コロナ感染はいよいよロックダウン間際まで来たと言える。緊急事態宣言、まん延防止重点措置はこれまで何度も発令されたが、一時的に感染者を抑える程度にしか効き目がない。その間、ワクチン接種が進められたものの、今度はデルタ株が猛威を振るい始めて感染者数は高止まりしている。だが、データを冷静に見ると、日本の人口当たり感染者数や死亡者数は欧米諸国に比べて圧倒的に少ない。
全体の死亡者数がコロナ禍以前を上回っているかの超過死亡数は、英国が2020年4月には前年比100%を超えで、米国も死亡者が同年は高めだった。それに対し、日本は20年末には死亡数が前年比8%程度に上がったものの、全体的には感染防止対策の徹底でインフルエンザなど他の病気による死亡者が減少したため、平年並みの死亡数となっている。(図表)
だからと言って、日本は良くやっているとは言い難い。むしろ課題は山積みだ。まず、医療提供体制を抜本的に見直さなければならない。特にデルタ株のまん延で地域にある感染症治療病院の病床が逼迫。中等症でも自宅療養を余儀なくされ、その後に重症化して死亡するケースは今年6月までにすでに80人を超え、現在も増えている。非常時の態勢整備が急務だ。
もちろん、コロナ収束後を睨んだ長中期的な国産ワクチンの開発は必須である。今回の接種では短期に多くの接種を実行するために歯科医にまで要請がなされた。だからこの際、接種に伴うさまざまな規制を緩和して、どこまでのライセンスを持った人間なら、疫病ワクチンの接種が可能なのか。明確なルールを決めることも重要だと思う。
1家に1台の酸素ボンベ&吸入器が必要?
昨年、多くの専門家が指摘した「感染を封じ込めながら、何かと経済も持ち堪える」方策もこのままでは虻蜂取らずになりそうだ。コロナ禍は多くの専門家の目論見を外れ、収束どころから第5派、変異株のまん延へと移行した。これから、政府が仮にロックダウンへ踏み込めば、都市間移動を伴う観光はじめ、外食などの行動が直接的に抑制される。アパレル小売りといった対面を必要とするサービス需要も、さらに落ち込むことは間違いない。
パリのあるアパレル関係者は、「経済的なダメージはこうしたサービス消費が激減したことによる心理的な影響が圧倒的に大きい。ネットでもいいからコミュニケーションを絶やさず、買い物してほしい」と、語っていた。確かに多くの国民が外に出ることを躊躇うようになれば、感染拡大は食い止められるだろうが、その分消費は激減する。それをネット販売でカバーするまでの習慣はまだまだ定着していない。外出という人流を抑えながら、消費を継続させるのは、二律背反の施策で無理があるということだ。
気がかりなのは病床の逼迫と若年層への感染拡大である。自宅療養中に死亡する人が増えている背景には、基礎疾患をもつことがあるのだが、症状が急変するケースも報告されている。保健所のマンパワーが不足する中で、経過観察を続けるにも支障がある点を考えると、感染者は為す術がない。コントのワンシーンではないが、医療用の酸素ボンベは1家に1台の必須アイテム。いや、現実的には酸素飽和度を測るパルスオキシメーターと酸素ボンベと吸入器が体温計や消化器と同等に常備するのが当たり前になる日は、そう遠くないのかもしれない。
未曾有の疫病禍なのだから、終息までには相当の死亡者を出すだろうし、それに伴う世界的な人口減も起こり得るだろう。実店舗をもつサービス関連などでは、雇用がさらに悪化する。アパレル含めサービス業界全体の所得減少は避けられそうもないし、ロックダウンへの警戒感が強まると、生活者のメンタル面の不安が増大する。経済のさらなる悪化、雇用不安などマインド面から家計支出や企業の設備投資が減少していく可能性も否定できない。
サプライヤーの方はどうか。知り合いの事業者は昨年、中国の工場は稼働しているので商品供給には問題ないと語っていた。ただ、デルタ株が世界的に猛威を振るっていけば、工場によっては労働力不足から操業停止や閉鎖に追い込まれるところが出てきてもおかしくない。感染防止対策を優先すれば人流を抑えなければいけないし、それは生産性の低下に直結する。アフリカや中近東、東欧に工場をもつパリのアパレル関係者も同じようなことを言っていた。
