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夢見月夜曲 http://yumemizukiyakyoku.blog.fc2.com/

日高千湖のオリジナルBL小説ブログです♪『薄き袂に宿る月影』はこちらへ移動しております。

日高千湖
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2014/02/17

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  • お久しぶりです、日高です。

    皆さま、お久しぶりです。日高千湖でございます。 д゚)チラッブログも村も放置状態にも拘らず、ご訪問下さりランキングバナーを押してくださった方々、過去作品を読んで拍手を押してくださった方々、本当にありがとうございます。不覚にもあつ森にどっぷりとハマってしまいましたwwブログの更新をしなくなると、本当に自由で。しかしあつ森は、テレビCMでやってるようなホノボノしたゲームではありませんでした。メッチャ忙しいゲー...

  • 華恵の夢はいつ開く・14

    「華恵ちゃん!ダメだよ!」華恵ちゃんはオットマンチェアを頭の上まで振り上げた。客席に放り投げられた総也くんは咄嗟に頭を庇う。俺は華恵ちゃんと総也くんの間に滑り込み、華恵ちゃんの腕を掴んだ。「放しなさいよ!私はね、こんな奴を弟だなんて思っちゃいないんだからっ!私はこいつの母親に追い出されたのよっ!」「華恵ちゃん!」「あんただって知ってるでしょっ!ここまでくるのに私がどれだけ苦労したか!」華恵ちゃんは...

  • 【不定期更新中です、すみません】

    2018年度の投票は2月28日までで締め切りました!結果はこちらからどうぞ→2018年投票所【更新情報】しばらくの間、この記事をブログのTOPに置きます。最新記事はこの太字の記事の真下にありますので、よろしくお願い致します!!◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆最新記事です♪ ↓↓↓武村文樹くんの登場となります!投票ではなんと、あの清川薫を抑えて4位に輝きました!なので、ご褒美に彼氏を与えるのだ(笑)恋文・1、...

  • 華恵の夢はいつ開く・13

    華恵ちゃんが座った途端にカウンターはシンとなった。客が会話を止めて華恵ちゃんと総也くんに注目してしまったのだ。カウンターに座っていた常連客はソワソワして落ち着かなくなり、会話する者もいない。店内のざわめきがそれをより一層浮き立たせている。そして、当の本人は緊張しきった表情で真っ直ぐに前を見据えている。前、というよりもどこも見ていない感じ。 手早く準備した圭介くんは、「はい、総ちゃん。後はよろしく...

  • 華恵の夢はいつ開く・12

    その日の《SUZAKU》は忙しくて、気が付けば午前0時を過ぎていた。毎年クリスマスの夜には『S-five』の従業員や顧客が《SUZAKU》に集まって朝まで大騒ぎする。数日後に迫ったクリスマスの話で常連客ばかりが座っているカウンターは賑わっていた。「山下店長」「はい」ベニちゃんが電話の子機を持ってきた。「華恵ちゃんから電話です」「ああ、そう。ありがとう。事務所で話すよ」華恵ちゃんと聞き、総也くんが俺を見た。華恵ち...

  • 華恵の夢はいつ開く・11

    圭介くんは華恵ちゃんの弟・剣持総也を「迎えに行く」と言って早めに退社した。電話で事情を話したところ、予定を切り上げて戻ってきてくれた三木くんは心配そうだ。「山下くん、本当にこれで良かったのかい?」「大丈夫だと思うけど」「だが弟くんは家出してるんだよね?」「本人によれば、ね。相続放棄の書類に印鑑をもらうというのを口実にして上京したと言っていたよ」「騒ぎにならなければいいけど」「華恵ちゃんを捜しに来...

  • 華恵の夢はいつ開く・10

    「ただいま~!」「ああ、お疲れさまでした。内見はどうだった?」圭介くんは疲れた様子も見せずに、むしろ

  • 華恵の夢はいつ開く・9

    《銀香》のカウンターに座って待っていた華恵ちゃんの弟。《銀香》のドアの上部に取り付けられたカウベルをカランカランカランと派手に鳴らして店に入った圭介くんを振り返って見た彼は、なかなかのイケメンだ。華恵ちゃんはいつも化粧をしている。滅多に、いや決して素顔を見せないから比べようもないが顔の輪郭や鼻筋は確かに違う。腹違いの兄弟とはいえ、顔はあまり似ていないようだ。圭介くんはその顔をジッと見つめて、「お...

  • 華恵の夢はいつ開く・8

    「可哀相になっちゃったわ」顔を上げた華恵ちゃんは初めて

  • 華恵の夢はいつ開く・7

    「私が鷹矢さんの友だちを覚えているかって聞いたの、覚えているかしら?」「ああ、覚えてるよ。俺は誰だかわかんなかったけどね」急に話を振っておいて、それが

  • 華恵の夢はいつ開く・6

    1階のエレベーターホールに居た男は確かにあの日すれ違った男だ。その男の視線の先には華恵ちゃん。「お兄ちゃん」そう呼び掛けられた華恵ちゃんの表情が変わっていた。男の顔を見てポカンとしていたのに、今は苦虫でも噛み潰したかのように眉根に皴を寄せて頬をヒクつかせていた。華恵ちゃんがこんな顔をしたの、初めて見た。不思議な事にいつの間にか誰とでも仲良くなってしまう華恵ちゃん。明るくて、ポジティブで、ムードメー...

  • 華恵の夢はいつ開く・5

    華恵ちゃんの新しい店は《スイートハニー》のように広くはない。カウンターが15席。スタッフは3人もいれば十分だろう。あの後、俺には店の事やスタッフの事を相談される事もなく、マジックバーが退去する頃には俺は『鷹矢さんの友だち』の件も忘れかけていた。「良い感じじゃない?」マジックバーが退去し、スツールや厨房器具、食器類は全て運び出され店の中は閑散としていた。照明を点けると営業中の間接照明ではわからなか...

  • 華恵の夢はいつ開く・4

    《スイートハニー》の隣の空き物件は、めでたく華恵ちゃんと契約する事となった。『滝山不動産』の社長である圭介くんが僅かながら抵抗したが、元はと言えばこちらから持ち掛けた話しであるのでここで社長がグズグズいうのはおかしいわけで・・・。「大体さ、俺は聞いてない」圭介くんは朝から機嫌が悪い。それを三木くんは優しく宥めようと頑張っているんだが、もう少しピシッと言っても良いと思う。「社長の圭介くんに言わなか...

