ニコニコと「アイマス」と「初音ミク」 - 企業とユーザと鑑賞者の関係変化
2007/09/18曜日不定コラムです、こんばんは。先週の一番の話題といえば、
やっぱり 初音ミクを巡る職人の掛け合い芸 です。
期間は9/3~9/11、わずか9日の出来事でした。
■ニコニコ動画 tag「初音ミクが来ない?来た?」
http://www.nicovideo.jp/tag/%E5%88%9D%E9%9F%B3%E3%83%9F%E3%82%AF%E3%81%8C%E6%9D%A5%E3%81%AA%E3%81%84%EF%BC%9F%E6%9D%A5%E3%81%9F%EF%BC%9F?page=1&sort=f&order=d
まだご存じない方は、まとめ動画がありますのでそちらをご覧ください。
AmazonでVOCALOID2を注文したのに一向に届かない「ワンカップP」が
初代VOCALOID「MEIKO」を使って哀愁の動画を上げると、
既にVOCALOID2が届いているほかの職人たちが
ミクの声で楽しく喧嘩を売って煽るという
職人たちの無言の信頼関係が成したちょっといい話(?)です。
■初音ミクが来ない?来た? (最終版)
まとめ動画には出てこなかったのですが、「くまうた」もいます。
正直、キミは早すぎたw
■くまうた(31) 『我は萌えに屈せず』 唄:白熊カオス
そのほか、初音ミクの快進撃については、
なつみかん。さんのまとめも一緒にご覧ください。
■なつみかん。「VOCALOID2「初音ミク」が始まりすぎな件について」
http://tangerine.sweetstyle.jp/?eid=709255
さて、初音ミクの話題が一通り済んだところで(済んでない)、
先週すこしだけ触れました アイマスMADにまつわる企業とユーザの関係
について、初音ミクの件も交えてお話をしていくことにしましょう。
先週わたしは、アイマスMADが単なる「黙認」ではなく、
すでにゲーム会社として積極的に後押ししても良い状態にまで
達しているのではないかという点に触れました。
■2007/09/07 [MADが「適度な黙認」を目指せる状態というのをふわふわと考えたりMADが「適度な黙認」を目指せる状態というのをふわふわと考えたり]
その点、アイマスは少なくともゲーム会社とは非常に珍しい
構造で良好な関係にあるようです。2の飢餓感をアイマスMADで
満たされてしまうという意味では実はアイマスMAD自体もゲームの
売り上げ減の要因とされ兼ねないのですが、その一方で、アイマスは
ダウンロードコンテンツの売り上げ が飛びぬけています。
「見たらおしまい」のTV番組・アニメ・映画と違い、ゲームはそれそのものの
体験が売りということもあって、より黙認をする意義を見出しやすいのですが、
アイマスMADはそういう一般的なゲームとしての黙認よりもさらに進展を見せています。
通常のゲームであれば、
・パッケージ販売ゲーム → ゲームソフトの販売本数 を増やす
・オンライン課金ゲーム → 継続的な利用者 を増やす
ということが最終目的になります。それはつまり、「傍観者」であった人を
「プレイヤー」にするという変換が収益をもたらす構造です。
ゲーム会社がMADを黙認しやすいのは、こうしたMADがネットに流れることで、
この 「MAD鑑賞者→プレイヤー」 という変換が起こることを期待するからです。
ところが、アイマスMADの構造は少し違います。
それが ダウンロードコンテンツ(DLC)の販売 です。
Xbox360の国内の販売台数がそもそも40万台程度であることもあり、
アイマスの販売本数はせいぜい5万本と言われていますが、
一方でDLCの売り上げは1億円を突破しました。DLCの売り上げが
パッケージの売り上げの半分にまで到達している計算になります。
では、アイマスのユーザがこぞって衣装などのコンテンツを買い漁っているのか
というと、おそらくそんなに皆がみんな購入しているワケではないでしょう。
そう、DLCのお得意さんはまさにアイマスMAD職人さんたちなのです。
これはアイマスMADをご覧になっている方々にとって容易に想像できるでしょう。
ちなみにアイマスMAD職人さんは通称 「アイマスP」 と呼ばれます。
ゲーム内で用いられるプロデューサ(=P)という敬称を用いて、
それぞれ「○○○P」というネットの通り名を持っています。
ここで、さきほどの企業とユーザの関係の構造という話に戻ってみましょう。
ゲーム会社はDLCで利益を上げることが重要課題になりますが、前述の通り、
DLCをガンガン購入してくれる人のほとんどはMAD職人、つまり「アイマスP」です。
では、これは 「一部の超コアな人に絞った販売戦略で大当たり!」
という図式なのかというと、そういう単純な構図でもありません。
なぜなら、アイマスPがDLCを購入する背景には、
その何十倍という人数の「アイマスMAD鑑賞者」の存在が
欠かせないからです。アイマスPの方々は、大勢の鑑賞者に対して自らの
作品を披露し、賞賛を浴びることで充足を得ます。その新しいネタ仕込みが
効果的に行えるのであれば、DLCの購入は痛手でも何でもありません。
ゲーム会社 → アイマスP → アイマスMAD鑑賞者
この連鎖構造があって初めて、ゲーム会社はアイマスPからのDLC購入を期待できるのです。
でもちょっと待ってください。その 「鑑賞者」 というのは、
従来の定義から言えば 「ゲームを買ってくれない人」 のことでは?
