米潜水艇「タイタン」の事故でエクストリーム(extreme:過激な)・ツーリズムが改めて注目されています。

冒険だけでなく、スケボーやバンジージャンプ、登山などのエクストリーム・スポーツに対して保険は掛けられるのでしょうか。

商業運航が始まった宇宙旅行は?

本記事ではエクストリームな冒険やスポーツに対する保険について解説します。

 

エクストリーム・スポーツの保険

エクストリーム・スポーツには明確な定義がありませんが、高さや速さ、危険さや技の格好良さなどを競うスポーツの総称です。*1

そうしたスポーツに関する保険についてみていきましょう。

 

アーバンスポーツ

エクストリーム・スポーツの中でもスケボーやスノーボードなど「アーバンスポーツ」と呼ばれるジャンルは一部がオリンピック種目になるなど、若い人たちを中心に人気があります。

では、アーバンスポーツ向けの保険はあるのでしょうか。

 

結論からいうと、答えは「イエス」です。

アーバンスポーツ向けの保険としては、たとえば、スケボーやダンス、BMX(バイシクルモトクロス)、パルクール、サーフィン、スノーボードなどを対象に、自身のケガはもちろんのこと、他人にケガをさせたり他人の物を壊した場合の損害賠償や救援者費用を補償する保険があります(図1)。*2

図1 アーバンスポーツを対象にした保険の例 出所)東急少額短期保険株式会社「アーバンスポーツ向けスポーツ保険」 https://plan.tssi.co.jp/urbansports/play/?utm_source=fineplay&utm_medium=banner&utm_campaign=202103

図1 アーバンスポーツを対象にした保険の例
出所)東急少額短期保険株式会社「アーバンスポーツ向けスポーツ保険」
https://plan.tssi.co.jp/urbansports/play/?utm_source=fineplay&utm_medium=banner&utm_campaign=202103

バンジージャンプやスキューバダイビング、登山など

その他のエクストリーム・スポーツを対象にした保険もあります。

たとえば、ある大手保険会社のレジャー保険では、バンジージャンプ、スキューバダイビング、モーターパラグライダーが引受対象になっています。*3

 

現在日本で唯一、公共のインフラを利用し自治体や行政と協力しあって契約を結んでいるバンジージャンプ会社は、バンジージャンプに先だって、「バンジージャンプ確認書兼保険申込書」に自署することになっています。

その保険は、年齢13歳以上、体重40~100kgで健康であることなどを条件に、死亡・後遺障害に対する補償をするものです。*4, *5

 

また、公益財団法人スポーツ安全協会の「スポーツ安全保険」は、子ども(中学生以下で、特別支援学校高等部の生徒を含む)も大人(高校生以上)も、団体活動中とその往復中に限り、以下のようなスポーツが「危険度の高いスポーツ活動(指導・審判を含む)」として補償対象となっています。*6

 

  • 山岳登はん
  • アメリカンフットボール
  • ボブスレー、リュージュ、スケルトン
  • スカイダイビング
  • 航空機(グライダーおよび飛行船を除く)の操縦
  • 超軽量動力機、ハンググライダー、ジャイロプレーンの搭乗
  • その他これらに類するスポーツ活動

 

このように危険性の高いエクストリーム・スポーツにも保険が掛けられます。

ただ、ご紹介したのはその一部にすぎません。さまざまな保険がありますから、利用する場合には比較・検討して目的に合致する保険を選択することが大切です。

 

エクストリーム・ツーリズムの保険

ここではエクストリームな冒険旅行についてみていきます。

 

旅行中にエクストリーム・スポーツをする場合

スキューバダイビングは上述のようなレジャー保険以外の保険でも補償の対象で、旅行中にする場合は、同社の「国内旅行傷害保険」や「海外旅行保険」でも補償対象となります。*7

また、保険会社によっては、国内旅行保険や海外旅行保険に「特別危険担保特約」をセットして契約することで、旅行中のエクストリーム・スポーツによるケガが補償される場合もあります。*8

 

「タイタン」の事故

次に、話題の「タイタン」についてみていきます。

豪華客船タイタニック号の見学ツアー中、潜水艦「タイタン」が海中で消息を絶ち、5名の乗船客全員が死亡したとされる事故です。

 

