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Photo by Jose-Fuste RAGA/Gamma-Rapho via Getty Images

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アンハード(英国)

アンハード(英国)

Text by Kat Rosenfield

2023年10月、アーティストの草間彌生は、過去に人種差別発言をしたことを謝罪した。

価値観を時代にあわせてアップデートする過程で、かつての過ちを認めることは大切だろう。だが、それによって「キャンセル」されることは必ずしも正しいのだろうか──英メディア「アンハード」が論じる。

美術界の大御所が排斥の危機に


「人は生命の美と同じように恐怖も描くべきだと、私はずっと前に心に決めた」

芸術家はいかに怪物を創り出すか──あるいは、いかに怪物になるか。これを主題にしたH.P.ラヴクラフトの短編小説『ピックマンのモデル』の主人公はそう語る。

ピックマンの描いた絵は悪夢そのもので、語り手を務める友人かつ芸術家仲間は、ひと目見るのも堪えられないほどだ。語り手は身震いしてこう語る。

「真の芸術家だけが、恐るべきものの本当の解剖学を知っている」「その絵を見たとき、私たちは悪魔そのものを目にして、震え上がった」


草間彌生も悪魔を創作しているが、ピックマンの描く悪魔とは似ても似つかない。草間が主に恐れるものは、その平凡さゆえにいっそう恐ろしい。彼女はセックス、男性、戦争、食べ物を恐れている。

そして何よりも、無限に続く宇宙の白いノイズのなかに消えてしまうこと、彼女の言葉を借りれば「自己消滅」を恐れている。

60年代以来、水玉模様は彼女の有名なモチーフだ。その模様は人間であれ何であれ、それが描かれている物体の物理的な境界を曖昧にする。彼女の作品「鏡の部屋」を歩けば、個としての存在は消失するだろう。

網目模様がキャンバスからこぼれ出し、テーブルや壁、自分の体の輪郭を覆いはじめるのをなすすべもなく見つめていた──自伝『無限の網』のなかで、草間はそう語っている。幻覚がいつ終わるのか、これのどこからアートが、あるいはアーティストが生まれるのか、言い当てるのは難しい。

草間の作品は、自殺の概念──自己による、自己の究極の消滅──と戯れている。だがそのキャリアは驚くほど長寿で、彼女は94歳になるアート界の大御所だ。

2023年は回顧的なエッセイ集『草間彌生:1945 to Now』が出版されるとともに、サンフランシスコ近代美術館では新たな個展が開催されている。最初の2ヵ月分のチケットはすぐに完売した。草間はまだ消滅していない。

だが、草間は排斥の危機に瀕している。
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