  • 華恵の夢はいつ開く・3

    「ヒロ、鷹矢さんの友だちって覚えてる?」「鷹矢さんの友だち?交友関係ならSNSでも見ればわかるだろう?寝ている俺を叩き起こして聞く事か?」高田博臣は不機嫌そうにタバコの箱の底をパンと叩いた。「タバコは吸うなよ」「寝起きの一本だ」「ダメ」俺はヒロの手からタバコを取り上げた。「おいっ!ここ、俺の部屋なんですけど?」睨んでも無駄だ。「ダメ」「人の寝起きを襲いやがって」「襲ってない。起こしただけだ」ヒロが...

  • 華恵の夢はいつ開く・2

    華恵ちゃんは履歴書を机の中に隠してしまった。よーし!それなら俺もエレベーターでイケメンに会った事は言わないでおこう。「いいのか?そいつ、おかしなヤツかもしれないぞ?」「大丈夫よ、お断りしたから」「本当か?」「ええ」「ふうん。でもさ、一応見せてよ」いつになく食い下がる俺に華恵ちゃんは首を傾げた。「なによ?どうしてそんなに興味津々なの?いつもなら勝手にすれば~とか言うクセに」ごもっともです。ここは開...

  • 華恵の夢はいつ開く・1

    「山下くーん!」「はい」「はい!これ、よろしくね」《イゾルデ》の事務所に現れた社長は両手に紙袋を提げていた。そして声を掛けられた俺が振り向きざまに、その紙袋をにこやかに渡す。持たされた両腕がガクンと下がるくらい重い。「うわっ。なんですか、これは!?」見た目よりも重い紙袋。よくここまで底が抜けなかったと感心してしまう。「それ華恵ちゃんに渡しておいてくれないか」「はあ?自分で持っていけばいいじゃないで...

  • さやさやと流るるが如く・103

    階段の上にいるのは確かに見知った人たちだ。逆光になってはっきりとは見えないが、そのシルエットは一目瞭然だ。「菜那美?弓川?」「おーい!永瀬!」聞き覚えのある声。確かに弓川だ。そしてミニスカートからぶっとい脚がニョキッと伸びている女性にしては大き過ぎるシルエット。「永瀬ちゃーん!」ド派手な格好の菜那美が大きく手を振った。菜那美が動いて影が出来、真ん中にいた叶多の顔がはっきりと見えた。叶多ははにかん...

  • さやさやと流るるが如く・102

    ショーの当日は朝8時に店に集合したが、昼食までの記憶があまりない。あまりに慌ただしく、挨拶もそこそこに準備が始まった。北野さんや張本さんともろくに顔を合わせる事も無くて、ただただ準備を進めている。店内の椅子やテーブルを片付けてランウェイを作りリハーサルが始まった。その間も大磯さんは丈やウエストの位置を直したりと修正に追われていたし、音響、照明の担当者と打ち合わせをしていたら時間はいくらあっても足...

  • さやさやと流るるが如く・101

    リハーサルは無事に終わった。

  • さやさやと流るるが如く・100

    ショーを明後日に控えて、叶多の所へ行く余裕はなかった。昨日も今日も終電に乗り、《ハンモック》に行く暇もない。宇宙人たちがいなくなって、ワニとクマだけが俺を待っていた。「ただいま」クマとワニにはあまり馴染みがないかと思って病院へは持って行かなかった。叶多のベッドの上は宇宙人たちで満員状態だしね。「スマホを買って持って行くかな?」新しいスマホを契約すればいいだけだし。コンビニ弁当を広げてスマホをいじ...

  • さやさやと流るるが如く・99

    なんだかんだ言いながら、江原寿美子が俺に期待しているのはわかった。警戒心の強い叶多が心許した相手なら、叶多の病状を好転させることが出来るのではないか、と。本当は医師から詳しい病状や対処法を聞きたかったのだが、それは寿美子が許してくれなかった。叶多は恐怖から、寿美子と同じように心的外傷後ストレス障害を発症しているのかもしれない。子どもになって殻に閉じ籠っているのかもしれない。安全だとわかれば出て来...

  • さやさやと流るるが如く・98

    「あなたを認めたわけじゃないわ」江原寿美子は相変わらずの冷たい口調で俺に釘を刺した。ちょっとだけ利用させてもらうわ、って事か。「ええ。わかっています。叶多は宇宙人を手放さない。もしかしたら俺が話しかける事で記憶が戻るかもしれないって事ですよね?」寿美子はふんと鼻を鳴らした。内縁の夫の心を繋ぎ止める為に叶多を人身御供にしたのは棚に上げて母親面しないでくれ、と叶多なら言いそうだ。寿美子の首筋にはスカー...

  • さやさやと流るるが如く・97

    弓川はよく頑張ってくれた。弓川は俺の指示どおりに叶多の家の前で江原寿美子が乗ったタクシーと同じ会社からタクシーを呼び、寿美子を降ろした場所を聞き出した。『鎌倉聖洋病院だ』「聖洋病院?系列病院か?」『そうだ。大変だったんだぞ!タクシーの運ちゃんに、おばさんが忘れ物したから届けなきゃならない、でもおばさんがスマホを落としてしまって病院がわからないと嘘八百』「そういう嘘は要らないんだが」明日にはバレる...

  • さやさやと流るるが如く・96

    江原寿美子に警察を呼ばれては仕方がない。ここは諦めて帰るしかない。不甲斐ないが、ここは引いておく方がいい。ストーカー扱いされてしまうのは心外だからな。警察を呼ばれ、しつこく事情を聞かれるのは面白くない。どう考えても俺の方が分が悪いしね。だがここで大人しく引き下がるつもりはなかった。もし寿美子の言うのが本当ならば、彼女は明日必ず病院へ行くはずだ。寿美子が外出しなければ、叶多は家にいるという事。 「...

