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なぜ交渉がうまくいかないのか
クリスは「フォーチュン500」の経営幹部であり、暗礁に乗り上げた交渉でもまとめ上げてしまう達人として社内に名をはせている。彼の交渉術を見てみよう。
数年前、クリスが勤める会社では、ヘルス・ケア部門で開発された新製品用の原材料を調達するため、ヨーロッパの小規模サプライヤーと交渉を始めた(秘密保持のため、文中では細部について一部変更している)。
商談は、1キログラム当たり約40ドルで年間約450トンを購入することでまとまりかけたが、一つの条件をめぐって対立した。クリスの会社は原材料の独占販売契約を求めたが、サプライヤーはこれを拒否したのである。
ライバルもこの原材料を入手できるとなれば、会社は新製品への投資をためらうことだろう。交渉団はしぶしぶながら取引条件で譲歩し、最低購入量の保証と価格の上乗せを提案した。
驚かされたことに、これほどの好条件の大口取引などそうないにもかかわらず、サプライヤーはなおも独占販売を嫌がった。交渉団は万策尽き、商談は行き詰まり、決裂寸前に追い込まれた。さらに悪いことに、双方の関係はこじれ、もはや誠実な気持ちで話し合える状況ではなくなっていた。
進退きわまった交渉団は事ここに至って、こじれた関係を修復するためにクリスの登場を要請した。クリスは期待以上の活躍を見せた。彼は事実関係を確認したうえで、サプライヤーに対して「生産能力をフル稼働していただかなければならないほどの量をお約束しているのに、なぜ独占販売契約にためらわれるのですか」と質問した。
その答えは、クリスたちをあ然とさせるものだった。サプライヤーは、ヨーロッパ向け製品を製造するオーナーの従兄弟の会社に、この原材料を年間約100キログラム販売していたのである。そのため、ここで独占販売契約を結んでしまうと、従兄弟の会社との契約が守れなくなるというのだ。
この情報をつかんだクリスは、両社が最終合意に至るような案を提示した。こうしてサプライヤーは、従兄弟の会社に年間数百キログラムを提供する例外規定を設けた契約に満足し、クリスの会社に独占販売することにした。