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ソフトウェア開発への生成AIの適用急ぐIT業界、“稼ぐ場”が壊れ再編・淘汰が始まる
生成AI(人工知能)技術への関心が高まるなか、実はIT業界にあって最も大きな最も影響を受けるのは、IT産業の生命線であるソフトウェア開発だとの指摘がある。事業会社における内製化を加速する可能性もある。請負型ビジネスを展開するIT企業はビジネスモデルの転換を迫られる。
「生成AI(人工知能)が日本のIT産業の収益構造を崩壊させる」――。米OpenAIの「ChatGPT」に端を発した生成AIブーム。文章や画像、動画などの自動生成が話題になる一方で、実は最も大きなインパクトを与えると見られている領域にソフトウエア開発がある。開発工程の3〜4割を占めるコーディング作業が生成AIに置き換えられるとされる。
大手ITベンダーはソフトウェア開発で2〜7割の生産性向上を期待
事業会社各社も社内での生成AI活用の検証を進めるなか、ソフトウェア開発に適用し、内製化率を高めようとの動きもある。だが、受託開発などを手掛けるIT業界のほうが、ビジネスモデルの転換を迫られるだけに、その検証には力が入る。大手ITベンダーの取り組み状況を、まずは聞いてみた(表1)。
会社名 | 生成AIの適用方針 | 生産性向上の目標値 | 利用する主な生成AI | 導入部署・導入数 |
---|---|---|---|---|
NTTデータ | 要件定義からデプロイまでに活用。信金などの大規模システムを学習させマイグレーションにも利用する | 2025年度に50%、2030年度に70%削減 | GitHub Copilotなど | 約5000ライセンスを計画 |
NEC | 実装から単体テストまでに活用。「生成AI活用ガイドライン」を作成し上流工程へシフトする。モダナイゼーションへの適用も検証中 | 20%~50%、平均30%の生産性向上を見込む | GitHub Copilot | 2024年度から実践フェーズに入る。2024年2月時点の利用は100〜200人 |
日立製作所 | 大規模システムに適用する。まずはGitHubでコーディングと単体テストの効率を高め、次に基本設計から総合テストにまでに広げる、ソリューション開発やマイグレーション、運用保守、品質保証も視野に入れる | 2027年度に基本設計から総合テストまでを対象に30%の削減を目標にする | Azure OpenAI Service | 研究所や事業部門などで活用。利用者数は不明 |
富士通 | 自社の標準開発基盤「Fujitsu Developers Platform(DP)」に生成AIを取り込み、仕様設計からプログラミング、テストまに適用する | 目標値はこれから決めるが、平均20%の生産性向上を見込む | Azure OpenAI Service | ソフトウエアオープンイノベーション事業本部では半数の約800人。全社の導入数は不明 |
NTTデータ:2030年に開発工程の7割を削減
「生成AIによって要件定義からデプロイまでの工程を70%削減できる」と冨安 寛 取締役常務執行役員は予測する。具体的な数値目標として「2025年に50%、2030年に70%をそれぞれ削減する」(同)ことを挙げる。
50%削減の内訳は、自動化ツール「TERASOLUNA」の利用で30%、生成AIで20%である。子会社や協力会社を含めた約5000人のITエンジニアに「GitHub Copilot for Business」などの利用環境を用意し、その導入費を大幅に上回るコスト削減を見込む。ちなみにGitHub Copilot for Businessの利用料金は定価だと1人当たり月額19ドル(2755円、1ドル145円換算)だ。
NTTデータは生成AIを既存システムのモダナイゼーションにも活かす。信金共同センターなど多数の大規模システムで動作しているCOBOL資産などをNTTが開発する大規模言語モデル(LLM)の「tsuzumi(つづみ)」に学習させ、Javaなどへの変換を目論む。「1つひとつ大規模プロジェクトのモダナイゼーションに大量のITエンジニアを張り付けるのが困難になっており、生成AIは人材不足解消の有効なツールになる」(冨安氏)という。
NEC:平均30%の生産性向上を見込む
詳細設計から単体テストまでの工程で20〜50%、平均して30%の生産性向上を見込んでいる。現在、100〜200人のITエンジニアらがGitHub Copilotを使って生成AIの適用効果を検証中だ。2024年度から実践フェーズに入るという。品質・エンジニアリング推進部門ソフトウェア&システムエンジニアリング統括部の矢野尾 一男 氏は、「使えるところから使っていく」と話す。
ただし、「生成された結果が正しいとは限らないため、タスクを生成AIに丸投げするのは難しい」(矢野尾氏)として、効率化方法といった生成AI活用ガイドラインを作成する。まずは自社製品の開発から適用し、受託開発へと広げていく。モダナイゼーションへの活用のほか、設計書のレビューや品質管理、分析などへの適用も検証する。Generative AI HubでGenerative AI Chief Navigatorを務める千葉 雄樹 氏は、「リスクやパフォーマンス、出力の妥当性などを評価する」と話す。
日立製作所:2027年に30%の生産性向上が目標
基本設計から総合テストまでの工程を対象に2027年に30%の生産性向上を目標に掲げる。「研究所や事業部門でChatGPTを使いシステム開発に適用した結果から推測した目標値だ」と研究開発グループ主管研究長の小川 秀人 氏は説明する。まずは、ITエンジニアをサポートするAzure OpenAI Serviceを使い、コーディングや単体テストの効率向上を確認。そこから詳細設計や結合テストへと広げていく。
並行して「本格的に業務システムを活用できるのかを検証するために、利用企業とともにPoC(概念実証)にも取り組む」と、アプリケーションサービス事業部事業部長の立川 茂 氏は話す。2024年3月末にはPoCの試行を終え「4月からは効果の高そうなところから使い始める」(同)計画だ。
富士通:コーディングで平均20%の生産性向上を期待
米Microsoftが提供する「Azure OpenAI Service」を使って、ソフトウェア開発の生産性をどの程度高められるかを試行している。ミドルウェア開発を担うソフトウェアオープンイノベーション事業本部の粟津 正輝 本部長は、「効果が出そうな工程と、工夫が必要な工程が見極め、より大きな効果を見込めるコーディングと単体テストに集中して使いこなしているところだ」と話す。今後は、「コーディングで平均20%の生産性向上を期待し、ソフトウェア開発部隊へと広げていく」(同)
一方で、同社人工知能研究所リサーチディレクターの小林 健一 氏は、JEITA(電子情報技術産業協会)が2024年2月9日に開催したソフトウエアエンジニアリング技術のワークショップで、「コード生成よりも設計の品質向上に効果がある」とした。「生成AIで設計書をレビューし、アドバイスする活用も考えている」(同)という。