最近、TikTok(ティックトック)はソーシャルメディアのアプリとして急速に台頭し、ブランドからも注目されつつある。いまの時代を反映し、いきなり大規模に展開するのではなく、安価にテストを行い、その結果から学ぶという手法をとる企業が多くなっている。
最近、TikTok(ティックトック)はソーシャルメディアのアプリとして急速に台頭し、ブランドからも注目されつつある。
バイエルン・ミュンヘン(Bayern München)やレッドブル(Red Bull)、ソニー(Sony)といった企業のマーケターがさまざまな方法でTikTokを活用している。確立された販売チャネルとしてではなく、若いオーディエンスにリーチするための実験的な広告が大半だ。いまの時代を反映し、いきなり大規模に展開するのではなく、安価にテストを行い、その結果から学ぶという手法をとる企業が多くなっている。
サッカークラブの場合
ドイツのサッカークラブ、バイエルン・ミュンヘンは4月上旬、TikTokでチャンネルを開設。ソーシャルメディア部門のトップ、フェリックス・レスナー氏は「TikTokを使ったクリエイティブなストーリーテリングでは、インタラクション率の高い、若いターゲットグループにリーチできる」と語る。同クラブはチャンネル立ち上げ以降、11の投稿を行い、7万5000人のファンがフォロー。投稿の閲覧数は400万回、「いいね」の数は400となっている。
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また、レスナー氏によると、同社は現在、週に4〜5の動画クリップを中心に投稿しており、2019年末までにTikTok上で100万人のファン獲得を目標としているという。そのプロフィールは、主に選手を写したコンテンツで構成されている。なかでも、セルジュ・ニャブリ選手が踊っている動画は非常に人気を博した。こうした投稿はバイエルン・ミュンヘンのライバルクラブで、4月のはじめにTikTokにチャンネルを開設し、16回の投稿を行っているボルシア・ドルトムント(Borussia Dortmund)と、似た形式となっている。ゴール後にダンスを踊るサッカー選手は多く、風変わりなダンス動画が集まるTikTokは、バイエルン・ミュンヘンやボルシア・ドルトムントといたサッカークラブにとって、比較的なじみやすいプラットフォームだ。
バイエルン・ミュンヘンのTikTokにおけるコンテンツ戦略は、ドイツの本部が決定しているが、米国や中国のマーケターからの助言も行われている。
フォロワー爆増の理由
TikTokにおけるマーケティングはまだはじまったばかりで、アーリーアダプター間の競争はまださほど激しくない。バイエルン・ミュンヘンらにとって、TikTokはSnapchatやインスタグラム(Instagram)のようなすでに確立されたプラットフォームよりも安価な選択肢なのだ。TikTokであれば、競争の激しい既存のプラットフォームよりも低コストでバイラルマーケティングのキャンペーンを実施してエンゲージメントを稼げる可能性がある。現在、レスナー氏がオーガニックな手法を用いているのも、このためだ。レッドブルやナイキ(Nike)、コカコーラ(Coca-Cola)ら、TikTokでプロフィールを開設したブランド各社も同様のアプローチを用いている。
たとえばレッドブルはTikTok上で240万人のフォロワーを抱えているが、同社をはじめ多数のオーディエンスを短期間に獲得できる広告主が存在している理由のひとつにFacebookのアカウントでTikTokにサインインできるという点が挙げられる。ソーシャルメディアのスケジュールツールを提供するルームリー(Loomly)のCEO、ティボー・クレメント氏は「FacebookとTikTokでは使える技術に共通点がある。この2プラットフォーム間でフォロワーの橋渡しをすることで数字は簡単に伸びる」と指摘する。
TikTokの大きな魅力のひとつに、基本的に誰でもクリエイターになれるという創作上の強みが挙げられる。英調査会社グローバルウェブインデックス(GlobalWebIndex)のデータによると、TikTokのユーザーのうち66%は、ほかのユーザーの独創的な動画を見るのが好きで、60%のユーザーが自分で独創的な動画を作りたいと考えている。インスタグラムの謳い文句が「すべてのユーザーを写真家に」だとすれば、TikTokの謳い文句は「すべてのユーザーを映像作家に」だ。
音楽コンテンツとの相性
TikTokが音楽コンテンツを広めている現状から、そこに広がるマーケティングの可能性にまず着目したのが、レコード会社と所属するアーティストだ。グローバルウェブインデックスによれば、TikTokでは60%のユーザーが良いと思った音楽を共有する。また53%は音楽動画のみを共有している。
ソニー・ミュージック(Sony Music)は4月のはじめにTikTokでアッシュ・キング氏のヒットシングル、「Haaye Oye」の宣伝を行った。はじめての取り組みとなる音楽ステッカーを作り、同曲のミュージックビデオで取り上げている。ソニー・ミュージックのデジタルマーケティング部門のトップを務めるアニャ・ドゥ・ソーゼイ氏は、同社は適していると思われるアーティストを対象に、TikTok上でマーケティングキャンペーンを展開し、それが若いユーザー層に及ぼす影響を追跡しているという。
ソーゼイ氏は、有名なミュージシャンも、あまり知られていないミュージシャンも、TikTok上で成功できる可能性を秘めているのは明らかだと指摘する。さらにTikTokでバイラルになった動画と、Spotify(スポティファイ)のような配信サービスやそれに続くヒットチャートでの成功には相関関係が見られるという。
インフルエンサー活用事例
新しいアプリ専門にコンテンツを作るのはコストがかかるうえに得られる成果も限定的だ。Snapchatやインスタグラムと比べれば、TikTokから広告主への報酬は少ない。さらにターゲティングや測定ツールのパッケージも提供されない。そのためTikTokで多数のオーディエンスを抱えるインフルエンサーを提携して小規模なキャンペーンを行う方が簡単であり、成功する見込みが高いと考える広告主は多い。ほかのソーシャルネットワークにおいても、インフルエンサーはより安価な選択肢となっている。
テレグラフ(Telegraph)が引用したインフルエンサーマーケティング企業のノワール(Noir)のデータによると、100万から250万人のフォロワーを抱えるインフルエンサーにTikTokで投稿してもらうためのコストは1投稿あたり500英ポンド(約7万2500円)から800英ポンド(約11万6000円)となっている。一方インスタグラムでかかるコストは8000ポンド(約116万円)から9000ポンド(約130万円)だ。TikTokのインフルエンサーを起用するときに問題となるのは、従来のプラットフォームのインフルエンサー以上に自由を与えざるを得ないという点だ。
ウィ・アー・ソーシャル(We Are Social)のシニアストラテジスト、ザナ・ワーフェ氏は「TikTokのインフルエンサーは、自身のやりたいようにやらせなければならない。そうでなければ生み出されたコンテンツでオーディエンスとのつながりが得られないからだ」と指摘し、次のように述べた。「これまでブランド各社はインフレンサーを従来の広告タレントと同じように扱ってきた。だがTikTokでは、フォロワー数だけに着目するのではなく、よりインフルエンサー個人のやっていることを理解し、協力するようなアプローチが求められるだろう」。
Seb Joseph(原文 / 訳:SI Japan)