前作から10年の月日を経て登場したシリーズ最新作『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON』で描かれた、斜陽の惑星ルビコン3はどのようにして生まれたのか。ビジュアルコンセプトと実現方法について聞く。
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シリーズ最新作として目指したのは“原点回帰”
本作の開発がスタートしたのは2018年。フロム・ソフトウェアの代表取締役社長である宮崎英高氏をはじめとする3名が、開発初期段階のイニシャルディレクターとして小規模のチームを編成し、方向性の検討や初期プロトタイプ開発を行なっていた。
その後2020年にディレクターとして山村 優氏が合流し、前作『ARMORED CORE VERDICTDAY』(2013)の開発に関わったメンバーやメカ造形に明るい人材を多くアサインして本格的な開発が進行した。
発売・開発:フロム・ソフトウェア/バンダイナムコエンターテインメント、リリース:発売中、価格:8,690円(通常版) Platform:PS5、PS4、Xbox Series、X|S、Xbox One、PC(Steam)、ジャンル:アクション
www.armoredcore.net
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シリーズ最新作として目指した方向性は「懐かしい新しさ」。
思い通りにカスタマイズした機体を自由自在に操ること、それがアーマード・コアの原点である――“アーマード・コア(以下、AC)とは何か”という、シリーズのもつ本質的な魅力や価値を再確認シリーズ最新作として目指したのは“原点回帰”する問いかけの上で浮き彫りとなった原点回帰の思想を基に「オールドSF」「寂寥感」というコンセプトが言語化された。
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物語の舞台となる辺境の惑星ルビコンはもともと資源開発によって発展していたが、ある出来事によって荒廃。近未来的なSFを描くだけでは既視感のあるグラフィックスになるため、あえて全てが錆びついた斜陽の惑星と「星外の最新技術」との対比を描くことで特徴的なビジュアル表現を追求した。
また、本作から近接戦闘にもフォーカスし、最初にデザインされたという初期機体のメカデザインにも過酷な環境を戦い抜く骨太なメカニックが反映されている。
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以上、フロム・ソフトウェア www.fromsoftware.jp
開発環境は『ELDEN RING』(2022)と同等の内製エンジン。人型とメカではサイズ感が大きく異なるためスケール調整の面で工夫が図られているほか、カスタムシェーダやポストプロセス面でエンジン自体が進化している。
優れたメカニックと芯の太いメカデザイン
メカデザインにおいては常に「アーマード・コアをつくろう」という原点回帰のコンセプトが中心に据えられた。シンプルながら機能美あふれるメカ制作の手法に迫る。
相反する思想に基づくAC機体とエネミーのデザイン
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▲IB-C03:HAL 826・正面。本作には河森正治氏や宮武一貴氏といった著名なメカニックデザイナーが多数参加しており、本機は河森氏のデザインによるもの -
▲IB-C03:HAL 826・背面。「外部のデザイナーの皆さまには、内部デザイナーとはまた異なる発想でACの可能性を広げてもらいました。この場を借りて感謝をお伝えしたいです」(キャラクターコンセプトアーティスト・渡名喜 孝太氏)
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モデル制作のながれ
デザインを基に、モデラーが3ds Maxでモデル制作を行う。モデルの仕様は一定のクオリティを保つために共通化されているが、特殊なアニメーションを伴う変形ギミックも多いため、モデラーは2Dデザインとアニメーターの間で調整する役割も求められた。
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ACのモデル&テクスチャ構成
ACの全装備モデル。アセンブルではHEAD、CORE、ARMS、LEGSの4箇所を組み合わせて機体を構築し、使用する武器を4つまでARM UNITとBACK UNITに装備できる。
HEADは2Kテクスチャ、その他パーツは4Kテクスチャを作成し、インゲームでは半分の解像度で使用。平均的な頂点数はHEAD5,000ポリゴン、CORE2万ポリゴン、ARMが2本合わせて2万ポリゴン、LEGは脚部に応じて2~3.6万ポリゴン。また、ARM UNITおよびBACK UNITは武器のサイズを問わず4Kテクスチャ、1万ポリゴン程度で作成されている。
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LEGSは二脚、逆関節、四脚、タンクの4種類があり、その中でも重量のちがいにより種類が分かれる。
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▲カラーマップ。ユーザーが任意のカラーにペイント可能なため、基礎となるグレーで作成。また、アルファチャンネルにはダメージを受けた際に使用するマスクが格納されている -
