「あの部下はなぜ言う事を聞いてくれないんだろう」「彼はいつもやる気がなさそう……」といった若手社員に心当たりはないだろうか。その場合、そもそも目指すべき方向性が、部下とズレているのかもしれない。イキイキと働く社員を育てるにはどうしたらいいのか。本稿は片岡裕司、山中健司著『なぜ部下は不安で不満で無関心なのか メンバーの「育つ力」を育てるマネジメント』(日経BP日本経済新聞出版)より一部を抜粋・編集したものです。
「性弱説」のマネジメントへ
発想を転換する
「やってみたいこと、挑戦してみたいこと」は「内発的動機」といわれるもので、職場だけでなく、教育現場でも、もっとも大切にするべきものといわれています。
本人が内側からやる気にあふれて取り組むことで成果も成長も生まれてきますし、大きな壁を越える原動力にもなります。
しかし、誰もがそういう強い動機を簡単に持てるものでもありません。
「内発的動機」の対極にあるのが「外発的動機」です。外側から与えられる報酬や罰によって行動を動機付けるものです。この2つの動機付けの背景には人間観の違いがあります。人は本来働き者であり、場をつくり、背中を押せば熱心に働くという考えと、人は本来怠け者で、報酬や罰を与えないと働かないという考えです。
近代マネジメント論や教育論は基本、前者の考えに則っています。人は善であり、勤勉であり、学びたい、働きたい、貢献したいという欲求を持つ存在ということです。
この考えを否定する気はまったくないのですが、時には怠けたい、休みたい、サボりたいというのも人間の本質ではないかというのが私の正直な考えです。
人間には善と悪、働き者と怠け者の両面がある。そんな本質をひと言で表したのが、一橋大学の伊丹敬之名誉教授が説く「性弱説」です。「人は性善なれど弱し」ということです。
誰もが本質的には善で働き者だと私は信じています。でも弱さも共存していて、ついサボりたくなったり、楽をしたいと思ったりする。だからこそ、上司や仲間、職場の熱量などが欠かせません。楽な方向に流されそうな自分を支えたり、刺激してくれる仲間が大切なのです。
「できない人」ではなく、
「まだできていない人」なだけ
このような人間観に立つと、存在するのは「できる人」と「できない人」ではなくて「できる人」と「まだできていない人」となります。そして「まだできていない人」を「育つ人」へ引き上げれば「できる人」に変わります。
全員が「育つ人」になれば、全員がハッピーになることができます。なかでも一番ハッピーになれるのはマネジャーの皆さんです。