  • さやさやと流るるが如く・95

    《太郎茶屋》のおばちゃんから、退院した叶多を乗せたというタクシーの運転手がいると聞いた。詳しい話しを聞きたかったが運転手は仕事に出ていて、今日はもう《太郎茶屋》に来る事はないという。《太郎茶屋》の奥には畳が敷いてある。常連のタクシー運転たちの多くは、飯の後はそこで休憩している。彼もその中の一人だ。その人の出勤日やシフトまではおばちゃんにはわからないが、出勤日には午後3時くらいから2時間くらい《太...

  • さやさやと流るるが如く・94

    叶多が意識を取り戻した。だが、俺に連絡はない。何とか面会が出来ないかと菜那美に頼んでみたが、向こうの看護師から良い返事はもらえなかった。病院内で異動があり叶多の病状が全く伝わってこなくなったのだ。叶多は意識は戻ったが、自由に歩き回れる状態ではないという。スマホも操作出来ないくらいの悪い状態なのだろうか。それとも母親の寿美子に止められているのか。意識が戻っただけでも喜ぶべき事なのだが、蚊帳の外に置...

  • さやさやと流るるが如く・93

    事件から2か月が経った。叶多の意識は戻らないままだと聞く。江原寿美子は朝から晩まで叶多の傍で過ごし、俺は一度も面会出来ないままだった。たまに寿美子がいない日もあるようだが、チャンスには恵まれていない。俺も一日中病院に張り付いているわけにもいかないからな。 甥が叔母を襲って従兄弟をメッタ刺しにするというショッキングな事件にマスコミの取材合戦は過熱していたが、2ヵ月も経つと事件の事などすっかり忘れて...

  • さやさやと流るるが如く・92

    やられた。報道によれば、江原寿美子は重傷とはいえ叶多ほどは傷も多くなく症状も重くはない。回復した彼女は看護師たちから俺が見舞いに来る事を知り転院を決めたのだ。「そんな顔すんなよ、欧介」弓川はビール瓶を持ってカウンターに移動してきた。ドアを開けた瞬間の俺の顔があまりにも悲惨だったので、「見るに見かねて」今夜は臨時休業にするそうだ。弓川はタンと置いたグラスにビールを注ぎ分けて、一つは俺の前に置いた。...

  • 三度の飯より君が好き。~『春の夜の夢の浮橋』番外編

    ★去年の7月19日から9月20日までの二ヶ月、熱い戦いがございました。お忘れかもしれませんけど!!(忘れさせてるのは日高?)投票所を設けまして、皆さまには推しに熱い一票を投じて頂きました。そこで第一位となりました山下明利のSSとなります。←今頃かよ!忘れていたわけじゃないんですよ?日高のペースがトロいからですwwすみませんです。頑張りますので、応援してやってくださいませっ(汗)一年越しとなってしまいま...

  • さやさやと流るるが如く・91

    追い出されるように病院を出て、辺りを見回したが北岡の姿は見つけることが出来なかった。 北岡たちが病院長に手を回して叶多に会わせてくれた事には感謝しかない。北岡には一言お礼を言いたかったが相手はヤクザだ。偶然、余所で会ったとしても他人のふりをするべき人だ。これと引き換えに何か要求されたとしても、こんなチャンスがあれば俺はOKするだろう。ただ、こういうラッキーは一度きりなのだ。 翌日も叶多には面会出...

  • さやさやと流るるが如く・90

    翌日も叶多に会う事は出来なかった。翌日も、翌日も、叶多に会う事は出来なかった。3日連続で面会を断られた挙句に、「何度来られても面会は出来ませんから!」と厳しい口調で言われてしまってさすがにへこんだ。仕方なくナースセンターの前から叶多の

  • さやさやと流るるが如く・89

    翌日、俺は宇宙人を抱えて病院へ向かった。叶多のベッドの枕元に置いてもらおうと思ったからだ。集中治療室を出られたのだから、ぬいぐるみくらい置けると思ったのだ。「お前も叶多の近くにいたいだろう?叶多が目を覚ました時にお前がいたら喜ぶと思うんだよな」宇宙人は俺の代わりだ。 ひょうきん者の宇宙人は意外と目立って、電車の中では視線を感じたが気にしない。叶多が目を覚ました時にこれを見れば、すぐに俺を呼んでく...

  • さやさやと流るるが如く・88

    背中に張り付いて泣く菜那美の太い腕をポンと叩いた。「おい、放せ。俺が窒息する」「失礼ね!」「お前が激突したから、マジで首が痛いんだよ。バーカ」「ホント、素直じゃないんだからっ!」「悪かったな」「泣きたい時は泣きなよ」菜那美は背中で泣き始めた。グズグズと鼻を啜りながら俺に向かって「バカ、バカ」と繰り返す。菜那美と叶多は仲が良かった。叶多は気難しい所もあるし厳しい事も言うが、元来優しい。人の痛みを知...

  • さやさやと流るるが如く・87

    翌日、弓川と菜那美を連れて聖洋病院へと向かった。前日から服装は地味にしろと言っておいたのに、菜那美は嫌味のように黄色いミニスカートに派手な蛍光グリーンのジャンパーを着て俺を迎えに来た。マンションの前で菜那美を怒鳴り、ミニスカートをジーンズに派手なジャンパーを黒いジャンパーに変えさせるだけで30分かかり、電車に乗る頃の俺は不機嫌の塊だった。「一秒でも早く病院に着きたいのに、手間を取らせやがって」「...

  • さやさやと流るるが如く・86

    雨は本降りになっていた。病院を出るとすっかり暗くなっていた。叶多が運ばれたのは集中治療室で、俺たちは長時間病院に留まる事は出来ず追い出されてしまった。 寿美子も重傷だが意識はある。病棟に運ばれた彼女の様子を張本さんが見に行ったが、眠っていて話しをすることは出来なかった。ここへ運ばれた時、寿美子は意識がなかったが治療が終わり意識が戻ると興奮状態になり息子の名前を呼び続けたそうだ。寿美子の受けたショ...

  • さやさやと流るるが如く・85

    待合室の窓の向こうは中庭だ。ホテルの傷害事件の被害者は、全員この病院へ運ばれたようだ。救急のフロアはずっとバタバタしているし、待合室には被害者の家族やホテル関係者が続々と詰め掛けて来ている。 それ程広くない中庭に植えられた木々が雨に濡れていた。降り続く雨を恨めしく思いながら、俺は漏れ聞こえてくる家族たちの会話に聞き耳を立てていた。何か情報が得られないかと思って。どうしてうちの子が、と泣き崩れる母...

