電通スマプラNo.5
スマホゲームとテレビCM
2014/09/18
電通スマプラの山本悟史です。
スマートフォンなどスマートデバイス上のビジネスの立ち上げ、成長・拡大に貢献するプランニング・ユニット「電通スマプラ」は、スマホサービスのクライアントを担当する若手~中堅社員で構成されていますが、もともとゲーム好きなメンバーが多いこともあり、ユーザー視点での分析や企画立案ができるチームです。
今回のコラムのテーマは「スマホゲームとテレビCM」。これまで携わってきたスマホゲーム・アプリのCM制作業務の経験や、それを通じて感じたことを中心にお話ししたいと思います。
1.オンエア量が物語るテレビCMの効果
昨年末に発表されたApp Annie社の調査データによりますと、日本のスマートフォンアプリ売上高が米国を抜いて世界一になりました。
その中で、最も成長著しいアプリ分野がゲームです。
そして、この右肩上がり成長のエンジンとなっているのが、テレビCMであることに疑いの余地はありません。企業別月間放送回数を見てみると、直近半年間(2014年3月~8月)でTOP10入りしているスマホゲーム(アプリ)企業が6つあります。各社がこぞってテレビCMを打つその背景には、投資に見合うだけの「圧倒的効果」がテレビCMにはあり、多くの人にプレーしてもらうためにはテレビCMのリーチが必要不可欠だといえます。
2.心を動かさなくても、行動は促せる?
スマホゲームのCM投下量が多い一方で、CMに対する好感度はどうなのでしょう? CMデータバンクの好感度調査などを見てみると、スマホゲームのCMが上位10本に入ってくることは、あまり多くありません。しかし、効果=ダウンロード数の獲得には、しっかりと結びついています。
これが意味するところは、テレビCMを見た視聴者が、直感的にそのゲームを検索し、何となくプレーし始め、ハマったら周囲を誘って一緒に遊ぶようになる、といったルートをたどっているということではないでしょうか。つまり、AISASモデル(※1)に近い行動モデルでユーザーは行動しており、Attention(注意)とInterest(関心)の役割を、テレビCMが担っています。
また、多くのスマホゲームが、Free to Playのサービスであることを踏まえると、AISASモデルにおけるSearch(検索)とAction(購買、この場合はダウンロード)の間の障壁は、他の有料商品に比べて低いと考えることができます。そのため、CMの印象を視聴者に強く残したり、「プレーしたい!」というDesire(欲求)まで喚起したりせずとも、スマホゲームをダウンロードさせることができてしまうのです。
実際に、以前担当していたCMで、好感度上位にランクインすることができましたが、ユーザー獲得という点においては、好感度との相関は見られず、期待値ほどの効果は得られなかった経験があります。
また、別企業のCM制作案件でも、インパクトのあるCMを目指して企画しオンエアしたところ、SNSやウェブニュースなどを中心に、世の中の反応は狙い通り得ることができたのですが、目標としていたユーザー数の獲得には至らず、新しいCMに切り替えたこともあります。そして、この時は面白いことが起きました。家族や知人にそのサービスの話をすると、皆一様に「あの○○のCMのだよね」と、最初のCMを挙げるのです。これは私だけではなく、クライアントさんの周辺でも起こった反応でした。視聴者の記憶(心)により深く残っていたのは、最初のCMだったといえます。
3.スマホゲームならではのDesire(欲求)と購買行動
スマホゲームのダウンロード行動には、Desire(欲求)が発生しておらず、AISASモデル行動だと申し上げました。しかし、Free to Playのスマホゲームのほとんどがアイテム課金制。ダウンロードしてゲームを進めていく過程で、一定数のユーザーが「課金」という購買行動を行っています。つまり、Search(検索)とAction(ダウンロード)の後に、スマホゲームならではの行動が発生していると考えます。
それは、Try(試す)⇒Enjoy(楽しむ)⇒Desire(欲求)です。
ゲームをまずは遊んでもらい、ゲームの魅力に気付き楽しんでもらう。そして、人によってはアイテムなどの課金に応じながらゲームを進めていく。これが、従来のコンシューマーゲームには見られない、スマホゲームならではの特徴です。
このユーザー行動からいえることは、「Desire(欲求)は後からつくられる」ということです。