今後、様々な情報が開示されていくものとみられますが、2023年7月7日現在では、潜水艇の運営会社が乗船客に対して「死亡しても責任は負わない」という免責の書類に署名させていたと報じられています。*9

 

潜水艇だけでなく、バンジージャンプやスカイダイビングなどのエクストリーム・スポーツも含めて、もし利用客が「死亡しても責任は負わない」という書類にサインしていた場合には、事故が発生しても運営会社は本当に責任を負わなくてもいいのでしょうか。

 

今回のような事故が国内で発生した場合は、商法上の責任が発生する可能性があります。

利用客が「死亡しても責任は負わない」という内容の書類にサインをしていた場合でも、商法によって、旅客の生命・身体の侵害による運送人の損害賠償責任を免除したり、軽減したりする特約は原則として無効とされる―そんな見解が弁護士によって示されています。

 

事故の原因がどのようなもので、用いられた潜水艇が見学ツアーを安全に遂行するのに耐えられるものであったかどうかなどの事情をふまえて、運営会社が必要な注意を払っていたことを証明できなければ、利用客(利用客が亡くなった場合には、その相続人)に対して、損害賠償責任を負うことになるのです。

 

また、旅客運送契約にあたらないようなレジャーについては消費者契約法が適用され、消費者がレジャーの実施に際して免責特約にサインをしていたとしても、事業者の損害賠償責任を全部免除するような特約は無効とされます。

そして、運営会社が、利用客の安全について必要な注意を怠っていた場合には、特約と関係なく、損害賠償責任を負うことになります。

 

ちなみに、「タイタン」のツアーで見学しようとしていたタイタニック号の悲劇は1912年4月に起こりました。タイタニック号には乗客と乗組員あわせて2,224人が乗っていましたが、救命ボートは1,178人分しかなく、乗組員の約68%にあたる1,514人が死亡しました。*10

 

この船体だけでも100万ポンドの保険がかけられていたこと、沈没後、多額の保険金請求があったにもかかわらず、保険会社は30日以内に全額を支払ったことが記録に残っています。ただし、その総額は不明です。

図2 ロイズに残っているタイタニック号のページ 出所)LLOYD’S「Lloyd’s and the Titanic」 https://www.lloyds.com/about-lloyds/history/catastophes-and-claims/titanic

図2 ロイズに残っているタイタニック号のページ
出所)LLOYD’S「Lloyd’s and the Titanic」
https://www.lloyds.com/about-lloyds/history/catastophes-and-claims/titanic

極地ツアー

北極や南極へのツアーは「究極のエコツアー」とも呼ばれています。*11

こうした極地ツアーも保険の対象です。*11, *12

 

極地では最寄りの病院が遠く離れている可能性があり、緊急輸送費用が非常に高額となるおそれがあります。そのためツアー客に、最低でもUS$50,000(約650万円)以上の緊急輸送費用(救援費用)をカバーする海外旅行傷害保険(治療・救援費用含む)に必ず加入するよう呼びかけている、北極・南極のアドベンチャーツアー会社もあります。

 

宇宙ビジネス・宇宙旅行

最後に、究極のエクストリーム・ツーリズムともいえる宇宙ビジネスや宇宙旅行に関する保険をみていきましょう。

 

宇宙保険

三井住友海上火災保険(以降、「三井住友海上」)は、1975年に日本で初めて宇宙保険の引受を開始しました。*13

それ以降、宇宙ビジネスのさまざまなプロセスをカバーする保険を提供しています(図3)。

図3 宇宙保険 出所)三井住友海上火災保険会社「地球の、宇宙の、あらゆるリスクに。」 https://www.ms-ins.com/special/space/

図3 宇宙保険
出所)三井住友海上火災保険会社「地球の、宇宙の、あらゆるリスクに。」
https://www.ms-ins.com/special/space/

月保険

宇宙開発の中でも、月は注目の的です。

2022年、三井住友海上は株式会社ispaceと共同で、今後拡大が予想される月面ビジネスにおいて発生するリスクを補償するため、打ち上げから月面着陸までを補償する世界初の「月保険」を開発しました。*14

 

同保険は、当初はispaceのミッションで同社に生じる損害を補償するものでしたが、今後は、月面開発を企図しているさまざまな事業者に提供します。

 