結局、日本はこれまでロックダウンをしてこなかった。緊急事態宣言やまん延防止重点措置といった緩やかな対応だったため、英国やドイツに比べると自宅にいる時間は短くなる。つまり、それは経済への影響も抑えたが、外に出ている時間が長いために感染が拡大しているのだ。変異株を封じ込めるために経済の落ち込みを度外視しても、ロックダウンに踏み込むのか。政府の覚悟が試されると言うことである。
英国は今年1月から実施してきたロックダウンを7月19日に全面解除した。もともと、この措置は6月20日に解除されることになっていたが、デルタ型のまん延で4週間延長された。英国人に人気のパブやクラブなどが第1波の時から1年4カ月も営業ができていないなど、経営者側からの要請があったからだ。本音としては、ロックダウンしても感染が収束に向かう保証はないというのが、為政者にも国民にもあるのではないか。それは日本も同じだろう。
アパレルのデジタル変革にも国家的投資を
前回のコラムにも書いたが、もはや国民の一人一人がいかにして感染しない努力をするしかないと思う。自分の命は自分で守るということだ。政府も現行の医療態勢では、できる限界を超えてきていると感じ始めているのではないか。「国民の皆さんも覚悟を決めて、行動してほしい」と、菅義偉総理が発言しても不思議ではない状況だ。もちろん、そう断言するためには、政府として手厚い財政出動を行うことが前提になる。
今年3月、米国のバイデン政権は1.9兆ドルの「新型コロナウイルス経済対策」法案を成立させたが、日本が同じ財政支出をするなら中小零細企業の支援、雇用維持の側面だろうか。ロックダウンも視野に人流を抑制することで、売上げが減少する企業や商店のコロナ対策を手厚くサポートするもの。国民一人当たり10万円の定額給付金も、20年度の家計調査を見ると消費性向は前年を大きく下回り、必ずしも消費に回らなかったことが確認できるからだ。
アパレル業界だと、自宅にいて欲しい商品のバーチャル試着が可能なアプリがある。一部の企業では開発・導入も進んでいるが、お客が商品の詳細情報を入力すれば、AIがスタッフに変わってフィッティングチェックまでしてくれる。そんなアップデートしたシステムに開発に国家的な投資がされてもいいと思う。これは靴にも対応できて、朝と夜で微妙に変わってくる足のサイズまでAIが認識できるようにする。
お客が好む商品の色柄織、素材、サイズ、デザイン、テイスト、着心地、そして価格までの情報をきめ細かく入力すれば、それと同じ詳細情報が登録されているかをAIが探して、商品が見つかれば提案してくれるシステムとでも言おうか。ヴァーチャルフィッティングまで可能にすれば、自宅に居ても実店舗と同様な感覚でショッピングできる。こうしたシステムは、コロナ禍において人流による感染拡大を抑える効果に期待できる。
もちろん、コロナ終息以降をデジタルトランスフォーメーションを意識し、アパレルショッピングには変革をもたらしてくれる。従来はバーコードによる把握のため情報量は限られたが、マイクロチップの登場と低価格化で、商品1点あたりの詳細情報までの蓄積が可能になった。それとインターネットをリンクしていけば、ショッピングは変革する。ここまで来れば、製造卸、小売りの線引きもなくなる。システムを制したものがビジネスも制するのだ。
究極はお客が欲しい商品が日本中のどこの店舗にあるか、瞬時に検索して提案してくれ、購入までできるシステムだ。地方に居ながら東京の店舗在庫の中で、自分が欲しいものをAIが見つけ出してくれ試着まで可能になれば、ショッピングの可能性は莫大に広がる。リアルな接客や付帯業務はこれまでより減ってくるが、その分、レイオフすることなくフルフィルメント作業やデータ分析など新たな雇用に切り替えられる。
売り方は実店舗からネット、SNSと進化しているが、それがお客が本当に必要とする商品かどうかは別問題だ。お客自ら商品を見つけるには、置いてそうな実店舗を探し回るか、ネットモールでキーワードを入力して検索するしかない。それではまだまだ手薄だ。せっかく、デジタル庁が発足するのだし、大量廃棄でアパレルへの風当たりは強い。それを救うのは、お客と商品のマッチングであり、売り逃しや販売ロスの撲滅だ。それがひいてはSDGsにもつながっていく。
飲食・サービス業は実際にお客が来てくれないとビジネスは成り立たないので、人流を抑えるには持続化給付金などの支援は仕方ないだろう。しかし、アパレルの場合はeコマースやヴァーチャルフィッティングなどでも継続できるので、財政出動をするのならシステム開発、デジタルトランスフォーメーションに積極投資する。コロナ禍を乗り切りながら終息後の業界革新を睨むことが重要だと考える。