  • さやさやと流るるが如く・84

    渋谷ワールドホテルの丸いビルがはっきりと見えてきた。警察の警戒網が解かれ車の流れもスムーズになり、鈍色の空からはポツポツと雨が降り始めていた。叶多に会ったら傘を買おう。ビニール傘じゃなくてちゃんとしたやつ。お揃いがいい。オーダーしてもいい。一生物の良いのを買おう。「もうすぐだぞ」運転している張本さんの声も表情も厳しい。「はい」叶多には電話を掛け続けていたが出ない。留守電には『渋谷ワールドホテルま...

  • さやさやと流るるが如く・83

    張本さんと一緒に近所の喫茶店で昼食を食べた。食後のコーヒーを飲みながら、張本さんは新聞を広げ俺はボンヤリと外を眺めている。徐々に雲の動きが早くなり風が出て来た。雨が降りそうだった。「一雨来そうだな」「傘、持ってない」「珍しいな。お前、カバンには折り畳み傘を入れていただろう?」「そうなんですけど。今日はこのとおり手ぶらなんで」両手を上げて見せると、張本さんは「そういえば、お前はサラリーマンじゃなく...

  • さやさやと流るるが如く・82

    叶多は朝早くから出て行った。俺は一緒に行くと言ったが、そこは家族の問題だからと軽く断られた。俺は張本さんに言われていたように、すでに新会社で働いているデザイナーの大磯さんの手伝いをしに行った。手伝いといっても備品をチェックしてリストを作ったり、大磯さんの荷物を整理したり、その程度。叶多からの連絡を待ちながら事務所で過ごし、一緒に帰宅した。「川西組の件、終わったよ」「そうか」川西組の北岡をホテルに...

  • さやさやと流るるが如く・81

    叶多はぬいぐるみに「ただいま」と言うと、弓川セレクトのクマを手に取った。「これ、可愛くないよ」「宇宙人も可愛くないから誰も持って行かない、可哀相だって言って叶多が持って帰ったじゃないか?」「そうだったっけ?」「ああ。これも可哀相だろう?」「ふうん・・・まあ、仕方がないか」叶多はクマの顔がクシャッとなるくらい叩くとカエルの背中に置いた。2体が縦に並んだのを見て、更に気に入らないようだ。「変なの」「...

  • さやさやと流るるが如く・80

    日付が変わる頃《ハンモック》を出た。酔っ払った叶多はハンモックから緑色のワニのぬいぐるみをチョイスした。「またぬいぐるみが増えるのか?」「うん。可愛いじゃないか」1メートルくらい長さのあるワニは愛嬌のある顔だが微妙に大きい。しかもそれ程可愛くはない。「この長さ。ソファーを占領してしまうぞ」「ダメなのか?宇宙人は持って帰ったのに?」「あいつは相棒なんだ」君に捨てられた

  • さやさやと流るるが如く・79

    客がいなかった《ハンモック》は、早々に閉めて俺たちの貸し切りになった。「いいのか?」「いいってことよ!2人が無事だったお祝いだ!」「お祝いなら金は払わないぞ」弓川は呆れたように俺を見た。「当たり前じゃないか。友だちだろう?」「お前、ヤクザ並みだな」「お祝いだろう?それに菜那美の見舞金も分捕ってきてやっただろうが」「偉そうに言うなよ。殴られて怪我をしたんだから、これは正当な金だ」「菜那美は仕事に行...

  • さやさやと流るるが如く・78

    場所を移し、若頭から丁重なる謝罪を受けた。 殴られた俺と菜那美への見舞金を握らされ、黒塗りの高級車に乗せられて、今は《太郎茶屋》でチキン南蛮定食を注文している。「一体どういう事なんだよ?」若頭と北岡に、今日の所はこれでお引き取り願いますと頭を下げられて、俺はどうして良いかわからなかったが、叶多はしっかりと顔を上げて若頭に対して念書を準備しておいてくれ、と要求した。江原寿美子が金を準備し、明日北...

  • さやさやと流るるが如く・77

    話しをすれば見張りが煩いと言う。だが叶多はそういうのは一切気にもかけずに俺に話し掛けてきて、その度に「煩せえ!」と怒鳴られる。「僕、怒鳴られるの苦手」見張りの男をチラリと見ては溜息を吐く。「じゃあ大人しくしててくれ」コソコソと話しても見張りが睨む。ケンがその後ろで口に指を当ててシーッとサインを送ってくるのを見て、さすがの叶多も小声になった。「欧介」「なんだ?」「ありがとう」「何が?」「宇宙人」「...

  • さやさやと流るるが如く・76

    北岡は

  • さやさやと流るるが如く・75

    最悪。叶多はヤクザの前で堂々と「ヤクザは怖い」と言い放った。呆れるよ、全く。 そんな俺の心の内など叶多に知れるはずもなく、叶多は若頭に向かって堂々と正論を吐く。「母と伯父は兄妹ですが、母が家出して以来親戚付き合いはありません。僕は伯父一家とは面識もありません。母は祖父が亡くなった時に土地を相続しましたが、伯父の店の経営が上手くいかなくなった時に返して欲しいと言われて返しました。その上、母は伯父に...

  • さやさやと流るるが如く・74

    「叶多、余計な事は言うなっ!」制止したが無駄だった。叶多のどこにそんなスイッチがあったのかわからない。気は短いが、カッとしてもムスッとして黙るタイプなので、ここで言い返すとは思ってもみなかった。「何だと!?貴様っ!」スキンヘッドが叶多の胸倉を掴んだ。「お姉ちゃんみたいな綺麗な顔をグチャグチャにしてやろうか!?」「僕を殴ったら、あんた死ぬよ」叶多の落ち着き切った声は逆に迫力がある。小太りスキンヘッド...

