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豊田章男会長、「走る、壊す、直す」の象徴として横転したGRヤリスを下山の完成式典に展示 “下山の道”がクルマを作る
2024年4月2日 18:32
横転したGRヤリスとともにあいさつした豊田章男会長
4月2日、総面積 650.8haを誇るトヨタ自動車のクルマ作りの拠点「Toyota Technical Center Shimoyama(トヨタテクニカルセンター下山)」の全面運用を開始した。
同日、全面運用の開始を祝う「お披露目式」を開催。代表取締役会長 豊田章男氏があいさつを行なった。このあいさつで注目されたのが、豊田会長の後ろに置かれていたGRヤリス。このGRヤリスはフロントウィンドウにヒビが入り、明らかに逆さになった様子が見てとれる。
豊田会長はこのGRヤリスについて、「私が下山で横転して壊したクルマです。『走る、壊す、直す』の象徴として、あえて直しておりません」とあいさつの中で紹介。走ってテストを行ない、壊れたらすぐ直す、開発・走行テスト・カイゼンを高速で行なえるテクニカルセンター下山のメリットを自らの愛車とともに強く印象づけた。
豊田会長は普段から「壊してくれてありがとう」と、クルマ開発のポイントを語っており、トヨタの現在のクルマ作りを強烈に印象づけた。
トヨタ自動車 代表取締役会長 豊田章男氏あいさつ
豊田でございます。道がクルマをつくる……、ニュルブルクリンクで成瀬さんが私に教えてくれた言葉であり、一緒に実践し続けてきたことでもあります。
2020年、GRヤリスは、発売の“その日”に行なわれた24時間レースで優勝し、大きな話題となりました。なぜ発売と同時に走り切れたのか? それは発売前にたくさん走り込み、クルマを壊すことができたからです。当時はコロナ禍で、研修施設に閉じこもり仕事をする日々……。併設されたダートコースで、私は空き時間にGRヤリスの開発車両に乗り続けておりました。
走れば走るだけ、何かしらの部品が壊れていく。そのたびに、エンジニアとメカニックが原因を追求し、対策を考えてくれました。
何度も、何度も、これを繰り返し、GRヤリスは本当に強いクルマになっていったのだと思います。クルマを作る上で一番大事なことは「壊すこと」だと改めて感じました。
とにかく道を走り、壊して、直す……。これを繰り返していくことこそが、クルマを作るということなのだと思います。
“ここ”下山は、走って、壊して、直すを、毎日毎日、何度も何度も、繰り返せる場所です。ここには、様々な道を再現したテストコースがございます。
コースを走り、そのまま作業場に入れば、そこにはメカニックがいて、上の階にはエンジニアもいます。
みんながすぐに駆けつけ、クルマを囲み、相談していく。こういう場所があったほうがいいとずっと考えておりました。
こちらの展示車、みなさまも気になっておられると思います。
私が下山で横転して壊したクルマです。「走る、壊す、直す」の象徴として、あえて直しておりませんが、どうしてこのような走りになったのか? 私の運転技術の未熟さも含め、何をどう改善して、もっといいクルマにしていくのか? みんなで考えた1台です。少し恥ずかしいですが、分かりやすいので、置かせていただきました。
この施設の構想がスタートして30年近くが経ちます。地域のみなさまにご迷惑をかけぬよう……、むしろ「トヨタが下山に来てよかった」と笑顔になっていただきたいと思い、ずっとやってまいりました。
この「みなさま」には、本日お越しいただいた“人間”のみなさまだけでなく、古くからお住まいの“動物や植物のみなさま“も含まれております。そんな地域との共生に向け、多くの方々に、ご協力をいただきました。
大村知事には、このあとごあいさつもいただきますが、県のみなさまには、ここへ通ずる新しい道を通していただくために、国への働きかけも含め、多大なご尽力をいただきました。
県道だけではありません。豊田市、岡崎市のみなさまのご努力で、新しい市道も整備いただき、多くの社員が職場にスムーズに通えるようにしていただきました。
ここの土地に、この施設を建てるということに対しても、たくさんの険しい道を越えてまいりましたが、県にも市にも、専任のチームを立てていただき、私どもと二人三脚で歩んできていただいております。
太田市長は、当時その専任チームにいらっしゃったということで、本当にずっと二人三脚です。そんな二人三脚のまま、太田市長にはラリージャパンも開催いただきました。
その準備のときも太田市長は、「山には何もないという大人もいる。大人がそんなことを言うと、子供までそう思ってしまう。そして、いずれ子供たちは山を離れていってしまう。ちゃんと大人たちが山の魅力を理解して発信しないといけない。山の魅力を大切にして、そこで暮らす子供たちの誇りを取り戻したい」。
こんなお話しを、繰り返し力説されていらっしゃいました。
実際ラリージャパンは、150か国 /8億4000万人が見守るテレビ放送と、SNSでは17億回も豊田市の美しい山の風景が映し出されることになりました。
ここの施設を作るにあたり、多少木を切ってしまい、山の風景を変えてしまいました。
豊田市、岡崎市にもご協力いただいて、自然との共生は努めてまいりましたが、子供たちに誇りを持ってもらえるような下山を残せているでしょうか? 太田さん、いかがでしょう?