全体の死亡者数がコロナ禍以前を上回っているかの超過死亡数は、英国が2020年4月には前年比100%を超えで、米国も死亡者が同年は高めだった。それに対し、日本は20年末には死亡数が前年比8%程度に上がったものの、全体的には感染防止対策の徹底でインフルエンザなど他の病気による死亡者が減少したため、平年並みの死亡数となっている。(図表)
だからと言って、日本は良くやっているとは言い難い。むしろ課題は山積みだ。まず、医療提供体制を抜本的に見直さなければならない。特にデルタ株のまん延で地域にある感染症治療病院の病床が逼迫。中等症でも自宅療養を余儀なくされ、その後に重症化して死亡するケースは今年6月までにすでに80人を超え、現在も増えている。非常時の態勢整備が急務だ。
もちろん、コロナ収束後を睨んだ長中期的な国産ワクチンの開発は必須である。今回の接種では短期に多くの接種を実行するために歯科医にまで要請がなされた。だからこの際、接種に伴うさまざまな規制を緩和して、どこまでのライセンスを持った人間なら、疫病ワクチンの接種が可能なのか。明確なルールを決めることも重要だと思う。
1家に1台の酸素ボンベ&吸入器が必要?
昨年、多くの専門家が指摘した「感染を封じ込めながら、何かと経済も持ち堪える」方策もこのままでは虻蜂取らずになりそうだ。コロナ禍は多くの専門家の目論見を外れ、収束どころから第5派、変異株のまん延へと移行した。これから、政府が仮にロックダウンへ踏み込めば、都市間移動を伴う観光はじめ、外食などの行動が直接的に抑制される。アパレル小売りといった対面を必要とするサービス需要も、さらに落ち込むことは間違いない。
パリのあるアパレル関係者は、「経済的なダメージはこうしたサービス消費が激減したことによる心理的な影響が圧倒的に大きい。ネットでもいいからコミュニケーションを絶やさず、買い物してほしい」と、語っていた。確かに多くの国民が外に出ることを躊躇うようになれば、感染拡大は食い止められるだろうが、その分消費は激減する。それをネット販売でカバーするまでの習慣はまだまだ定着していない。外出という人流を抑えながら、消費を継続させるのは、二律背反の施策で無理があるということだ。
気がかりなのは病床の逼迫と若年層への感染拡大である。自宅療養中に死亡する人が増えている背景には、基礎疾患をもつことがあるのだが、症状が急変するケースも報告されている。保健所のマンパワーが不足する中で、経過観察を続けるにも支障がある点を考えると、感染者は為す術がない。コントのワンシーンではないが、医療用の酸素ボンベは1家に1台の必須アイテム。いや、現実的には酸素飽和度を測るパルスオキシメーターと酸素ボンベと吸入器が体温計や消化器と同等に常備するのが当たり前になる日は、そう遠くないのかもしれない。
未曾有の疫病禍なのだから、終息までには相当の死亡者を出すだろうし、それに伴う世界的な人口減も起こり得るだろう。実店舗をもつサービス関連などでは、雇用がさらに悪化する。アパレル含めサービス業界全体の所得減少は避けられそうもないし、ロックダウンへの警戒感が強まると、生活者のメンタル面の不安が増大する。経済のさらなる悪化、雇用不安などマインド面から家計支出や企業の設備投資が減少していく可能性も否定できない。
サプライヤーの方はどうか。知り合いの事業者は昨年、中国の工場は稼働しているので商品供給には問題ないと語っていた。ただ、デルタ株が世界的に猛威を振るっていけば、工場によっては労働力不足から操業停止や閉鎖に追い込まれるところが出てきてもおかしくない。感染防止対策を優先すれば人流を抑えなければいけないし、それは生産性の低下に直結する。アフリカや中近東、東欧に工場をもつパリのアパレル関係者も同じようなことを言っていた。
結局、日本はこれまでロックダウンをしてこなかった。緊急事態宣言やまん延防止重点措置といった緩やかな対応だったため、英国やドイツに比べると自宅にいる時間は短くなる。つまり、それは経済への影響も抑えたが、外に出ている時間が長いために感染が拡大しているのだ。変異株を封じ込めるために経済の落ち込みを度外視しても、ロックダウンに踏み込むのか。政府の覚悟が試されると言うことである。