  • さやさやと流るるが如く・73

    縛られたままでトイレに連れて行かれた。俺がいる倉庫のような建物の奥の方には、普段は使わない物を放り込んであるようで埃臭い。外に出て思わず深呼吸をすると、男は「お前はマジで度胸があるな」と感心していた。「そんなんじゃないですよ。中が埃臭かったんで。肺の中に埃が詰まってるような気がしたからですよ」「ははっ。あそこは倉庫だからな」「あの・・・聞いてもいいですか?」遠慮気味に言うと男は小声で答えた。「い...

  • さやさやと流るるが如く・72

    壁の上の方には小さな窓が並んでいる。そこから見えていた夜空が白み始めて朝が来たとわかった。一人暮らしだから俺が帰宅しなかったのを誰も不思議には思わない。スマホは没収されてしまった。手首は拘束されたまま。出入り口には2人の男。ヤツらは偉い人から見張っていろと命じられている。倉庫のような所は寒くて、それが不満な2人は俺に向かってブツブツと文句を言っている。偉い人が立ち去る前に「素人さんだから丁重に扱...

  • さやさやと流るるが如く・71

    コンクリートの床に転がされていた俺は引き摺られて壁際に移動させられた。手首の拘束はそのままだ。倉庫のような建物は人気のない場所に建っているようだ。車の音もしないし、生活音も聞こえない。 偉い人は恭しく差し出されたファイルを片手に、江原社長の息子の写真と俺の顔を見比べた。「違うな」「だから言ったでしょう?」彼はファイルに写真を戻し、そのファイルで手下の頭をバンッ、バンッとリズミカルに叩いていく。「...

  • さやさやと流るるが如く・70

    車には何人乗っているのだろう。どこへ向かっているのだろう。車には少なくとも4人が乗っている。話し声を聞いたのはさっきの男だけだ。俺を乗せたので、そいつのスペースが狭くなったという事だろうか、「狭い」と言いながら俺を足で押したり蹴ったりを繰り返している。そいつ以外の者は口を利かない。運転手もどこへ向かうかあらかじめ聞いていたようで無言だった。音楽も流れていない。何人か分の息使い、咳払い、そして高級...

  • さやさやと流るるが如く・69

    手を振っていた常連の女性が隣に移動してきて一緒に飲んだ。元々彼女とは《ハンモック》で顔見知り程度だったが、一人で来ていた叶多が先に仲良くなり自然と俺とも話すようになった。俺と叶多の関係を知っても、彼女の態度は変わらない。むしろ、興味津々だ。「ええっ!叶多くんの居場所がわかんないの!?」酔っ払いのリツさんの声は鼓膜が破れそうなくらいにデカイ。俺は思わずのけ反り、弓川は失笑している。「ええ、まあ」「...

  • さやさやと流るるが如く・68

    張本さんの言うとおりだ。辞表を出し、部屋の荷物を片付けてゴミすらも持ち出している。几帳面なようだが、合鍵は返していない。叶多が切羽詰まっていたとしたら、全てそのままで姿をくらましたはず。叶多が持っていた合鍵は部屋にはなかった。俺が部屋に帰った時、部屋には鍵が掛かっていた。ポストを覗いたが鍵はない。もしかしたらそれが

  • さやさやと流るるが如く・67

    張本さん行きつけの喫茶店は60代くらいの夫婦が2人でやっている。ここで注文するのは決まってオムライスだ。マッシュルームがたくさん入ったデミグラスソースが皿からこぼれんばかりに掛けられたオムライスにはファンが多い。昼時ともなればいつも満席だ。「やっぱ、ここのオムライスは美味いな」「そうですね」前の席に座った張本さんが満足そうにオムライスを頬張るのを見ながら俺は、ここの味なら叶多も気に入っただろうな...

  • さやさやと流るるが如く・66

    「おーい!欧介!」遠くで声がした。「欧介」と呼ばれて一瞬だけ叶多が呼んでいるのかと思ったが、今の声は違う。叶多の「欧介」には甘えるような響きがある。これは弓川の声だ。こんな濁声と叶多の軽やかな声を聞き間違うなんて、相当酔っているに違いない。あっ、寝惚けている、か。「はーい」「起きろ」カウンターに突っ伏して寝ていた俺はよっこらしょと重い頭を持ち上げた。薄く目を開けると、やっぱりというか当然というか弓...

  • さやさやと流るるが如く・65

    叶多は会社を辞めていた。叶多の行方を知る可能性のある人物は母親の江原寿美子だが、彼女の住所を俺は知らない。電話番号はわかったが、すでに解約されていた。「住所だけでも聞いておけば良かったな」叶多がマンションを決めて母親を引越しさせた時は、それがどこであろうと俺には関係なかった。さして興味もなかったからな。最寄り駅だけでも聞いておけば手掛かりになったかも。「それくらいではマンションは見つけられないか...

  • さやさやと流るるが如く・64

    いつものコンビニでパンを買い、会社で作ったコーヒーを飲みながら食べる。

  • さやさやと流るるが如く・63

    弓川と2人で山盛りのチャーハンを食べた。うんざりするような量と味。弓川はおふざけで大量のチャーハンを作った事を後悔し何度も「ギブ」と言ったが、俺は全て食べ終わるまで許さなかった。 弓川は丸くなった腹を擦りながら俺を見送ってくれた。「これ、いつ返しに来たんだろうな?」店先のハンモックにはこぼれ落ちそうなくらいのぬいぐるみが乗っかっている。その一番上に宇宙人とウサギとカエルのケロちゃんは身を寄せ合う...

  • さやさやと流るるが如く・62

    水内叶多が消えた。

  • さやさやと流るるが如く・61

    翌朝もいつものようにコーヒーを飲んで一緒にマンションを出た。俺たちはいつもの電車に乗り、いつものように別れた。電車のドア越しに手を振り合って、今夜の飯は《太郎茶屋》に決まった。 明鷹は相変わらず病欠で、社長は暗い顔をして出勤してきた。営業部長は俺の顔を見るとすぐに目を背けた。営業部のメンバーが揃い始め、張本さんが「永瀬、コーヒーを頼む」と手を上げた。それに続いてバラバラと手が上がり、俺は出社して...

