『サウンドノベル 街 -machi-』20周年をお祝い。色あせない実写サウンドノベルの魅力を紹介【周年連載】

文：信濃川あずき、梅津爆発、カワチ、kbj

　あの名作の発売から、5年、10年、20年……。そんな名作への感謝を込めた電撃オンライン独自のお祝い企画として、“周年連載”を展開中です。

　第67回でお祝いするのは、1998年1月22日にセガサターンで発売され、20周年を迎えた『サウンドノベル 街 -machi-』。『弟切草』、『かまいたちの夜』に続く、サウンドノベルシリーズの第3弾です。小説のように物語を読み進めながら、選択肢などの操作で登場人物を導きます。

　セガサターン版がリリースされた後に、新要素や追加シナリオを加えてリリースされたリメイク作品についても含めて、本作の魅力を改めて解説します。さらに、本作を愛する編集/ライターが当時の感想と熱い思いを語ります。

　なお、画像はセガサターン版とPlayStation版を使っています。

ファンを驚かせた実写という試み！

　『サウンドノベル 街 -machi-』をご紹介するうえで最初に語らなければならないのは、本作は実写を用いているということです。それまでにリリースされた2作のサウンドノベルは背景イラストやシルエットの立ち絵で想像力をかき立てるものだったのですが、3作目では実写が使われたのです！　当時、サウンドノベルの魅力にハマっていたファンも、これには驚かされました。

　驚きをもって迎えられた本作ですが、実際にプレイしてみるとまるでドラマを操作しているように楽しめました。実写でしか味わえない臨場感や、表情から感情を読み取る……といった、これまでとは違う遊び方が可能。この繊細なおもしろさが、根強いファンを生み出しました。

▲要所要所でムービーが入ります。

　素晴らしいのは、出演している役者さんの熱演。ムービー部分以外は静止画ですから、普通の演技よりも大げさな表情やポーズが必要であったと思われます。それを、見事に振り切って演じているんです。ムービー部分も全力疾走や池へのダイブなど、熱が入っています。初の実写サウンドノベルながら、役者さんもスタッフさんも素晴らしいものができると信じて、命がけで制作している気持ちが伝わってきます。

渋谷の交差点を中心に交差する運命

　本作の主人公は、同じ時間帯にたまたま渋谷にいた8人です。それぞれは知り合いではなく、年齢や職業はバラバラ。この8人の中からひとりを選んでじっくりプレイ……というわけにはいきません。ある主人公を選んでプレイすると、他の主人公の行動が妨げとなって先に進めなくなってしまうんです。そこで、今度は別の主人公を操作して、妨げとなる行動を取らないように導く必要があります。

▲ゲーマー刑事、雨宮桂馬。爆破予告の犯人を探して渋谷中を走り回ります。

▲ヤクザから足を洗った牛尾政美。プロポーズするつもりで向かったジュエリーショップで、強盗の共犯者にされ、さらに役者の馬部甚太郎に間違えられ、お芝居を演じることに。

▲大学4年生の篠田正志。父親の会社にコネ入社する予定でしたが、突然内定取り消しを脅されて……。

▲フランス外人部隊の高峰隆士。久しぶりに日本に帰って来たものの、自分を見失って渋谷をうろついています。

　この、主人公たちを行き来する“ザッピング”のシステムが奥深いのです。ある出来事が発生したら、そうならないように調整したり、目的地への到着時間をずらしたりといったように、プレイヤーは渋谷を見下ろす神さながらに主人公たちの運命を動かしていきます。

　行動次第で、ほかの主人公がバッドエンドになってしまうこともあるので、そうならないように、他のキャラの行動を調整して、見事に進めることに成功した時の快感は本作ならではと言えます。

　重くシリアスな場面があれば、思わず声を出して笑ってしまうコミカルな場面、泣けるシーンもあります。喜怒哀楽すべての感情が揺さぶられて、気がつけばゲーム内の渋谷に引き込まれているんです。

　一見すると平和な渋谷のように見えますが、人それぞれにドラマがあります。街を守るために奔走する人、ライターとして苦悩する人、彼氏のためにダイエットをしようとする人……。本作の主人公たちも、それぞれの事情を抱えています。そんな、まったく異なる事情を抱えた人々の運命がいろいろな場所で“交差”するのがおもしろいです。ゲームも現実も、人生ってわからないものですよね。謎解き、選択肢のチョイスもほどよい手応えがあり、しっかり頭を使います。

