豊島将之(とよしま まさゆき)とは、将棋棋士であり、「豊島? 強いよね」の豊島である。1990年4月30日生まれ。愛知県一宮市出身。桐山清澄九段門下。棋士番号264。
史上初めての平成生まれのプロ棋士である。愛称は“きゅん”、“とよピー”。関西所属の有力若手棋士、糸谷哲郎・稲葉陽・村田顕弘と並ぶ“関西若手四天王”の一角と称される。また、出身こそ愛知だが幼少期に大阪府豊中市に家族の都合で転居しており、むしろ大阪の方が生活は長く、関西では関西弁を喋っている。そして、現在は兵庫県尼崎市に在住していると発言している。だが、今も実家は一宮市にあるためよく帰省しており、愛知県勢初のタイトルホルダー、そして念願の名人位ということで、東海テレビや中日新聞からもプッシュされていたなど、愛知での仕事も多く、自分は愛知県民という自覚は強いと言っている。なお、一部メディアでは中部勢初の名人位という報道もされた(後に訂正)が、山梨県を中部地方にカウントするならば、豊島は米長邦雄に次ぐ名人位第二号である。
タイトル戦登場歴・保持中のタイトル
タイトル | 獲得(太字=現在保持) | 登場回数 |
---|---|---|
竜王 | 2期(第32期:2019年度~第33期) | 3回(第32期:2019年度~34期) |
名人 | 1期(第77期:2019年度) | 3回(第77期:2019年度~78期、82期) |
王位 | 1期(第59期:2018年度) | 4回(第59期:2018年度~60・62期~63期) |
王座 | 2回(第62期:2014年度・70期) | |
叡王 | 1期(第5期:2019年度) | 2回(第5期:2019年度~6期) |
王将 | 2回(第60期:2010年度・67期) | |
棋聖 | 1期(第89期:2018年度) | 3回(第86期:2015年度・89~90期) |
通算 | 獲得=6期 | タイトル戦登場回数=19回 |
棋歴
父親の司法試験受験のため、父方の実家のある愛知県一宮市で生まれ、司法試験合格と大阪での司法修習に伴い大阪府に転居。父親の司法修習中は将棋の好きな修習同期が小学校入学前の将之少年と対戦し、皆コテンパンにされて帰っていったという。
小学校3年生で奨励会に入会し、中学校2年生の4月に三段昇段(当時の最年少記録)。2007年、16歳で四段昇段(プロデビュー)。
2009年度に王将戦予選を7連勝で駆け上り、超難関リーグ“王将リーグ”入りを果たす。2010年度も王将リーグ入りし、これを突破しタイトル挑戦権を獲得。初めてのタイトル戦は久保利明王将の前に2勝4敗で敗れるも、同年度の新人賞を受賞した。
2012年のNHK杯1回戦(対佐藤紳哉)で「豊島? 強いよね」事件が発生(後述)。同年度はB級2組を9勝1敗の2位で突破し、B級1組に昇級する。
2014年、第3回電王戦に出場。第3局でYSSと対局し、初手から一度も優勢を渡す事無く圧倒、プロ側に今大会初にして唯一の白星をもたらした。対局後のインタビューで練習対局を数百局は行なったと答えており、この一局へ注がれた熱意が窺える。1ヵ月後のニコニコ超会議3ではそのYSSとタッグを組んで、ponanza・ツツカナ・習甦の電王チームに勝利。YSSが弱いのではない、豊島が強いのだということを知らしめた。
2014年度は王座戦でも挑戦権を獲得、羽生善治王座と対局し、フルセットまで追い詰めるが2勝3敗で惜敗した。そして、2015年2月8日に、電王戦のイベントの1つとして、『リアル車将棋』にて再び羽生にリベンジ対局することになった。序盤、中盤は優勢だったが、終盤に一気にカウンターをされ敗戦となった。
2016年、JT杯将棋日本シリーズで自身初の棋戦優勝を果たす。同年度は順位戦でも昇級を決め、26歳でA級八段となる。
2017年度の初めてのA級順位戦では5連勝と好調なスタートを切るも、後半失速し史上初の6人プレーオフに1回戦から参加することに。同時に挑戦していた王将戦七番勝負と時期が重なり、2018年3月の約半月の間に6局・80時間という超過密日程で対局をこなすこととなった。POでは3連勝するも羽生善治に破れ、王将戦ではまたしても久保王将に阻まれタイトル獲得とならなかった。
しかし、2018年度のヒューリック杯棋聖戦でも勝ち上がり、挑戦者決定戦で三浦弘行を破って挑戦者となる。五番勝負では羽生棋聖をフルセットの末破り、5度目のタイトル挑戦にして初タイトルとなる棋聖を獲得した。羽生は棋聖を防衛すればタイトル通算100期獲得という大記録だったが、それを阻んでの奪取だった。この豊島の棋聖獲得により、将棋界は八大タイトルを8人の棋士が分け合う戦国時代となったが、続く王位戦でも菅井竜也王位を破り、一気に二冠となった。これらの活躍により、将棋大賞の最優秀棋士賞を初受賞した。