  • さやさやと流るるが如く・60

    「張本さんって、いい人だね」カバンをブラブラさせながら俺の横を歩いている叶多の表情は明るかった。「ああ。頼りになる先輩だよ」「僕の会社の先輩は頼りになるというよりもライバルって感じなんだよね」「うちは大きな会社じゃないからな。総務も営業も同じフロアだし。ついでに同族会社だから、社員は社長の親族にヨイショするのが慣例だ」「あははっ。そうなんだ。うちなんか10人そこそこの小さな会社だよ。いつ潰れるかわ...

  • さやさやと流るるが如く・59

    「張本さん、社長に明鷹のオトコの件をチクったのって、誰だかわかりますか?」「知らない」「俺、北野さんじゃないかと思ったんですけど?」「はあ?北野?」張本さんはポカンとした。「変なんですよね。明鷹に殴られた後、定食屋で飯を食っていたら北野さんが来て相席になったんです。いつもだったら席は一緒だけど飯は奢らないからな、って言う所なんですが、俺の定食代も怪我の見舞いだって言って出してくれたんです」「昼飯を...

  • さやさやと流るるが如く・58

    正式に辞表を渡された社長は困り切っていた。「明鷹にはきちんと謝罪させるから」と言われたが、それが実現するとは思えなかった。 下津浦明鷹は今日も病欠。このままでは明鷹は勿論の事、社長自身も社員からの信頼を失ってしまう。いくら明鷹が次期社長とはいえ、今の所は

  • 合縁奇縁・92【最終話】

    「そうですよね」カップの向こうの先生がゆらりと揺れた。「そうだよ。つまらない事は

  • 合縁奇縁・91

    途中のコンビニで弁当を買い、先生のマンションに向かった。玄関には一週間の滞在でもOKなくらいのスーツケースが置いてある。2泊3日にしては大き過ぎる。「荷物、多くないですか?」「いつもこんなもんだよ」「そうですか」「資料も持って行くし、延泊する事もあるからね」「延泊?僕は延泊は出来ませんよ」「わかってるよ。その時は俺だけ残るから」「そうしてください」「寂しいけど」「仕方がありませんよ」不満そうな先...

  • 合縁奇縁・90

    「僕自身がどうしたいのか、か」考えても答えは全く見えなかった。いい感じで上手くバランスを取りながらどちらも上手くこなしている、と自分では思っていたからだ。先生と出会って私生活も充実して、生活に張りが出た。忙しいながらも楽しくて、僕は満足だった。 先生の事務所で働くのは嫌ではない。いや、むしろ楽しい。作家としての活動をサポートし、時にはマスコミへの対応もする。今までにない活動で物珍しさもあると思う。...

  • 悪の報いは針の先【後編】

    「全く、何をやってんですか?

  • 悪の報いは針の先【前編】

    ★皆さま、こんばんは~!!サボリ癖の付いた日高でーす♪先日合縁奇縁・79話で改装された黒川の役員室の話題が出ました。それを読まれたRさまから『黒川の部屋もはや役員室のカケラもないなw』と突っ込まれまして(笑)そりゃそうだよな。そう思うよな。それは部屋を見た全員が思っているに違いない。ふと、降りてきました~♪✨✨✨というわけで、SSを一本挟みます。久しぶりに怜二くんがやってきました~どうぞ!!「大丈夫だっ...

  • 合縁奇縁・89

    清家先生は出版社のお偉いさんたちと会食があり今夜は遅くなる。一人の食事がつまらなくなり、先生と会わない日は服部くんと一緒に食べる事が多くなった。今夜は服部くんと食事に行く約束だったのだが、旅行の準備をする為にキャンセルして退社しコンビニから真っ直ぐに部屋に戻った。コンビニの袋をブラブラさせながら部屋に戻るのが寂しくて、今まで会社と部屋の往復に明け暮れていた自分に呆れてしまう。 『S-five』は泊り...

  • 合縁奇縁・88

    「山下常務、おはようございます」「おはようございます」出勤して来られた山下常務を迎え、荷物を受け取ってエレベーターにお乗せする為に一歩先を歩く。「常務、昨夜、清家先生から聞いたのですが」「ああ、冬休みの事?」昨日一日一緒に行動していたのに、僕には沖縄行きの事などおくびにも出さずに過ごしておられた。いつからそれを考え、いつから手配されていたのだろう。信吾社長に三木社長、橋本専務、それから山下常務と綱...

  • 合縁奇縁・87

    先生は明後日から沖縄へ取材旅行に出発する。それは先月から決まっていた。冬の沖縄は初めてだというので、現地のコーディネーターに気温や天候を聞いて荷物を準備していた。「それは・・・。山下常務が良いとおっしゃったのですか?」「そうだよ」「本当に?」「本当だよ。ここで嘘吐いてどうすんの?」「それはそうですが」飛行機のチケットもホテルも僕が予約した。もちろん先生一人分だ。「でも、チケットもホテルも一人分し...

  • 合縁奇縁・86

    《銀香》の服部くんとは週に1、2回夕飯を一緒に食べるようになった。おかげで僕のコンビニ弁当率は大幅にダウンした。最初は駐車場で待つ先生の車に乗る前に服部くんに挨拶するのが面映ゆかったが、最近ではそういうのも無くなった。先生のお迎えがあまりにも頻繁なので、いちいち恥ずかしがるのも大人げない。 12月ともなれば定時に退社してもすでに日が暮れていて、歩道には街灯が灯り、『S-five』ビルの看板灯も煌々と...

  • 合縁奇縁・85

    「えっ、ここへ彼女が来たのか?」「はい。これが先生から預かっていた鍵だそうです」彼女が勝手に部屋の鍵を開けて入ってきた所は端折って報告した。鍵を見ればわかるはずだから。「ふうん。俺は事務所の鍵しか預けた覚えはないんだが」清家先生は正午過ぎには《兼牛》の牛丼弁当を提げて帰宅した。午前中に彼女が置いていったキーホルダーを見ながら、先生は呆れたように言った。「事務所が玄関と裏口。マンションに俺の車のキー...

  • 青に埋もれる。~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

    《シェーナ》の駐車場に車を停め、《BlauGarten》(ブラウガルテン)の事務所に入った。「お疲れさま~!」「・・・」「あれ?誰もいないの?」休憩時間のはずなんだけど、事務所には誰もいない。「テル、いないの?」声を掛けたのに輝也どころか《BlauGarten》の他のスタッフすら出て来ない。シンと静まり返った事務所。厨房の方にも人気はない。店の方も人気がないが、事務所のエアコンは付いたままだ。じ...

