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なぜロシアにバブルが起きているのか? Photo by Contributor/Getty Images

なぜロシアにバブルが起きているのか? Photo by Contributor/Getty Images

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フィナンシャル・タイムズ(英国)

フィナンシャル・タイムズ(英国)

Text by Courtney Weaver and Anastasia Stognei

政府支出の急増と人手不足が引き金となって実質賃金が高騰し、ロシア国民はお金を湯水のように使っている。そこには景気過熱のリスクがあると英紙は指摘する。

予想に反したバブル到来


2022年、ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始すると、ロシア第2の都市サンクトペテルブルク在住のアントンは、自身が経営するレストランが最悪の事態に見舞われるのではないかと危惧した。外国人旅行客は姿を消し、西側諸国の制裁によるロシア経済崩壊を見越して金利は急上昇。地元住民も外食どころではなくなった、とアントンは話す。

しかし、これは取り越し苦労だった。ここ2年で状況は完全に回復し、お金に余裕ができたロシア人は消費に意欲的だ。

対ウクライナ戦争が長期化するにつれ、戦時下にある防衛産業が好況で給与が上昇すると、民間企業も同様に給与を上げないと、深刻な人材不足のさなかに労働者を呼び込めなくなった。こうしてロシアは思いがけず、個人消費ブームを迎えた。

「実質賃金は急上昇しています」と話すのは、ドイツ国際安全保障研究所(SWP)のロシア経済専門家ヤニス・クルーゲだ。「ウクライナへの全面侵攻前は収入がスズメの涙ほどだった人も、不意に大金を手にするようになっています」。ロシア連邦統計局によると、実質賃金は14%近く上昇し、財・サービスの消費はおよそ25%の伸びを見せている。

ロシアのマクロ経済分析・短期予測センター(CAMAC)によると、2024年は実質賃金がさらに3.5%、実質可処分所得も3%の上昇が見込まれている。失業率については、2022年には7%から8%に達すると予測されていたが、2024年4月時点で2.6%と、ソビエト連邦崩壊以降で最低となった。爆発的な賃金上昇は、社会や経済のあちらこちらで実感でき、各種ブルーカラー労働者の生活は一変した。

政治学者エカテリーナ・クルバンガリーヴァはいくつか例を挙げている。たとえば、織工の月収は2021年12月時点で250ドルから350ドルだったが、いまや月1400ドルだ。長距離トラック運転手の平均収入は、前年比で38%増えた。

加えて、西側諸国の制裁とロシア政府による資本統制の影響で、富裕層の資金が国内にとどまっているため、ラグジュアリー分野が好調だ。歴史的文化都市として知られるモスクワとサンクトペテルブルクはいま、にわか景気に湧く現代の新興都市という様相を呈している。


「世界最高」のモスクワとなった理由


モスクワ在住の夫婦は、自宅がある高級マンションの前を通る高級車の台数を数えている。隣人は、ペットのライオンが写っている写真を自慢げに見せてくるそうだ。

「アッパーミドルクラスはみな、実にいい暮らしを満喫しています」。モスクワ在住の投資家で起業家のセルゲイ・イシュコフはそう述べ、レストランが続々オープンしていることや、国内eコマース市場が活況を呈していることを挙げた。

ロシアのある企業トップは本紙に対し、「(ウクライナ侵攻が始まった)2022年2月以降にロシアを出国した知り合いはほぼすべて、帰国した人も旅行中の人も、モスクワは世界最高だと絶賛しています」と述べた。

多くのロシア人が、家計は上向いていると感じている。家計について「良い」と回答したロシア人は13%を超え、ロシア連邦統計局によれば、1999年の統計開始以来、最高となった。また、「悪い」あるいは「非常に悪い」と回答した割合は史上最低で、それぞれ約14%と1%だった。

そこで気になるのが、この狂騒はいつまで続くのか。そして、どのような結末が待っているのか、ということだ。

エコノミストは、この好況を主に支えているのは政府支出だと指摘する。直接の支出先は防衛産業だが、農業やインフラ、不動産市場など他セクター支援を通じても間接的に資金が投じられている。

ロシア中央銀行は、こうした動きと、8.7%というコア・インフレ率の上昇を阻止するべく努めてきた。とくに力を入れているのは、2023年に1%引き上げた政策金利16%を維持することだ。一部のエコノミストは、早ければ今秋にも景気減速が始まると見ている。

「数字だけ見れば、ロシアのマクロ経済政策はバランスを完全に欠いています」。フィンランド銀行新興経済研究所のイッカ・コルホネン所長はそう話す。

「この一大消費ブームがほかの経済セクターに波及していることを物語っています」とコルホネン所長は述べ、物価が上昇していると指摘する。「これまでのところ、インフレ率を抑制できておらず、政府と中央銀行にとっては悩みのタネとなっています」

差し当たっては、ロシアの消費者が新たに手にした富によって、国内の経済と社会そのものが新しい方向へと発展しつつある。政治学者クルバンガリーヴァによれば、所得がもっとも大きく変化した層は、軍関係者とブルーカラー、およびグレーカラーの労働者だ。宅配業者の現在の収入は月20万ルーブル(約31万円)で、国内の一流科学者で構成されるロシア科学アカデミーの会員と肩を並べている。
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