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PHOTO:AKIO KON / BLOOMBERG

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ブルームバーグ(米国)

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Text by Tom Redmond and Takako Taniguchi

精密小型モーターで世界第1位のシェアをもつ日本電産(Nidec)。年の売り上げが100億ドル(1兆円)をはるかに超え、時価総額は270億ドルに達するこの巨大企業の創業者、永守重信に米経済メディアが直撃取材を敢行。膨大な「軍資金」を持ちながら、米国の経営者とはまったく異なる価値観で動く永守の経営哲学とは。

工場や公営住宅が点在し、数々の有名な寺院がある京都市の南部に、1つの高層ビルがそびえ立っている。
その最上階で、永守重信は、光沢のあるグリーンのネクタイとポケットチーフのハンカチ、メガネといういでたちで記者を出迎えた。
永守は、その独特な経営手法について、雄弁に語ってくれた。

「うちの会社で、仕事ができないからといってクビにすることはないです。でも、あまり休みを取ろうとは思わないでください」

これは、冷蔵庫から自動車に至るまであらゆるものを対象にした精密モーターを製造する「日本電産」のCEO(最高経営責任者)の発言である。
総額270億ドルもの規模を誇るこの巨大企業は、永守の実家の農家にあった小さな小屋からスタートした。

この会社の株主には、大きな配当は期待しないほうがいいという。たとえ日本で2番目に裕福な人間、孫正義であっても、永守の前では頭を下げて説教を聞くしかない。

「軍資金」は1兆円


71歳の永守への取材は、ここ日本電産の本社ビルでおこなわれた。ここから19階下のロビーには、彼が会社を創業した当初の古いプレハブ小屋が保存されている。

「私はかなりの変わり者でしてね。あまり世間の常識に従うつもりはありません」

日本の首相である安倍晋三から、「物言う株主」として有名なダン・ローブに至るまで、誰もが日本の企業に対して「株主の要求に耳を傾け、昔ながらの経営手法を改善せよ」と迫っている。

永守はこのようなトップからの要求をまったく無視しているにもかかわらず、株式市場では同業他社を圧倒し続けているのだ。
彼は歯に衣を着せずに、遠慮なく「物言う経営者」である。また、ウォール街の基準に照らせば奇妙に見える経営手法でも、並外れた大きな利益を生み出すことができることを、他の日本企業に思い出させてくれる人物でもあるのだ。

PHOTO:AKIO KON / BLOOMBERG

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日本企業の株価は下落しているが、日本電産の株価は好調だ。2008年の世界的金融危機の時点から457%の回復を見せ、ベンチマークとなる指数の8倍以上を記録している。

抜け目のない取引が、永守の成功のカギである。

1973年の創業以来、日本電産は40社を超える企業を買収しており、そのなかには2016年8月に発表されたばかりのエマソン・エレクトリック社(Emerson Electric Co.)のモーター・ドライブ事業と発電機事業の買収(総額12億ドル)も含まれる。

この取引が公表される前、永守は事業拡大の資金として1兆円の「軍資金」を持っていると語っている。彼は「自動運転車」や「IoT(モノのインターネット)」の事業分野にも注目している。

「M&A(企業の合併・買収)に関していえば、永守さんは日本で最高の人物です」と、東京に本社を構える「いちよしアセットマネジメント」の幹部である秋野充成は言う。

「投資家として、私は彼に安心感を抱いています」

日本電産の株価収益率は28倍であり、これはTOPIX銘柄の平均値の2倍を超えている。

従業員と一緒に食事する「日本式経営」の実践者


秋野によれば、日本電産の最大のリスクは後継問題かもしれない。
もし創業者である永守が事業から身を引き、その事業承継が円滑に進まない場合には、日本電産は「永守プレミアム(割増価値)」を失う可能性がある、と秋野は指摘する。

しかし、もし永守の発言が正しければ、日本電産のトップが変わっても心配はいらないようだ。
40年以上にわたって仕事に打ち込んできた彼はいまも毎日出勤しており、2030年までは経営に関与すると断言しているからである。

彼の目標は、日本電産の年間売上高を2015年度の1兆2000億円から、2030年度に10兆円にまで拡大することである。永守によれば、「誰が日本電産に最も多くのカネをもたらすのか?」という基準に従って後継者を選定するとのことである。

日本電産の従業員に関する永守の哲学は、西洋の目から見れば奇妙に見えるかもしれない。だが、日本では珍しくない考えかたでもある。

要求された時間を勤務する限り、従業員は決して解雇される心配はない。もし、ある従業員が特定の仕事をできなかったら、永守は彼に別の役割を与えるのである。

国家よりもむしろ企業がしばしば「セーフティ・ネット(社会的な安全網)」を提供する日本において、永守の考えかたは標準的なものである。
従業員の面倒を見ることは企業の成功に必須である、と永守は語る。彼は社内の上から下まで仲間意識を醸成するために、従業員と毎日食事を共にしているのだ。

新入社員にも株主にも厳しい


だからといって、日本電産での生活が楽だというわけではない。
もともと日本人労働者が献身的であることは有名だが、同社の労働者に対する要求は厳しい。
会議は週末または通常業務の終了後に開かれる。新たに入社した従業員はトイレ掃除を命ぜられる。休暇を取る者は怠惰であると見なされる。

これらの点を指摘されても、永守は謝罪しようとしない。

「最近の日本では、従業員に対して全力を注ぎ込めと命じたら、その企業はすぐに“black company”(ブラック企業)というレッテルを貼られます。
ですが、私はブラック企業と言われても気にしません。
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