  • 合縁奇縁・84

    指一本動かせないくらいまで愛されて、僕は目を瞑った。微睡の中で、時々先生の温もりを感じて安堵する。今、自分がどこにいるのかさえも考えられなくなって、ただ彼の成すがまま。ゆさゆさと身体が揺れる。「落とさないから、大丈夫」と言う声が聞こえた。ああ、僕は彼に抱かれてどこかに運ばれているのだ。誰かに大切にされるというのは、何と気持ちが良いのだろう。 重い瞼を僅かに開くと、隣で寝ている清家先生が見えた。僕...

  • 合縁奇縁・83

    ★今回も18歳未満閲覧禁止です。年齢に達しない方は回れ右でお願いします♪ 僕は腕を真っ直ぐに上げた。上に伸ばせば先生の顔に触れられる。そう思ったが目測を誤ったのか先生には届かなかった。「ああっ」先生の顔に触れようとした腕が空を切る。もう力が入らない。僕の全身は余す所なく先生に愛撫されて溶けてしまったようだ。もう声も出ない。「どうした?痛いのか?」「痛く、ない」もう一度、僕は腕を伸ばした。先生の身...

  • 合縁奇縁・82

    ★今回18歳未満は閲覧禁止です。年齢に達しない方は回れ右♪ ジジジッとファスナーを下ろす音が聞こえた。心臓がドキドキドキと早鐘のように打つ。「ちょっと待ってください」と言いたいんだけど、僕はその言葉が出なかった。どうしてかな。僕もそうしたいと思っているから、それが「ちょっと待ってください」を引き留めている。 目を開けると、先生の顔がある。その瞳は僕を求めていた。これこそが僕が欲しかったものなのかな?...

  • 合縁奇縁・81

    「好きだよ」「ええ、僕もあなたを好きになってしまいました」「ははっ。こんな場面でもそういうお堅い言い方する所も、全部、好きだ」「お堅い」か。それに僕はどう答えればいいんだろう。お堅くはございませんよ、と言えば良いのかな。先生の腰に回した腕の力を強くしてみる。こんなふうに抱き合っているだけでも、僕は満足だった。石場とは、こんなふうに抱き合って気持ちを確かめ合った事などなかったから。先生を僕だけの人と...

  • 合縁奇縁・80

    17時ちょうどに退社して下に降りると、先生の赤いスポーツカーが停まっていた。さすがに《銀香》へ入るのは遠慮したのか、空いている駐車スペースに停車していた。僕がエレベーターから降りると、こちらを見ていた先生が僕に向かって手を振る。まるで飼い主を待つ大型犬だ。その様子に気が付いたのか《銀香》にいる服部くんの視線が僕に向かってきた。つい先日まで毎日立ち寄っていたのに今日になって立ち寄らないわけにはいか...

  • 合縁奇縁・79

    午後からブラインドを取り付けてもらい、その後は照明器具を取り付けに業者がやって来た。間接照明を新たに取り付けたが、黒川店長は音声で全ての家電が操作出来るように設定するそうだ。「稲村くん。ここ、いつからバーになった?」部屋の入り口で、さすがの橋本専務も呆れたように言った。「そうですね、いつからでしょうか?」今朝までは殺風景なオフィスだったのが、まるでバーのような造りに変わってしまった。指定された場...

  • 合縁奇縁・78

    黒川店長は僕の代わりに山下常務に付いておられる。黒川店長は法人化する《サラダボックス・B》の社長として、挨拶を兼ねて山下常務と共に各所を回っている。事務所には橋本専務がおられるので、感染予防の為に僕は役員室で仕事をしている。パソコン一台あれば仕事は出来るので、場所が違っていても不便はない。橋本専務は監視役がいないからとにかく自由だ。三木社長は「一日中、パソコンで旅行先を探しているよ」と笑っておら...

  • 合縁奇縁・77

    僕は恋に臆病になっていた。まずはその取っ掛かりの部分に手を出すのでさえも怖かった。だから誘われてもOKはしなかった。まあ、つまらない僕が誘われるなんて事は滅多にない事なんだけれども・・・。『S-five』の華やかな人たちと一緒に居れば僕の地味さは余計に際立ってしまって、ますますつまらない男にしか見えなかっただろうけどね。「こんな僕でいいのですか?」ベッドに正座して真面目に尋ねた僕の頬を両手で優しく包...

  • 合縁奇縁・76

    「実は明日、藤代未知久に会うんだ」「えっ?では、もしかして?」ドラマの続編の出演依頼をしているが、藤代未知久側からなかなかOKが出ないとぼやいていたのに。「ドラマの出演交渉をしていたんだけど、やっとOKが出たんだ」「良かったじゃないですか!」「やっとだよ」先生はホッとしたような顔で言った。藤代未知久サイドには以前から出演交渉していたが、売れっ子の彼のスケジュールが合わずに話が進まないと言っていた。...

  • 合縁奇縁・75

    先生から電話が掛かってきたのは、もうすぐ日付が変わろうかという時間だった。『今から出ます』「わかりました」この時間なら20分もあれば着くだろう。清家先生が出した結論を聞くのは怖いが、聞かなければならない。スーツにでも着替えて待つかな。 インターフォンが鳴ってオートロックを解除して、玄関まで走って行き鍵を開けてドアを開ける。エレベーターがここまで上がってくるのが待ち遠しい。 こんな気持ちになったの...

  • 合縁奇縁・74

    「では、私はこれで」微笑んではいるが彼女の目は笑っていない。先生が今まで僕と一緒にいたのは明白だ。インフルエンザで自宅にいるはずの先生が居なくて、帰ってきたと思ったら男を連れてきた。この状況では言い逃れも出来ないな。彼女は先生の事務所で働くうちに、先生の性癖に気が付いたのだろう。もしくは興信所でも使って調べたか。「先生をお送りくださってありがとうございました」その場で深々と頭を下げた彼女に圧されて...