門戸を広げたリメイク作品

　1999年1月28日にリリースされたPlayStation版『街 ～運命の交差点～』では、“シルエットモード”が搭載されたこともあり、さらに多くのプレイヤーが本作の感動を味わうこととなりました。ただ、筆者としては実写がおすすめ。役者の表情とアクションをぜひ見ていただきたいです。

　さらにPlayStation版では、難易度の調整も実装されました。正直、一度でもサウンドノベルを遊んだことがある人にとっては、EASYはぬるいかもしれません。ただ、サウンドノベルを遊び慣れていない人が挑戦するにはもってこいです。本作でサウンドノベルデビューしたという方もいるのではないでしょうか。また、現在位置と時間がわかりやすく図式化されたので、エンディングまで進めやすくなりました。

▲すべてのエンディングを回収するにはHARDをプレイする必要があります。

　2005年には携帯電話で遊べるiアプリ版がリリースされました。こちらはシナリオの量が少なくなっています。激しいアクションを必要としないサウンドノベルは、ガラケーでじっくりプレイするにはちょうどいいものでした。筆者もプレイしましたが、他のアプリゲームよりも遙かに長く遊んでいられました。すでにプレイ済みだったためストーリーは知っているはずなのですが、数年ですっかり頭から抜け落ちていたらしく、しっかりと悩んだことを覚えています。

　新しいシナリオを追加したPSP版『街 ～運命の交差点～ 特別篇』は2006年にリリースされました。“サギ山”と“パトリック・ダンディ”の秘蔵シナリオでは、主人公の周囲で奇妙な存在感を放っていたサブキャラのストーリーを読むことができます。

今だからこそ遊ぶべき名作

　まだ遊んだことがない人には、PSNでPSP版をダウンロードするのが遊びやすいかと。追加シナリオまで含まれた特別篇が配信されていて、こちらはPlayStation Vitaでもプレイ可能です。

　撮影が行われたのは、20年以上前。渋谷の風景は今とは少し違いますが、スクランブル交差点の人混みは相変わらずです。当時撮影された風景と今を比較して違いを探しながら遊ぶのも、実写ならではの楽しみ方です。そしてゲーム内容はまったく色あせていません。未プレイの方、懐かしさを感じた方はぜひもう一度、本作をプレイしてみてください。

『街』の魅力を編集、ライターが語る

早解きキャンペーンの報酬ゲット！　文：梅津爆発

　2面性のある木嵐プロデューサーが好きな梅津爆発です、これだっ！　『かまいたちの夜』でサウンドノベルの大ファンになり、ノベル系のゲームを何作かクリアしていた自分は、もちろんセガサターン版の『街』も予約して即購入！　基本的なゲーム内容は当時買っていた“電撃セガサターン”で予習していたので、ザッピングなどの特徴的なシステムもすぐに理解できました。

　「閉じ込められてバッドエンド！　……そういえばさっき別の主人公がカギをかけていたような」みたいな感じで、熱中しながらも比較的スムーズに1日目、2日目のシナリオをクリア。しかし3日目で馬部甚太郎と牛尾政美のシナリオが進まない……。どの選択肢を選んでもバッドエンドだし、他の主人公が余計なことしてバッドエンドになっているようにも思えない……。

　ヤケクソ気味で手当たり次第に主人公を切り替えたり別の選択肢を選んだりしていたら“出会いは突然やってきた”。これまではバッドエンド回避を意識して選択肢を選んでいたのですが、ここでは馬と牛の2人を出会わせるために両者の選択肢を選ぶ必要がありました。あとからそれに気づいて「これも『街』らしい仕掛けだなぁ」と感心したものです。

　そこからは詰まることもほとんどなく、一睡もせずに発売翌日の朝方には全主人公のシナリオをクリア。そして必要事項などを記入した封書を速達で送り、後日早解きキャンペーンの報酬として“金のしおり”が届いたのでした。

自分が主役じゃない自分の人生なんてないし、自分が主役の他人の人生なんてない　文：カワチ

「パチンコ男」

　瀬山高広。ほのかを追い求める浪人生。正志のこの5日間が激動の日々だったように、この男にも５日間のドラマがあった。女と酒とギャンブルと暴力……。果たして、ほのかは高広の愛に応えるのか？　同じ顔をした3人のナゾは解けるのか？　しかし正志からは、パチンコの好きなパチンコ男にしか見えないのだった。

　上記は本作に搭載された“TIP”という用語解説システムで読むことができる一文。自分はこの“パチンコ男”のTIPに『街』というゲームのテーマが詰まっていると感じた。『街』にはメインとなる8人の主人公が存在するが、人生においては誰もが主役であり誰もが脇役。本作はそんなことを思わせてくれるゲ―ムだ。