宇宙旅行保険

2021年は「宇宙旅行元年」といわれています。なぜなら、歴史上はじめて宇宙旅行者が職業宇宙飛行士の数を上回ったからです。*15

 

これまでは宇宙旅行者が少なく、宇宙旅行を目的とした保険は本格的に運用されていませんでした。

しかし、現在は宇宙旅行のニーズが高まり、宇宙旅行保険が求められています。

 

そこで、三井住友海上とJAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)は2022年、宇宙旅行保険事業に関する共創活動を開始しました。

図4 三井住友海上とJAXAの「宇宙旅行保険事業」に関する共創活動 出所)JAXA「プレスリリース・記者会見等 三井住友海上とJAXA、「宇宙旅行保険事業」に関する共創活動を開始」 https://www.jaxa.jp/press/2022/07/20220720-1_j.html

図4 三井住友海上とJAXAの「宇宙旅行保険事業」に関する共創活動
出所)JAXA「プレスリリース・記者会見等 三井住友海上とJAXA、「宇宙旅行保険事業」に関する共創活動を開始」
https://www.jaxa.jp/press/2022/07/20220720-1_j.html

宇宙旅行には、高度100kmを目指す小旅行や、地球を周回する数日の旅行、国際宇宙ステーションに滞在する滞在型の旅行など、さまざまな種類があります。

この事業では、それぞれのニーズやリスクをふまえた、最適な宇宙旅行保険の開発を目指しています。

 

おわりに

エクストリーム・スポーツやエクストリーム・ツアーはケガや事故などのリスクを伴います。十分な準備とトレーニングを行い、経験豊富なガイドやインストラクターのサポートを受けることが、安全でエクストリームな体験をするためには欠かせません。

そのうえで、アクティブな冒険の愛好家やスリルを求める人々にとって、保険は不測の事態に備えるための重要な手段だといえるでしょう。

 

(本記事は、みんレクからの転載です)

 

 

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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)

 

 

 

【著者プロフィール】

マーブル株式会社

保険業界のファーストPENGUINになることをビジョンに、テクノロジーとリスクマネジメントを融合して次世代の保険インフラを創るために活動している会社です。

コーポレートサイト

みんレク

Photo:Brian McGowan

 

 

 

資料一覧

  • *1
    出所)東京新聞「今さら人に聞けない…堀米雄斗ら五輪メダリストが集結するX GAMES(Xゲーム)ってどんな大会?BMXって何?(2022年4月22日 11時00分)」
  • *2
    出所)東急少額短期保険株式会社「アーバンスポーツ向けスポーツ保険」
  • *3
    出所)三井住友海上火災保険株式会社「Q【1DAYDAYレジャー保険】スキューバダイビング、モーターパラグライダー、バンジージャンプは引受対象となるレジャーでしょうか?」
  • *4
    出所)バンジージャパン「バンジージャパンについて」
  • *5
    出所)バンジージャパン「バンジージャンプ確認書兼保険申込書」
  • *6
    出所)公益財団法人スポーツ安全協会「加入区分、掛金、補償額」
  • *7
    出所)三井住友海上火災保険株式会社「Q【ケガの保険】スキューバダイビング中にケガをした場合、補償する保険はありますか?」
  • *8
    東京海上日動火災保険株式会社「よくあるご質問(FAQ)」
  • *9
    出所)弁護士ドットコムニュース「タイタン号事故「死んでも運営会社は責任負わない」乗客署名は有効か?」(2023年06月26日 10時40分)」
  • *10
    出所)LLOYD’S「Lloyd’s and the Titanic」
  • *11
    出所)4travel.jp「南極大陸 海外旅行保険 料金比較」
  • *12
    出所)Polarcruise「極地旅行をお申込みされた方々へ」
  • *13
    出所)三井住友海上火災保険株式会社「地球の、宇宙の、あらゆるリスクに。」
  • *14
    出所)三井住友海上火災保険株式会社「ニュースリリース 月への航行・着陸を補償する世界初「月保険」を ispace と開発 」(2022年10月7日)
  • *15
    出所)JAXA国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構「プレスリリース・記者会見等 三井住友海上とJAXA、「宇宙旅行保険事業」に関する共創活動を開始」(2022年7月20日)