これは、化粧品無料サンプルなどの通信販売業に近い形です。テレビCMによって、無料お試しキットを、まずはとにかく試してもらう(Try)。そして、商品の良さを認めてもらい(Approve)、買いたいという欲求を喚起する(Desire)という流れです。デバイスやデジタルコンテンツという特性上、スマホゲームの方がTryさせることが容易ではあるものの、テレビCMの果たす役割も同じといえます。
しかし、大きく異なるのが、「ハマる(Enjoy)ことで衝動的な欲求(Desire)が発生し、購買に直結しやすい」という点です。ゲームがエンターテインメントだからという大きな理由に加え、指一本で購買行動に移れてしまうというスマホの特性が、Desire(欲求)≒購買を生んでいると考えています。一瞬の心の衝動で、ポチッと買い物をしてしまう人が多いのは、前回までのコラムでも記載した通りです。
この3つの行動TED(Try⇒Enjoy⇒Desire)は、スマホゲームビジネスにおいて無視できないユーザー行動だと考えています。
4.ゲームの独自性を訴求することがTEDを後押しする
ここ数年で、スマホゲーム市場は飛躍的に成長しました。数年前の携帯ゲームというイメージは、もはや無くなりつつあります。その背景には、デバイスのスペックを活用した「ゲームの独自性の追求」による、数々の画期的なゲームのヒットが挙げられます。これは、スマホゲームが単なる暇つぶしではなく、独創的で面白いエンターテインメントとしてユーザーに受け入れられたためだと思います。
そう考えたとき、テレビCMでは「○○○なゲーム」としてゲームの独自性を訴求していくことが、Try(試す)させるためにもとても重要となります。そのCMを見てゲームを始めたユーザーは、「○○○なゲーム」として、ゲーム独自の楽しみ方を想像しながら遊び始めます。その結果、Try(試す)させるだけでなく、ユーザーのEnjoy(楽しむ)を後押しすることにもつながり、Desire(欲求)とその先の購買に結び付いていくのです。
ゲームの独自性を訴求していくとは、つまり、ゲームが持つ独自のシズルを探し、描いていくことともいえます。化粧品無料サンプルのCMが、日々のみずみずしい表情を描写することで「はりのあるお肌になる」ことを想像させ、Try(試す)したユーザーにその効果を実感させるように、ゲームが面白そうだと感じさせる独自のシズルを描くことです。以前、まだ携帯ゲームの多くがフィーチャーフォン向けだった頃、某大御所クリエーティブ・ディレクターが「シズルの描き方が難しい。操作画面を見せると楽しそうじゃなく見えてしまうし、携帯を持って笑っていてもゲームっぽさが出ない」と悩んでいたことを思い出しますが、スマホが主流となった今、CM表現で伝えられることが増えたことは明らかです。実際に当時と比較しても、ゲームシズルの感じられるCMが増えていることが実感できると思います。操作が楽しそう、皆でワイワイ盛り上がれそう、ストーリーに感動できそう、一人で熱中できそう、といったゲームの独自性を、それが最も伝わるトーン&マナー(元気、中2、萌え、笑顔、青春、本格など)で描くことでゲームシズルを感じさせ、TEDを後押しすることにつながるのです。
そして、その時の課金に応じる理由は、以前のコラムで紹介した「だって、○○だから」。Desire(欲求)さえ起こせれば、購買の理由はユーザーが自分で探してくれます。つまり、テレビCMでEnjoy(楽しむ)の方法を具体的に感じさせることができれば、ユーザーのTEDの流れと、その先の購買までの全体を設計することができるといえるのではないでしょうか。
最後になりますが、ゲームが持つ独自性が、どんな人に需要があるのかを把握せずして、効果的なCMは生まれません。ユーザー行動の分析だけでは見えてこない、ユーザーの本質的インサイトを的確に把握することが求められると考えます。電通スマプラでは、独自調査によって導き出した「スマホで購買クラスター」によって、対象のゲームがどういった人に受容性があり、その層に対していかにアプローチするべきかといったコミュニケーション戦略立案も行っています。今のユーザーがどんな人なのか。誰に何を言ってTryしてもらうべきか。それらを的確につかむことで、ユーザーの定着率を高めつつ、ゲームや企業へのファンを増やしていくことも目指しています。
楽しいスマホゲームが増えているからこそ、暇つぶしではなく、心からEnjoyしてプレーする人がますます増えていってほしいものですね。
※1 AISASとは、購買行動プロセスを説明するモデルのひとつ。
購買行動プロセスとして、以下の5つがあるとしている。
Attention(注意)⇒Interest(関心)⇒Search(検索)⇒Action(購買)⇒Share(情報共有)