　本稿を書くにあたりゲームを久しぶりに最初から最後までプレイして、魅力的なキャラクターの多さに改めて驚いた。軽薄そうに見えてじつは誰よりも文学を愛する木嵐袋郎や暴力団の組長で、実は娘に対して負い目を感じている白峰忠道、警官の恰好をしているが、なんと本当は一般人の尾形敬治……。主人公たちだけじゃない。誰もが自分の人生を生きている。

　そんな彼らの人生が“偶然”に交差していく様子を楽しめることが『街』の魅力なんだと思う。

　……しかし、そんななかで、エンディングにあがる“花火”だけは別。10月15日の午後8時、ある人物が行動を起こしたことによって、渋谷にいる全員が“必然”に花火を見ることになる。

　ここまで“偶然”を描いてきたのに、最後は“必然”の奇跡を描く。その粋な演出に涙させられ、このゲームが一生忘れられない1本になった。

渋谷のどこかで生きていたかもしれない人々の物語　文：kbj

　チンチコーレ！　『街』20周年。自分はキャラ同士がからみ合う数奇な物語が魅力的であるうえに、“ZAP”で物語を進めていくこれまでにないシステムが画期的だと感じて、本作にハマりました。

　中でも“The wrong man 牛”、“The wrong man 馬”が好きでした。極道から足を洗ったはずの牛尾政美と、売れない役者の馬部甚太郎が入れ換わり、これまでとは異なる人生を演じていくのが実におもしろい。トイレで互いの悩みを相談し合うシーンが好きでしたね。彼らの足取りを追って、リアルの渋谷の街を徘徊しました。

　“七曜会”も外せません。個性的なキャラがこれでもかというほど登場するこのシナリオにもハマりました。ミステリアスかつカワイらしい“水曜日”に会いたくて、渋谷の街を徘徊しました。

　妊娠を告げられる高校生の飛沢陽平を描いた“で・き・ちゃっ・た”もお気に入りの1つ。雨宮朋絵さんが演じた片瀬ユキが好みで、どこかで出会えないかと渋谷の街を徘徊しました。

　“やせるおもい”では、無茶なダイエットに挑む細井美子の物語を見られます。彼にふられないために何とかやせようとするのですが、いろいろな妨害が入ってくるコミカルストーリーが他の物語とは異なり、印象的です。自分もおいしいものを食べようと渋谷の街を徘徊しました。

　電撃オンラインで働き出してから、PSP版を遊ぶ機会があったのですが、ライターの葛藤を書いた“シュレディンガーの手”もツボに入りました。立場が変わると、個人の感情も大きく変わることを認識したのを覚えています。

　実写のAVGに抵抗がある人もいると思うのですが、キャラの運命を動かし、進めていくシステムは今なお斬新。どのキャラも特徴的で味があるので、ぜひプレイしてください！

古さを感じさせないゲーム　文：信濃川あずき

　篠田正志は金曜日だった。

　初プレイの時、最初に選んだ篠田正志を描いたシナリオの書き出しです。この書き出しに、まだ少女と呼べる年齢だった筆者はグラッときたわけです。なにこれカッコイイ。このころの私にはふんだんに“中二精神”が盛り込まれておりました。この書き出しを読んだ瞬間、『街』にハマることを心に決め、それから今日までずっと『街』が大好きです。あれからもう20年なんですねぇ。

　今回、20周年をお祝いするという話を受けて久々にプレイしましたが、レトロであることを忘れてしまいます。すでに死語となった当時はやっていた言葉が出てくる時と、作中で登場人物がインターネットに接続する時は、さすがに時代を感じましたが……古さを感じるのはそれくらいでしょうか。舞台となる渋谷は、お店は変わりましたが、スクランブル交差点や鍋島松濤公園など、大きなランドマークはそのまま。今でも聖地巡礼ができるんです。

　改めて、本作の20周年を心からお祝いするとともに、この先の20年も愛されるべきゲームであると強く思いました。本文中でもオススメさせていただきましたが、やっぱりこのタイトルを遊ばないのはもったいないと思うんです。ぜひ、今からでもプレイしていただき、30周年、40周年は一緒に懐かしさをかみしめましょう。

(C)1998 Spike Chunsoft Co., Ltd. / 長坂秀佳 / 難波弘之
(C)1998/2006 Spike Chunsoft Co., Ltd./長坂秀佳/難波弘之

• 周年連載（電撃オンライン）はこちら
• 『街』公式サイトはこちら

データ

関連サイト

• 周年連載（電撃オンライン）
• 『街』公式サイト
• スパイク・チュンソフト