小麦は、原産地とされる西アジアやエジプト、西欧の歴史を見れば明らかなように、古代以前から何千年にもわたって、粉として利用されてきました。その理由として、次のようなことが挙げられます。
まず、小麦は、穀物としての実の構造と性質が、製粉、つまり粉食に向いていたといわれています。たとえば米の場合、外皮(籾)、内皮(ぬか)とも剥離しやすく、胚乳部は硬いです。そのため、粗を取り除き、糠の部分を擦り合わせて削り取るだけで食用とすることができます。つまり、米はわざわざ粉にする必要がないわけです。
これに対して小麦の場合は、外皮は厚く強靱で(粒全体の約13%)、胚乳部は柔らかです。しかも、胚乳部は外皮にぴったりと密着していて、簡単には分離できません。したがって、小麦の場合は粒のまま砕いて粉にして、その後、皮を分離するほうが、胚乳部の利用方法として合理的といえます。現代の製粉技術でも、胚乳部と皮とを完全に分離することはできません。
また、小麦粒には「粒溝(しわ)」と呼ばれる深い溝が縦についていますが、この部分の皮は、外側から削る方法で取り除くのは大変むずかしいのです。やはり粉にしてしまってから篩分けたほうが理にかなっています。さらに、小麦は皮のついた粒のまま炊飯しても、けっしておいしいものではない上に、消化率も悪くなります。
ところで、たんに栄養面から見れば、小麦の粉食はマイナスです。なぜなら、最も豊富に栄養素(脂質、ミネラル、ビタミン)を含む胚芽部分を除去してしまうからです。小麦の胚芽は、米と同様に粒の外側に付着する形でついているため、剥離しやすい構造です。胚芽を除去して製粉するのには理由があります。胚芽と皮に多く含まれる脂質は粉の変質(主として脂質の酸化)を促し、長期保存をむずかしくしてしまうからです。そのため製粉工場では、胚芽と皮ができるだけ混ざらないように、さまざまな工夫を凝らしています。
しかし、小麦は粉食することによって、その最大の特徴を余すところなく発揮することになりました。穀物の中で小麦だけに特有の、グルテンの活用です。小麦のたんぱく質は、粒のままではグルテンを形成しません。したがって、小麦粉の特性を生かすためには、どうしても製粉しなければならないのです。
麦飯は、大麦のみ、または大麦と米を混ぜて炊き、飯としたものです。米の乏しい畑作地帯ではこれにさらに粟などの他の雑穀を加えたり、粟と大麦のみで作るような麦飯もかつては見られました。