Words: Chiyumi Hioki Photos: InDigital
たとえばベージュ、あるいはブルー、時には文字柄、時々チェック……と、さまざまなパターンはあるが、そのほとんどを今回「ワントーン・コーディネイト」で仕上げた。すなわちコート、インナーのブルゾン、ボトムスまでのすべてのアイテムが、同じ素材、同じ色柄で統一されている。
これは、サカイ史上、初めてのことである。デザイナーの阿部千登勢氏は、このスタイリングを「ニュー・スリーピース」と表現する。温暖化に加え集中豪雨など、気候変動の激しい今、そしてビジネスにもクロップド・パンツが受け入れられ、遠からず膝丈ショーツでの通勤も、一般化するかもしれない現在、こんな新メンズ・スリーピースは、十分に現実的で、そして、とにかく、服として美しい。
もうひとつ今回、特徴的なのは、「サカイらしい特徴をあえて除外した」こと。そう、1999年のデビューから一貫して、同ブランドの個性はハイブリッドにあった。ひとつのアイテムにニットと異素材が混在する、思いがけない組み合わせの魅力。コットンのクレープ地のブルゾンが途中から、ニット地に変化しているといった、迷宮に分け入るような、異素材のミックス感が楽しかった。
しかし今回、その手法はまったく封印され、色と柄のみによる明快さが際立つ。そして、それが見る目に気持ちが良い。何か「潔さ」が伝わってくるのだ。
コンセプチュアル・アーティスト、ローレンス・ワイナーによるタイポグラフィー・アートワーク(文字柄)には「STASIS AS TO VECTOR. ALL IN DUE COURSE」というコトバがある。これは、意味を持たない単語の羅列で、解釈は人にゆだねられるという。中には「進路」や「過程」のような意味に訳せる単語が登場している。そこで筆者は下記のように解釈=想像してみた(クリエイターの意図とは違うかもしれない)。
つまり、世界的存在となったサカイはいま、これまでの個性──ニットなどの得意技──をあえて使わずに、布を彫刻のように扱うのが得意な、西欧の列強と戦っていく、さらに上を目指す、といった覚悟の表れかと。
しかし長めフリンジのウエスタンブルゾンや、あえてラフな線にした(ほつれたように見える)ボーダーニット、そして2体のみ登場した、前がニットで後ろが布帛のハイブリッドパンツなど、ディテールの魅力は相変わらずだ。
そして今回、さらに注目なのは、フロック加工のシルクベルベットや、光沢のあるカラフルなTシャツなど、ウィメンズに使った素材をメンズウェアにも取り入れていることだ。また最後に登場した2体のスーツは、3層通気性という機能素材だが、“セビロ”にふさわしい素材を裏切るかのように、作りがいかにも“紳士服”らしくない。シンプルなテーラードのはずなのに、そこが不思議で面白い。
今度はさりげないジェンダーの迷宮に、知らず知らずのうちに取り込まれそうだ。