さらに2019年には名人戦で佐藤天彦名人に4連勝、平成生まれ初かつ令和初の名人となり、史上9人目の三冠となった。また、九段に昇段した。しかしながら渡辺明を挑戦者に迎えての棋聖戦では1勝3敗にて棋聖を失陥、続いて挑戦者に木村一基を迎えての王位戦もフルセットの激戦の末に3勝4敗で一冠に後退することとなる。
防衛戦では苦戦が続いたが、第27期銀河戦で渡辺明を破って優勝、王位戦の間に行なわれた竜王戦挑戦者決定戦では2勝1敗と木村一基を破って竜王戦挑戦権を獲得、さらに広瀬章人竜王との七番勝負に4勝1敗で見事勝利し、令和最初・史上4人目の竜王名人となった。
2020年、第78期名人戦七番勝負では渡辺明二冠(棋王・王将)に2勝4敗で敗れ、名人位を失冠した。
一方で同時進行していた第5期叡王戦七番勝負では、永瀬拓矢叡王を相手に2度の持将棋引き分けを含む激闘の末、叡王位を奪取した。叡王戦は4勝3敗2持将棋1千日手と歴代最多のタイトル戦となり、合計手数も最長記録を大幅に更新することとなった。更に、第33期竜王戦七番勝負では、タイトル通算100期に王手をかけていた羽生善治を4勝1敗で退け、竜王位を防衛した。豊島にとっては、これが初のタイトル防衛となった。
2021年は藤井聡太との間で3つのタイトルを争ったが全て藤井に敗れ、自身は無冠へと後退した。豊島が挑戦した第62期王位戦七番勝負は1勝4敗で奪取ならず、豊島が初防衛に臨んだ第6期叡王戦五番勝負は2勝3敗で叡王位を失冠した。豊島が2度目の防衛に臨んだ第34期竜王戦七番勝負は4連敗で竜王位を失冠した。
棋風・エピソード
横歩取りや角換わりといった研究量が重要とされる戦型を得意とする、居飛車中心のオールラウンドプレイヤーであり、序盤、中盤、終盤、隙がない棋風である。将棋の研究も独特で電王戦出場以降一切研究会をしないでAIを活用した独自研究を深めていく異色の研究手法を行っていると噂されている。また将棋ソフトの影響を受けたか細くも苛烈な攻めを通すことで知られている。一方で他の棋士との交流が比較的少ないことから私生活には謎が多い。
その才能は若手の頃から高く評価されており、師匠の桐山は豊島が四段に昇段した際に和服を贈っている(初めてのタイトル戦で着た模様)。また、谷川浩司は「豊島は必ずタイトルをとる」と久保利明との対談で語っている。一方、早くから好成績を挙げながらタイトル獲得や棋戦優勝になかなか手が届かず、プロ入り10年目で初優勝となったJT杯では「棋士になって10年目、あと少しのところで結果が出ていないところがありました。(中略)今回の優勝は自分にとって非常に励みになりますし、さらに上を目指していければと思います」とコメントした。その件に関して、自身の初タイトルが遠かった久保利明も「一つ獲ったら立て続けに獲るでしょうね」と発言しており、本当にその通りになった。
趣味はインドア派だがスポーツ観戦を好む。特にNBA観戦が好きでゴールデンステート・ウォーリアーズのファン、そしてステフィン・カリーの大ファンであることを公言している。また、ラグビー観戦なども好きなようである。
「豊島? 強いよね」事件
2012年のNHK杯1回戦で、対戦相手の佐藤紳哉が頭部になにかをかぶりつつ「豊島? 強いよね。序盤、中盤、終盤、隙がないと思うよ。だけど……俺は負けないよ。え〜、こまだっ、駒たちが躍動する俺の将棋を、皆さんに見せたいね。」とゆらゆらと揺れながらコメント。それがきっかけで大ブレイクした(佐藤が)。実際の対局ではコテンパンに佐藤を破り、視聴者はまさに「豊島? 強いよね」状態に。この出来事がきっかけで豊島が勝つと「豊島? 強いよね」、負けると「豊島? 弱いよね……」とネット上で書かれるのがお約束になっており、本人が言ったわけでもないのにネタにされている。ちなみに佐藤は豊島にカツラをつけて対局することを事前に話していたようで、豊島は「事前に教えてくれるとはいい人だ」と思ったとのこと。ちなみに、言われた感想としては「ふざけたコメントに見えるけど、プロとして弱点をなくすことを意識してやってきていたので、隙がないというのはそこを評価されたようでうれしかった」とのこと。当人もNHK杯の解説で「序盤、中盤、終盤」のフレーズをぶち込むなど、意外と楽しんでいるようである。
ちなみに、この「序盤、中盤、終盤、隙がない」という言い回しはそれ以前からある一種の常套句であり、別に佐藤紳哉が発案したネタではない(佐藤が受けたのは、その言い方と小刻みに揺れる不穏な挙動による)とだけ付け加えておく。
叡王戦(ドワンゴ主催)での活躍
- 第1期(一般棋戦) 七段Aブロック優勝・本戦一回戦敗退
- 第2期(同上) 七段Bブロック優勝・本戦ベスト4
- 第3期(タイトル戦)八段Cブロック優勝・本戦一回戦敗退
- 第4期(同上・以下同)八段Aブロック2回戦敗退
- 第5期 予選免除、本戦優勝(挑戦権獲得)、叡王獲得
関連動画
↓「豊島? 強いよね」事件(本人出てません)