英国は今年1月から実施してきたロックダウンを7月19日に全面解除した。もともと、この措置は6月20日に解除されることになっていたが、デルタ型のまん延で4週間延長された。英国人に人気のパブやクラブなどが第1波の時から1年4カ月も営業ができていないなど、経営者側からの要請があったからだ。本音としては、ロックダウンしても感染が収束に向かう保証はないというのが、為政者にも国民にもあるのではないか。それは日本も同じだろう。
アパレルのデジタル変革にも国家的投資を
前回のコラムにも書いたが、もはや国民の一人一人がいかにして感染しない努力をするしかないと思う。自分の命は自分で守るということだ。政府も現行の医療態勢では、できる限界を超えてきていると感じ始めているのではないか。「国民の皆さんも覚悟を決めて、行動してほしい」と、菅義偉総理が発言しても不思議ではない状況だ。もちろん、そう断言するためには、政府として手厚い財政出動を行うことが前提になる。
今年3月、米国のバイデン政権は1.9兆ドルの「新型コロナウイルス経済対策」法案を成立させたが、日本が同じ財政支出をするなら中小零細企業の支援、雇用維持の側面だろうか。ロックダウンも視野に人流を抑制することで、売上げが減少する企業や商店のコロナ対策を手厚くサポートするもの。国民一人当たり10万円の定額給付金も、20年度の家計調査を見ると消費性向は前年を大きく下回り、必ずしも消費に回らなかったことが確認できるからだ。
アパレル業界だと、自宅にいて欲しい商品のバーチャル試着が可能なアプリがある。一部の企業では開発・導入も進んでいるが、お客が商品の詳細情報を入力すれば、AIがスタッフに変わってフィッティングチェックまでしてくれる。そんなアップデートしたシステムに開発に国家的な投資がされてもいいと思う。これは靴にも対応できて、朝と夜で微妙に変わってくる足のサイズまでAIが認識できるようにする。
お客が好む商品の色柄織、素材、サイズ、デザイン、テイスト、着心地、そして価格までの情報をきめ細かく入力すれば、それと同じ詳細情報が登録されているかをAIが探して、商品が見つかれば提案してくれるシステムとでも言おうか。ヴァーチャルフィッティングまで可能にすれば、自宅に居ても実店舗と同様な感覚でショッピングできる。こうしたシステムは、コロナ禍において人流による感染拡大を抑える効果に期待できる。
もちろん、コロナ終息以降をデジタルトランスフォーメーションを意識し、アパレルショッピングには変革をもたらしてくれる。従来はバーコードによる把握のため情報量は限られたが、マイクロチップの登場と低価格化で、商品1点あたりの詳細情報までの蓄積が可能になった。それとインターネットをリンクしていけば、ショッピングは変革する。ここまで来れば、製造卸、小売りの線引きもなくなる。システムを制したものがビジネスも制するのだ。
究極はお客が欲しい商品が日本中のどこの店舗にあるか、瞬時に検索して提案してくれ、購入までできるシステムだ。地方に居ながら東京の店舗在庫の中で、自分が欲しいものをAIが見つけ出してくれ試着まで可能になれば、ショッピングの可能性は莫大に広がる。リアルな接客や付帯業務はこれまでより減ってくるが、その分、レイオフすることなくフルフィルメント作業やデータ分析など新たな雇用に切り替えられる。
売り方は実店舗からネット、SNSと進化しているが、それがお客が本当に必要とする商品かどうかは別問題だ。お客自ら商品を見つけるには、置いてそうな実店舗を探し回るか、ネットモールでキーワードを入力して検索するしかない。それではまだまだ手薄だ。せっかく、デジタル庁が発足するのだし、大量廃棄でアパレルへの風当たりは強い。それを救うのは、お客と商品のマッチングであり、売り逃しや販売ロスの撲滅だ。それがひいてはSDGsにもつながっていく。
飲食・サービス業は実際にお客が来てくれないとビジネスは成り立たないので、人流を抑えるには持続化給付金などの支援は仕方ないだろう。しかし、アパレルの場合はeコマースやヴァーチャルフィッティングなどでも継続できるので、財政出動をするのならシステム開発、デジタルトランスフォーメーションに積極投資する。コロナ禍を乗り切りながら終息後の業界革新を睨むことが重要だと考える。