そのゲーム(アイマス)そのものは買わないし、そのゲーム関連でお金を落とさない人、
そういう鑑賞者に対して、自らのクリエイティビティを発揮するPという存在、
そしてアイマスは今まさに、Pへのアイテム販売を主な収益源としているのです。
プレイする「人数」を増やすことがゲームの収益だと考えていた
今までの業界の構図には当てはまらない何かが、ここにはあります。
VOCALOID2「初音ミク」 もこの構図にかなり当てはまるところがあります。
VOCALOID2(初音ミク)はすでに3千本を売り上げたそうですが、
発売からまだわずかの期間でこれだけの本数を売り上げるというのは
音楽編集ソフトというジャンルでは 異例の本数であるといいます。
では初音ミクを購入する人が何を求めているのかというと、
それは勿論、自室で自分向けだけに喋らせたいからではなく、
ネタ作品を作ってネットに公開し、注目を集めたいからに他なりません。
ソフト会社 → ネタMAD職人 → ネタMAD鑑賞者
という構図をアイマスPと同じように思い浮かべてみてください。
VOCALOID2に対しては 全くお金を落とさない多数の鑑賞者 に囲まれることで初めて、
ネタMAD職人の方々がVOCALOID2を購入する土台が出来上がる構図になっています。
こうした「多数の鑑賞者」の存在が、直接的にお金を落とさないにも関わらず
ビジネスのプレイヤーとして重要な位置を占めていることは注目に値します。
アイマスと初音ミクが違うとすれば、初音ミクは職人に対する追加コンテンツの
販売を行っていない点ですが、これはいずれアイマスと同じように追加コンテンツを
販売していけるであろうことはVOCALOID2の成功によってほぼ裏付けられたといえます。
初音ミクがあくまで「1人目」 であることは開発陣からも公言されていますし、
今後は職人が喉から手が出るほど欲しい追加音声、追加エフェクトなどの
周辺コンテンツが有料で登場してくるでしょう。
アイマスと同じで、最初は純粋にそのソフトの動作を楽しみたかった人に
パッケージを売っていたものが、Step.2からは特に高いクリエイティビティを持つ
一部の職人をターゲットにしてよりクオリティの高いネタ動画を作るための
プラグインが売られるようになると思われます。(これはもちろん想像の域を出ません)
VOCALOID自体の位置づけも、いまは「VOCALOIDを使って○○してみた」的な動画が
ほとんどですが、そのうち自然にあちこちの動画に溶け込んで使われるようになるでしょう。
そう考えるとVOCALOIDは「よく出来たコンテンツ制作ツールの1つです」という、
音楽編集ソフト業界としては真っ当な地位で評価されることになるのですが、
逆にいえば、
アイマスがそれと同じポジションにいるということのほうが
奇妙な現象なのかもしれません。アイマスはいまや、バーチャルアイドルクリップ
制作ツールとして、多くの職人の技を受け止め、さらに多くの鑑賞者の支持を得ている
「コンテンツ制作ツール」になってきていると思うと、今後の様々な展開に思いが巡ります。
アイマスは少なくともゲームの健全なビジネスを模索する上で、副次的に上記のような
新しいユーザとの関係性の構築を提示することとなりました。ここでは鑑賞者たちが、
ゲームのプレイヤーではないにも関わらず
ビジネスの重要なプレイヤーの1つになっているのです。
なお、このゲームに於けるプレイヤーと鑑賞者(観戦者といっても良いかも)の
分離によって何が起こるか、というのは、私が随分前からもやもやと考えている
テーマの1つです。そのあたりはまた別の機会に触れてみたいと思います。
2007/09/18 [updated : 2007/09/18 23:59]

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▼ コメント ▼
No.15039 投稿者 : こね 2007年9月21日 22:37
うん、そのとうりだと思う
上手な文章ですね
No.15064 投稿者 : K.Yz 2007年9月24日 01:06
初音ミク関連から流れてきた者ですが、なぜかアイマスMADの方にレスを。(笑
ええと、ちょっと下記のニコニコ動画の下に、アマゾンのアイマス関連の広告がありますので、見てみて下さい。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm812141
動画自体は今はあまり関係ない(ちょうど、この動画に全部のCDの広告が貼られているので選択した)ので置いといて、気になるのが各CDの売り上げ枚数です。
9月23日時点で、合計 約8,400枚(売上高1,900万円強)になっています。
雪歩の分がこれから出ることを考えると、最終的には合計10,000本近くまで行く可能性があります。 アイマスはそれほど大きな市場ではないはずですが、アマゾンの分だけでニコニコ経由が2,000万円以上の売り上げとなれば、これは馬鹿にできません。
MAD鑑賞者がお金を落とさないというのは、ちょっと早計のように思います。実際には、かなり影響を受けているのでは...