太田市長、中根市長、両市のみなさまには本当にお世話になりました。今年もラリージャパンがございます。豊田市、岡崎市の“山あいの素敵な風景”を世界中の多くの方に見ていただけるよう今年もがんばりたいと思います。
最後に、下山および松平地区にお住まいのみなさま、これまで長きにわたる建設期間、そして、これからも末長くとなりますが、多大なるご理解とご支援をいただいていること、心より感謝いたします。
三浦元県議、「なぜ自分がこれをとりまとめなければいけないのか、何度も考えた」とおっしゃいました。
本来、政治は弱者のためにあるもの。トヨタは強者だがもし技術力で負けたら、地域の弱者のためにならない。だからがんばろうと思った。ここが完成したからと言って、我々、すべてが解決し、前に向けるとは思っておりません。これからこそがスタートだと思っています。
これからGR、レクサスのメンバーなど総勢3000人が、本日より、ここで「走る・壊す・直す」を繰り返してまいります。
私も、マスタードライバーとして下山の道をたくさん走ってまいります。
“下山の道”がクルマを作る。生産工場ではありませんが、これから“下山産のクルマ”が世界のあらゆる道を走り、たくさんの人を笑顔にしてまいります。
下山で加速していく“トヨタのもっといいクルマづくり”を、お誓い申し上げて、これまでのご協力とこれからも続いていくみなさまとの共生へのお礼に代えさせていただければと思います。本日は、ありがとうございました。
モリゾウさんがクルマを鍛えてくれると、開発者の齋藤尚彦主査
壊れたクルマに関しては、式典終了後、GRヤリスの開発者である齋藤尚彦主査が説明。齋藤主査によると、足まわりの問題などもあり、コーナーで転倒してしまったとのこと。その映像は東京オートサロン2024で公開しており、コ・ドライバーの勝田範彦選手の脱出風景も見られるという。
モリゾウ選手がクルマをこうやって鍛えてくれることで、クルマの安全性も証明できており、コ・ドライバーの勝田選手が冷静にクルマを出てくれたことにも感謝しているとのこと。マスタードライバーのモリゾウ選手が自らステアリングを握ることで不具合を出すことでき、「もっといいクルマづくり」を進めていけるという。
なお、齋藤主査は「東京オートサロンで公開した映像には、ノリさん、モリゾウさんが冷静に脱出する様子が映っており、凄腕はじめ、社員の安全教育の教材にしたい」とも語っており、テクニカルセンター下山で行なわれる「走る、壊す、直す」の開発を象徴するクルマになっていくようだ。
Toyota Technical Center Shimoyamaの概要
所在区域:豊田市(旧下山村)および岡崎市(旧額田町)の一部
面積内訳:
総面積 650.8ha(6508km 2 )
事業主体:用地造成工事 愛知県企業庁、施設建設工事 トヨタ自動車株式会社主な施設:
中央エリア カントリー路
東エリア 高速評価路、特性評価路
西エリア 車両開発棟、来客棟
投資額:約3000億円
従業員数:約3000人(2024年3月全面運用開始時)