
第172回芥川賞・直木賞の贈呈式が21日、東京都内で開かれ、3人の受賞者が喜びを語った。
「DTOPIA(デートピア)」(河出書房新社)で芥川賞を受けた安堂ホセさんはラッパーのケンドリック・ラマーさんの名前を出し、「アメリカのブラックカルチャーを見てると、歴史的なアーカイブみたいなのがたくさんあって、すごくうらやましいなと思うことがあります」と述懐。かたや日本語で小説を書く自身は「何かを語ろうとするときにアーカイブを使っていくというよりも、アーカイブ自体を増やしたいみたいな気持ちで挑戦していた」と振り返り、「いままで書いたことが、いつか新しい誰かの作品や自分の将来の作品のアーカイブになったらいいなと思っています」と述べた。
「ゲーテはすべてを言った」(朝日新聞出版)で同じく芥川賞の鈴木結生(ゆうい)さんは、贈呈式に出席する前に東京大学の「大江健三郎文庫」を訪れたと明かした。大江さんのおびただしい修正跡が残る自筆原稿のアーカイブを見て、「つくづく小説というのは恐ろしい行為だな」と思ったという。
無限の可能性がある空想を現実に存在させてしまうことで、「残酷な気分になることも」。それでもなお、小説を書くのは「最後に、あり得たかもしれない可能性すべてを肯定するような瞬間が訪れることを目指して」いるから。「それが自分にとって、いま世界や小説を考える上でいちばん大切な奇跡なのかなと思っています」と語った。
「藍を継ぐ海」(新潮社)で直木賞を受けた伊与原新(しん)さんは、地球惑星科学の元研究者。この日は10人以上の研究者がお祝いに駆けつけ、「こんなに科学者が多い文学賞の贈呈式もなかなかないんじゃないかと思う」と笑顔を見せた。
「小説で科学の世界に恩返しがしたい」と話していた自身に対し、そのうちの一人から「恩返しよりも、自分の道を追求してください。君はいつまでも我々の仲間です」とのメッセージをもらったのが「何よりもの激励だなと思いました。温かい応援を背中に受けて、僕も自分なりに精いっぱい帆を広げて前に進んでいきたい」と感謝を述べた。(山崎聡)=朝日新聞2025年02月26日掲載