No.16299 投稿者 : 匿名 2007年11月11日 15:38
バイオハザートのように、ゲームはやらないけど、
プレイしてる様子を見て楽しみたい人はいますね。
No.17118 投稿者 : jabber 2007年12月14日 09:11
参考になります。
この構図は面白い。
コメントしましょう
今までは単なるゲーム会社-プレイヤーだけだったのが、プレイヤーから生まれる作品でそれを見る観客という更に広がった輪ができるのが興味深い。結果、大元のゲーム自体も広まって更なる広がりを見せる。
単なる遊びに過ぎないサッカーや野球がビジネスになっているのに似ている。深い意味を持つ鑑賞者(観戦者)の存在。
くまうた+初音ミク+Poserで著作権的にかなり白いコンテンツができてるのが興味深い
ゲーム会社 → アイマスP → アイマスMAD鑑賞者 / この連鎖構造があって初めて、ゲーム会社はアイマスPからのDLC購入を期待できる / 鑑賞者たちが、ビジネスの重要なプレイヤーの1つになっている
初音ミク周辺って楽しそうだなぁ
コンテンツとクリエイターとオーディエンスの幸せな関係、の可能性の一端が見え始めた
興味深い。この仕組みがもっと広まったらみんな幸せになれるのかな。
ソフト販売における業者とユーザの新しい構図。ソフトを買ってくれない「多数の鑑賞者」の存在が重要に。
確かに今のアイマスMADは異様なパワーが集中してて面白いぞ。抵抗ある人もとりあえず秋の大感謝祭だけでも覗いてみ。
「全くお金を落とさない多数の鑑賞者に囲まれることで初めて、ネタMAD職人がVOCALOID2を購入する土台が出来上がる構図」「鑑賞者たちが、ゲームのプレイヤーではないにも関わらず、ビジネスの重要なプレイヤーに」
『我は萌えに屈せず』は必見。/「アイマスがそれと同じポジションにいるということのほうが奇妙な現象」確かにそうだ。
今までに無かった利益のサイクル。こういう視点は無かった。
アイマスのDLコンテンツ購入者=MAD制作者のソースは? ターゲットとしてあまりに狭すぎてたいした規模にならない気がするんですが。
一部ではあるが、投稿動画のビジネスモデルが見えてきたということかな。なんだろ、ここ重要って感じ。
「お金を落とさない多数の鑑賞者に囲まれることで初めて、ネタMAD職人の方々がVOCALOID2を購入する土台が出来上がる」「ゲームのプレイヤーではないにも関わらずビジネスの重要なプレイヤーの1つになっている」鋭い。
記事内容自体も興味深いが紹介されてる動画がよくできてる・・・
↓id:SuiJackDo氏 ここ(http://www33.atwiki.jp/imas/)の左上の「投稿Pリスト」を見れば良いと思いますよ。現在200人以上います。
見てくれる人が多いからこそ製作者側がやる気を出せるし製作者数も増える。ニコニコ動画のシステムはROMを可能な限り可視化してくれ、みんな温かいという点がポイントか。
CD音源からオケを取っている初音ミク動画を見る度に,ミクの出現が耳コピMIDI公開への課金より前だったらなぁ(というか課金自体なければなぁ)と思ってしまう.
ニコニコ×アイマス×初音ミク。三種寄れば文殊の知恵。
職人への賞賛が定量的に可視化されたことによる新たな経済圏の発生。/Second Lifeも基本的にはこの流れのはずなんだけど・・・ねぇ。
おもしろい視点だと思う。アイマスMAD制作者200人超とのこと。その人たちが全有料アイテム買ったとして合計約4万ポイント分=6万円。合計1200万円のインパクト?でも半分くらいはネット上の映像の切り貼りなような。
お金を落とさない傍観者が、間接的に市場の活性化を助けているという話。とても面白い視点。
「全くお金を落とさない多数の鑑賞者 に囲まれる」←なるほど。「職人」という新たな中間層が誕生。そう考えるととてもWeb的。
こんな面白い考察があったのか。すっかり見逃していた。
ギャラリーの存在はゲーセンでは必須だけどね.こうしてビジネス視されるのは何か怖い. / それよりも Web による加速化で賞味期限が短くなることの方が僕は不安だなぁ..
新しい形の「ゲーム」についてはブログで触れるやもしれません
ゲームをプレイしなくてもプレイしているのと同じ。それが他者のモチベーションにつながっているなんて昔は考えられなかった。
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