。

 それは大手のアパレル小売りでも変わらないはずだが、昨今の状況を見ると、どこもブランドや店舗、従業員のリストラばかり。新入社員が念仏のように言われてきた「まずは店で頑張れ」。それも今となってはやる気を引き出す空手形でしかなかったわけで、使い捨てという不渡りを出してしまったことをどう弁明するつもりか。それとも、業界環境は変わるのだから、「仕事をする中で、そのくらい察知しろよ」と、開き直るのだろうか。

 確実に言えることは、大手アパレルなら販売員から優良ポストが掴めるとの神話は、完全に崩れてしまったということ。逆に前出の地域専門店のように中小の方が経営戦略も組織も柔軟で、販売職の先の目標も設定しやすい。また、確実にキャリアを形成した人なら異業種に転職しても、それなりにつぶしが利くだろう。というか、会社に居ようが、そこから飛び出そうが、自分で目標を設定してキャリアアップしなければ、使い捨てされるだけなのだ。

 話を元に戻すと、筆者がペーペーの頃、接した販売員は30数年後の今、どうしているのか。大半はリタイアしたが、中にはショップオーナーとなり、今もアパレル小売りの最前線にいる人、またサロンブティックに請われて仕入れをしながら、今も売場に立つ人がいる。歳は重ねているが、顧客も加齢しているため、同じ目線で商品を勧め、販売できる。人生100年という超高齢社会を見れば、その中で顧客がいる市場を睨めば、活躍できる余地も残されている。それも経験と実績に裏打ちされたキャリアがあればこそだが。


従来のファッション教育は通用しない

 「販売員が使い捨てられる」。ショッキングな記事は、ファッション専門学校などの教育現場で、どう受け取られるのだろうか。




 アパレル小売り側には、ECへの注力で新規採用を通販サイトの構築・更新作業を担う「Webデザイナー」や「コーダー」に切り替えるところもある。この仕事ではPhotoshopやIllustrator、Dreamweaverなどの運用スキルが必須。だから、ファッションビジネス学科と言えど、授業半分はIT関連にシフトしなければ、これからの業界就職は厳しくなる。

 もちろん、販売員が全くゼロになるわけではないが、売場ではITとシンクロさせたデジタル接客術が求められるのは間違いない。従来のようにコーディネート力セールストークディスプレイの習得では通用しなくなるのだ。学校によっては、校内で「ロールプレイングコンテスト」を実施しメディアに取り上げてもらうことで、自校がいかに優れた教育を行ない、優秀な学生を育てているかをアピールしてきたところもある。

 だが、デジタル化とウィズコロナに直面する業界では、接客スタイルは「非接触」にならざるを得ない。有名セレクトショップのスタッフが立て続けにコロナウイルスで陽性と判明したことを考えても、販売員に密着されて飛沫がかかるリスクがある接客は、確実に敬遠されていくはずだ。学校関係者はこれまでのような接客スキルを磨く程度では、学生の採用には繋がらないことを肝に銘じるべきだろう。

 デザイナーを目指す技術教育は残るが、学ぶ側の意識も変わってきている。若者の間では、「簡単に企画デザイン職には就けない」「求人が販売職しかないなら、専門学校に行く必要もない」と、現実を直視したドライな意見が多数派を占める。今後の専門教育の現場を俯瞰してみると、旧態依然とした授業内容で学校を掛け持ちしてコマ数を増やし、日銭が稼げたおばさん講師たちも、いよいよ戦力外通告を受ける時期が来たようである。

 もっとも、アパレル小売りがECに注力しても、Web制作のスタッフがそれほど潤っている様子はない。小売り企業が自ら通販サイトを運営し、Web制作まで内製化しているのならまだしも、EC事業者から制作を受注するくらいでは、かつてのデザイン事務所より薄給でこき使われる。悲しいかな、Webデザインすら若者が夢や希望をもてる業界ではなさそうだ。

 さらに店舗がECオーダーの在庫を引き当てたり、商品の受け取り場所と化して行けば、タブレット端末をテキパキと操作できたにしても、メーンの仕事は在庫確認や商品のお渡しなどになっていく。少なくともファッションビジネスとしてのデジタル技術を学んだのなら、バーチャルな世界でも接客やコーディネート力を生せてこそ、意味をもつのではないか。




 D2Cの浸透で、インターネットで繋がるアパレルとお客。これからの販売員は、そうした時空を超えた消費環境でアパレルとお客を媒介する存在とでも言おうか。デジタル端末で受け付けたお客の商品やコーディネートの要望に対し、ネット空間から探し出した在庫をアバターなどを使って逆提案し、合致した現物の商品を販売・配送手配する。

 バーチャルな売場に立つ販売員というか、パーソナルなスタイリストというか。米国で急速に進んでいるスマートフォンと情報ネットワークを生かしたビジネスに進まない限り、アパレル小売りの世界でも活躍できる道はないと思われる。それにしても、個人事業主で成果報酬なのだから安定する保証はないのだが、使い捨てにされるよりもマシだろうか。アパレルを売る人間の情報技術、そうした人材を育成する教育の本質が問われるということだ。

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