  • 合縁奇縁・73

    清家先生と一緒に昼食を食べ、重箱を返さなければならないという好都合な口実を振りかざした僕は、漸く先生を助手席に乗せることが出来た。「お好きなだけここに居ても構いません」先生は不服そうに僕の口真似をした。「そう言ったのに」「居て下さっても構いませんが、締め切りは守りましょう」「・・・締め切り、締め切りって、マジで煩い」いじけたのかプイッと横を向いた。「当たり前です。締め切りは守らないは、インフルエ...

  • 合縁奇縁・72

    清家先生はソファーに座り優雅にモーニングコーヒーを飲んでおられる。僕は朝食の後、掃除を始めた。モップで床を拭き、掃除機をかけ、普段はしない窓掃除をしている僕を先生は面白そうに見ていた。時々、退屈そうにアクビをして「まだ終わらないの?」と声を掛けてきたが、僕はひたすらどうやったら早々にお帰り頂けるかと考えていた。 トーストと頂き物のスープ、フルーツヨーグルトの簡単な朝食の後、「送ります」と言ったが...

  • 合縁奇縁・71

    「おはようございます、稲村くん」ドアを開けると三木社長の精悍な顔があった。朝からモヤモヤを抱えている僕とは真逆の爽やか過ぎる笑顔だ。「おはようございます」「あれ?何かあった?」鋭い。ここは冷静に対処しなければ彼にはバレてしまうぞ。「何もございませんが」「そう?朝から色っぽいよ?」「そんな事はございません」マスクをしていてもイイ男だし勘はやたらと良い。「そうかなあ。君がインフルエンザでなかったらハグ...

  • 合縁奇縁・70

    「さあ!起きてください!」「まだ眠い」先生は子どものように毛布にしがみ付いた。「早過ぎるよ。今、何時?」「もう8時半です」「まだ8時半じゃないか」「

  • 合縁奇縁・69

    「ダメです!」「ここでいいって」「いけません!僕がそこで寝ますから、先生はどうぞベッドをお使い下さい」「大丈夫だって。熱もないし」ソファーに寝転がった清家先生にベッドを使うように言うが、先生は動かない。僕の方が治りが早いのだから先生が安静にしていた方がいいに決まってる。「しかし」「なあ」「はい」「いつになったら敬語じゃなくなるんだ?」「知りませんよ!私は自分が話し易いから敬語なんです!」「ふーん」...

  • 合縁奇縁・68

    「なあ、マスク、外してもいいか?」「構いませんが」どうせ2人ともインフルエンザだし。「じゃ、外す」清家先生はマスクを外してテーブルに放った。「実のところ、僕はあなたをどう思っているのか、まだよくわからないんですよ」先生は呆れたような顔で僕を見た。「まだ言ってる」「しかし」「あのさ、マッチングアプリを使う70%の人の目的は恋人を探す為なんだぞ」「マッチングアプリ、ですか?」「そう。そして40%はアプ...

  • 合縁奇縁・67

    インターフォンが鳴る。清家先生との電話を切って約1時間だ。今、インターフォンを鳴らしているのは誰か、予想は付く。出た方がいいのか、それとも無視した方がいいのか。僕が迷っている間も、インターフォンは鳴り続けている。「このままでは寝られないな」渋々を装ってカーディガンを肩に掛けてベッドから出た。本当は走って行きたいような気分なのにな。僕の中に残っているつまらない感情は、僕に精一杯の虚勢を張らせるのだ...

  • 合縁奇縁・66

    心ここに在らず、だ。僕という人間は現金なもので、お手軽なキス一つでホロリと騙されてしまう。 自分の部屋に戻る途中も、戻ってからも、僕の頭の中は先生で一杯だった。このままではいけない。過去の失敗を戒めとして、僕は気持ちを落ち着けなければならない。浮ついた気持ちのままでは、また失敗する。そして忘れてはいけない

  • 合縁奇縁・65

  • 合縁奇縁・64

    「何をしてるんですか!」勝手にドアを開けて助手席に収まった清家先生。「早く出してよ」「降りてください」「早く出ないとゲート閉まっちゃうよ?」「えっ?」慌てて前を見たが、ゲートはまだ上がったままだ。「お金は払いましたから!」「知らないのか?金を払っても一定時間が経つと、車が出なくてもゲートは閉まっちゃうんだぞ」「えっ?そんな!」そんな理不尽な話しは聞いた事がない。これまでも都内の駐車場を何百回と利用...

  • 合縁奇縁・63

    怜二くんは電車通勤だ。彼が自分の車を運転するのは滝山本家を訪れる時くらいだ。三木社長はいつも車庫の中で眠っている怜二くんの車を借りてくれた。信吾社長から電話でいきなり「消毒してから返してくれよ」と言われて面食らったが、

  • 合縁奇縁・62

    先生の熱は38度5分前後をウロウロしている。雑炊のおかげなのか、少しは気分が良いようだ。「汗を掻いてませんか?」「うん。着替えたかったけど、寒くて脱ぐ気がしなかったんだ」「今はどうですか?」「雑炊で温まったから、今なら」「では着替えを持ってまいりましょう。どこにありますか?」「下着とパジャマは脱衣所の引き出しの中」「わかりました」エアコンの設定温度を2度上げてから僕は洗面所に向かった。顔だけでも...

  • 合縁奇縁・61

    三木社長のレシピは、あまり料理をしない僕にも必ず作りあげられるように簡潔にわかり易く書かれていた。炊飯器の中には思ったとおりご飯はなく、まずは米を洗う事から始めなければならなかった。三木社長が準備してくださった袋の中にエプロンも入っていて、秘書よりも気が利く社長に呆れながらも感謝した。「まずはご飯を炊いて、出汁を取って」出汁の素があるからここまでは簡単だ。「稲村さーん」ベッドルームから弱々しい声...

  • 合縁奇縁・60

    三木社長が「1時間」と言ったら確実に

  • 合縁奇縁・59

    「牛丼弁当は要らないと連絡した方がいいかな?」それとも・・・。昼ご飯を食べながら、スマホで今日の先生のスケジュールを確認してみた。ホームページでは先生のテレビ、ラジオ出演や取り上げられた雑誌などが紹介され、書店でのサイン会やトークショーは日時と場所が告知されている。「今日は午後3時から渋谷でトークショーか。終わるのは5時くらいかな?」即売会とサイン会がセットになっているなら一時間では終わらないだろ...

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