▲ユーザーの操作に合わせて発熱するギミックに使用するエミッシブマップ
ユーザーが細かく調整可能なACの質感
本作のアセンブルではかなり細かい機体ペイントが可能。パーツごとに細かく分けられた部位にペイントが可能なほか、ウェザリング加工や質感の変更など性能に関係しないビジュアルのカスタマイズができる。
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2種類のデカール機能
本作では機体にエンブレムとしてデカールを貼り付けることが可能だ。定められた形状のピースを組み合わせてイメージを作成するIMAGE EDIT機能もあり、作成したイメージはデカールとして機体に貼り付けられるほかユーザー同士でシェアが可能となっている。
『ELDEN RING』で血糊を表現するために使われていたデカール機能を拡張し、デカールが貼られた面の質感を参照してブレンドする機能が新たに実装された。
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▲ゲーム中に登場するNPCが使用する機体のデカールについても、ゲーム内でユーザーが操作できる機能を用いて作成されている -
▲NPCや敵機体などで特定の箇所に描画するデカールは、メッシュをそのまま描画している都合上、ベースモデルとは別のメッシュを普通に描画すると機体側の色や質感を潰してしまうため、それを回避する処理として元のモデルの法線情報を変更しないデカールのしくみを実装。上段が対応後、下段が対応前。また、左から実際のゲーム画像、アルベド、法線、メタリック
メカらしい動きをつくるため手付けアニメーションにこだわる
AC は「しっかりと動かしたい」というねらいから、左右対称や一軸での動きを中心に、メカとしての機能的な動作が意識された。
Bipedをベースとした多彩なリグ
キャラクターリグには3ds Max標準のBipedを使用。Bipedは高い安定性やモーション移植がしやすいメリットがあり、『ELDEN RING』など過去タイトルでも使用されていたため社内のノウハウが転用しやすい利点があった。
本作ではプレイヤー機体のシリーズごとにモデルデータを用意し、シルエットに合わせたBipedを作成。デザイナーの作業はここまでで、その後はゲームで使用するHEAD、COREなど各パーツ単位のスケルトンデータをツールで分割出力し、ゲーム側で各パーツのスケルトンを合成するしくみとなっている。
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▲エネミー機体MB-0202 TOYBOX。Bipedを2つ使用して三脚をコントロールしつつ、背骨にスプラインIKを入れることで、柔軟な動きを可能にしている -
▲MB-0202 TOYBOX。パージする装甲は部分的にRagdollのコンストレイントをランタイムでブレイクすることで実現している
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▲ボスエネミー機体IA-13:SEA SPIDER・変形前。Bipedを2つ使用して6脚をコントロールする。上部に装着される「主砲コーラルキャノン」と側面球体「副砲コーラルガン」は武器パーツモデルとして作成したものをインゲームでアタッチしているため、リグは別制御となっている -
▲IA-13: SEA SPIDER・変形後。ひとつのリグに変形前、変形後の2系統が格納されている。変形後の脚部は専用のヘルパーでコントロール
デザインに合わせて個別に制作されたエネミーの動き
エネミーのモーションはデザインに合わせて個別で制作されている。中でも複雑な動きをするSEA SPIDERは残り体力が少なくなると変形し、地上での歩行から上空での滞空へとモーションが切り替わる。スラスターなど一部パーツはスケルトンに対して直接アニメーションを付けている部分もある。
プレイヤー機体の攻撃モーション
今回制作したプレイヤー機体のモーションは「脚部パターンごとの移動モーション」、「共通のキャラクターモーション(移動や攻撃、ダメージ等)」と「兵装(武器やシールド)」の3パターン。アセンブルごとに膨大なモーションを用意しているわけではなく、二脚や四脚、タンクなど脚部に応じたモーションをロードして使用している。
また、兵装ごとに異なるベースモーションが用意されており、アタッチされた武器用のパーツのモーションも同時に走るため、過去作に比べて大幅にリッチな表現となっている。
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画面の方を向く自機
バックビューでのみプレイ可能だった過去作と異なり、本作では操作中の自機が正面を向けるように仕様が変更されている。画面内で動き回る自機モーションの情報量増加などを目的とし、自由な移動とビジュアル面の向上を目指してプランナーと協議を行う過程で現在の仕様となった。
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CGWORLD 2024年1月号 vol.305
特集:海洋堂 デジタル造形移行への挑戦
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2023年12月8日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_神山大輝(NINE GATES STUDIO)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada