生産性の著者、伊賀泰代氏とネスレ日本の高岡浩三社長との対談の3回目。今回は、これからますます重要になる人という資源において、いかに日本は無駄遣いが多いかを指摘する。(構成/田原寛、撮影/鈴木愛子)
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ホワイトカラーエグゼンプションは是か否か

高岡浩三(以下、高岡):ネスレ日本もほぼ年功序列で終身雇用の新興国型人事モデルでずっとやってきたんですが、私が社長になってからいろいろと変えてきました。考える時間を増やすために作業を減らして、1人あたりの残業も年間およそ40時間に減った。管理職は顧客にとってどんな価値をつくり出したかという成果で評価するようにし、報酬をそれと連動させました。さらに、部下を含めた360評価も導入しました。

高岡 浩三(たかおか・こうぞう)
ネスレ日本 代表取締役社長兼CEO
1983年、神戸大学経営学部卒。同年、ネスレ日本入社(営業本部東京支店)。2005年、ネスレコンフェクショナリー代表取締役社長に就任。2010年、ネスレ日本代表取締役副社長飲料事業本部長として新しい「ネスカフェ」のビジネスモデルを構築。同年11月、ネスレ日本代表取締役社長兼CEOに就任。著書に『ゲームのルールを変えろ』(ダイヤモンド社)、『ネスレの稼ぐ仕組み』(KADOKAWA)、『マーケティングのすゝめ』(共著、中央公論新社)、『逆算力』(共著、日経BP社)がある。

 このような人事制度改革を進めてきて、今年4月からほぼ全社員を対象に、ホワイトカラーエグゼンプション(労働時間を自分で自由に決めることができる自律的労働時間制度)のコンセプトを導入します。数年前から社内で議論をはじめて、労働組合での投票を経て、完全導入を決めました。

 私が求めているのは、長く働くことではない。顧客が気付いていない問題を解決するイノベーションを実現すること。そのために、みんな頭を使って仕事をしてほしい。早く切り上げられる場合は、早く帰ってもいいし、午後から出社してもいい。

伊賀泰代(以下、伊賀):仕事の成果を労働時間と結びつけるのは本当にもうやめたほうがいいですよね。ときには徹夜するのも仕方がないけれど、徹夜すること自体は褒められるべきことではない。そんなことをしなくても済むよう生産性を上げる方法を指導するのが上司の役割なのに、そういう指導を何もしないで徹夜で頑張ったことを褒めるような上司がいるから、長時間労働する社員が減らないんです。

高岡:上司がまだ若かったとき、20年、30年前の新興国モデルの発想から抜け出せていないのかもしれません。

伊賀:自分が育てられた方法以外の方法で部下を育てるのは確かに難しいことです。でも時代がこれだけ変わっているのに、いつまでも時間で管理するのはどうかと思います。

 働き方改革の中で議論されているインターバル規制も、働き方を時間で管理するルールです。これ、運転や運送業務に携わっている人や飲食店で働いている人には必要だと思います。安全問題に直結するし、いくら生産性を上げても早く家に帰れるわけではありませんから。

 でも、ホワイトカラーの人たちにまで一律にインターバル規制を課すのは無理があると思います。時差のある国との打ち合わせもあるし、欧米との行き来には12時間もかかる。その移動時間は勤務時間なのかインターバルなのか、一律に決められることではありません。

 むしろホワイトカラーに関しては一人ひとりが自分で判断できるよう訓練することが重要で、企業はそのための人材育成にこそ投資すべきです。