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IDEOで新製品の開発に携わってきた2人の元リーダーが、プロトタイピングに関する知見を紹介していく。第1回は、製品コンセプトを消費者の日常生活(つまり実際の市場)で検証する「ライブ・プロトタイピング」について。
新しい製品や体験の開発を担う人々は、創造性の発揮、選択肢の探求、仮説検証の方法として、長きにわたりプロトタイピングを重用してきた。コンセプトを具現化することで、根本的な仕組みをより詳細に理解でき、情報に基づく判断が下せるようになる。企業が新しい製品やサービスのプロトタイピングを行う方法は、大きく分けて2つある。「ラピッド・プロトタイピング」と「パイロット」だ。
しかし我々は、これら2つの中間に位置づけられる新たなアプローチが必要であることに気づいた。実際の市場――消費者の気を散らす物事にあふれ、騒然とした環境――において、パイロットへの多額の投資をすることなく、顧客への提供価値や市場への訴求力を探るためである。我々はこのアプローチを「ライブ・プロトタイピング」と称している。
ライブ・プロトタイピングの価値を理解するために、前述した2つの主要な方法と比較してみよう。ラピッド・プロトタイピングは、質よりも量を重視する。アイデアの感触をつかむために、数十ものスケッチ、ワイヤーフレーム、サービスのシナリオ、あるいは粘土細工のように直観的な模型が、素早くつくり出される。その対極にあるのが「パイロット」と「テクニカル・プロトタイピング」だ。これらは通常、可能な限り「正解」に近づけることを目指すため、完全な体験をほとんど省略せずに提供する。パイロットが経済的な実現可能性の検証に用いられるのに対し、テクニカル・プロトタイピングは技術的な実現可能性、または新たな技術的アプローチのメリットを評価するためにつくられる。両方とも量産開始の前段階に位置づけられるため、かなりの投資が必要となり、最終バージョンにきわめて近いことが求められる。
ライブ・プロトタイピングは、アンケート調査、ベーステスト 、フォーカス・グループといった手法に取って代わるものだ。まだ粗い段階のコンセプトを、消費者が日常生活で遭遇する状況に送り出すのだ。たとえば店の棚、ホテルのフロント、アプリストアなどである。そこには消費者の気を散らすさまざまなものや、競合する選択肢もある。優れた市場調査がすべてそうであるように、ライブ・プロトタイピングも本来、定性的であると同時に定量的でもあることが理想だ。最初に、消費者の行動がどう展開されるかをありのままに観察する。インターセプト(調査回答者を街頭などでつかまえること)やインタビューによる検証はその後だ。また事前に設けた測定基準に基づき、量的なパターンを観察するために、十分な数の消費者を巻き込む必要もある。
下の表は、アイデアを市場に投入するプロセスにおいて、ライブ・プロトタイピングがどの位置づけにあるかを説明している。