「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集します。

人生には「春夏秋冬」がある

 自分自身の人生を「ライフ・サイクル・カーブ」に当てはめて、人生の全体像を大掴みしながら、各年代のステージに応じて変化していくゲームをイメージしてみましょう。

 私たちは「いつ死ぬかわからない」とはいえ、現在の日本を前提にすれば、私たちは平均で80歳+まで生きることになります。ということで、ここでは平均的な寿命を、いったん80歳+とおいて、先述したライフ・サイクル・カーブの概念に当てはめてみましょう。すると、おおよそ人生を次の4つのステージに整理できることがわかります。

 ライフ・サイクル・カーブにおける「導入期」に該当するのが「人生の春」です。

 子ども時代・学生時代から30歳前後くらいまでがこのステージに該当します。「人生の春」のキーワードは「試す」です。さまざまな物事に取り組む過程を通じて、自分は何が得意で何が不得意なのか、何に情熱を感じて何にシラけるのか、を理解し、次のステージにおいて追求するべき方向性やテーマを見つけるのが、この時期の主題ということになります。

 次に、ライフ・サイクル・カーブにおける「成長期」に該当するのが「人生の夏」です。

 年齢的には30歳前後から50歳前後くらいまでがこのステージに該当します。「人生の夏」のキーワードは「築く」です。「ここ」と決めた領域に自分の時間や労力といった資源をレーザーのように集光させ、その領域で知識・スキル・経験といった人的資本と、信用・評判・ネットワークといった社会資本を築いていき、人生の「秋」「冬」以降の下地をつくることが、この時期のテーマということになります。

 次に、ライフ・サイクル・カーブにおける「成熟期」に該当するのが「人生の秋」です。

 年代的には50歳前後から70歳前後くらいまでがここに該当することになります。「人生の秋」のキーワードは「拡げる」です。「人生の夏」において築いた人的資本と社会資本を足がかりにして、本業以外のさまざまな領域に仕事のポートフォリオを拡げ、次にやってくるステージである「人生の冬」へのトランジットをスムーズかつ実り豊かなものにするための仕込みをします。

 最後に、ライフ・サイクル・カーブにおける「衰退期」に該当するのが「人生の冬」です。

 年代的には70代以降がここに該当することになります。「冬」と聞けば、それはいかにも寒く、寂しいように感じるかもしれませんが、そんなことはありません。「冬」はとても美しく、また人の温もりが感じられる季節でもあります。「人生の冬」のキーワードは「与える」です。これまでの人生で培ってきたさまざまな経験によって結晶化された知恵を基に、後進にアドバイスを与え、活躍の機会を与え、成長につながるフィードバックを与える賢者のイメージです。

季節に応じて「合理的な振る舞い」は変わる

 ライフ・サイクル・カーブの4つのステージに応じて、超長期にわたる「人生のプロジェクトロジック」を考察することで次のような洞察が得られると思います。

 それは「ステージに応じて適切な振る舞いは変わる」ということです。

 例えば、一般に「あれこれと試すばかりでどうにも腰が据わらない」という状況はネガティブに語られがちですが、「人生の夏」以降に本腰を入れて極める領域を見つけるためには、その前段となるステージの「人生の春」においては、むしろ積極的にいろんなことを試してみて、自分が夢中になれること、自分が他人より得意なことを見つけることが重要、ということになります。

 一方で、何かに集中して取り組むことで人的資本や社会資本を蓄積するべき「人生の夏」において、あれこれと中途半端に試すばかりで腰が据わらないというのは、ちょっとまずい状態だ、ということになります。

 つまり、何を言っているかというと、どのような考え方・構え方・動き方が適切なのか、あるいは不適切なのかというのは、その人のライフ・ステージによって全く変わってくるということなのです。

人生を呪う7文字の言葉「石の上にも三年」

 ところが、世の中には、例えば「石の上にも三年」とか「継続は力なり」といったことわざや訓言が数多くあり、当人の戦略や文脈と関係なく、常に守られるべきもののようにしてしばしば語られます。人から思考や行動の自由度を奪う言葉のことを「呪い」というわけですが、これらの言葉は、まさに「呪い」となって、その人の人生から戦略的自由度を奪っていくことになります。

 経営において選択肢=オプションの縮小は最も避けるべき悪手ですが、これは人生の経営戦略=ライフ・マネジメント・ストラテジーの実践においても同様です。私たちの社会には「〇〇すべし」とか「〇〇すべからず」といったことわざや訓言が数多くありますが、これらは「呪い」となって私たちの人生から思考と行動の自由度を奪うものが多いので注意が必要です。

 しかし、では、どうすれば、私たちは世に蔓延る「呪い」から自由になることができるのでしょうか? 「考えることによって」というのがその答えになります。自分の頭で考えて、誰がどう言おうと、自分にとって合理的だと思える人生の全体像=マスタープランを描くことができれば、世に蔓延する戯言に惑わされることなく、自分の足で大地を踏みしめるようにして人生の戦略を実行していくことができるでしょう。