数値の持つ意味
何らかの数値を見て、なにがしかの参考にする。これは誰しもが日常行っている事と思います。例えば、暖房をつけている部屋で温度計を見たら25℃を指し示していました。ああ、暑いと思ったら・・・そうして設定温度を下げるなり暖房を止めるなりの行動を行うわけです。
この場合の数値は計量や計測を行って得られた数の事です。数値の意味がわかるというのは、計算なり計測なりを行って得られた数値の持つ意味を理解し、適切に利用できるようになる状態と考えられるでしょう。
■意味を見出すのは難しい
しかし、日常目にする数値であっても、それが本当に意味するところを理解するのって難しいんじゃないかなぁと思います。と謂うより、自分には理解できていない事が多いです。これらの数値をキチンと理解し、妥当な判断を下せるようになるのは容易な事じゃあない*1と思います。日常使用している数値についても意外と誤解しているところがあるかも知れません。
例えばこちらはNHKの記者さんが用意した原稿を元に話された内容だと思うのですが、どうも温度についての理解に誤解があるように思えます。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110416/t10015349911000.html
東京電力は、使用済み燃料プールの水温がおよそ90度と通常の2倍以上高くなっている福島第一原子力発電所の4号機について至近距離から撮影した映像を相次いで公開しました。
まず、90度とありますが、温度を表す単位にはいくつかありまして、ただ単に『度』としただけでは摂氏なのか華氏なのかレオミュール度なのか区別がつきません。まぁ、読み上げ原稿でしょうから、日本で広く使われている摂氏温度だとは推測がつきますので次に進みます。では、90℃を意味するのであれば問題は無いのでしょうか。
摂氏温度は元々水の状態変化を基準に据えた考え方であり、絶対温度で考えると0℃は273.15 Kという値になります。例えば燃料プールの水温が通常45℃だとすれば、絶対温度では318.15 Kです。318.15を2倍すると636.30になりますが、摂氏に換算すると363.15℃になってしまいます。どうやら45℃の2倍は90℃では無いようですね。
絶対温度であれば、温度の比を考える場面が想定されますので、間違いではないといえるでしょうけれど、日常使用する摂氏温度では温度が倍になると謂う表現には色々な誤りがあるようですね。このように、日常使用している数値についてもその意味するところを理解するのは難しいようです。
■こんなのが話題になっていた
有名な作家(副知事)さんのツイート
http://twitter.com/#!/inosenaoki/status/60776864368693248
仕事をしない専業主婦は、パートでもなんでも仕事をして社会人になってください。数値の意味がわかるようになるしかありませんから。不確かな気分で子どもを不安にさせてはいけません。
仕事を持っていない専業主婦が新聞などで目にしたなんらかの数値を見て必要以上に不安がり、子どもにまで不安がうつってしまう・・・仮にコレが真であるとして、では専業主婦の方は仕事をして社会人になれば数値の意味を理解できるようになるのでしょうか?
イエイエ、そんな事は無いですよね。日常扱う数値ですらその意味するところを理解するのは難しいのです。社会人それも社会的に信頼される職業にある人も例外ではないことを温度の例は示しているでしょう。
それよりも専業主婦が不安を持つ理由が真だとして予想されることは、立場が大きく影響しているんじゃないかなぁ、と謂うことです。愛する子どもに万が一の事があってはいけない親としての感情や子どもの健康は身近にいる母親が責任を持つべきという周囲の圧力などが他の人と比べて不安が余計に大きくなってもそれは不思議な事じゃ無いと思うのです。専業主婦に数値を理解していないヒトが他の属性を持つヒトに比べて多いと謂うデータは見たことがありませんが、仮にそうだとしても、不安の発露が大きいのには理由があって、その理由を除去できるような社会的援助が必要になると思うのです。自己責任論で片付けようとするのはある意味無責任と謂えるでしょう。『どらねこは』そう思います。
それ以前に専業主婦とはいえ、一度も仕事に就いたことが無いヒトはマレでしょうし、普通に仕事についても数値の意味を理解できるようになれるかは疑わしいでしょう。引用したツイートは色々な面で誤解があると考えられます。
■誤解されやすい数値
数値を理解するって本当に難しいです。日常的に使われる数値でさえ誤解されうるのですから、ましてや専門分野で取り扱われる数値を正しく理解するのは専門外のヒトにとっては至難の業であると思われます。
どらねこは国民健康栄養調査の結果を例に挙げて説明することが多いのですが、これも専門家ではないと数値の意味するところを知るのが難しいモノであると思います。
国民健康栄養調査の手法は、記入の仕方や秤量方法などを丁寧に説明はするのですが基本的に自己申告なのです。自己申告の栄養調査については、エネルギーを過小に申告するヒトが多い事が研究により明らかになっております。食べすぎや太りすぎの害が取りざたされる社会であればあるほど、過小申告は大きくなるようです。戦後まもなくの栄養状態が悪い時代の国民栄養調査では過大申告の傾向があったみたいです。
国民健康栄養調査のエネルギー摂取量を引き合いに出して、最近の日本人はコレだけしかエネルギーを摂取していない、それなのに、過剰に輸入してものを大量に廃棄している・・・などと謂う論調で問題点を指摘するような話がでてきてしまうのも、専門家でないヒトが数値を解釈する難しさの一例だと思います。
もうひとつ、臨床検査の結果も誤解されやすい数値の一つだと思います。健康診断の結果を見て「きゃ〜、異常値がでちゃった!!」と、それだけで病気になってしまったかのような気持ちになる方も多いと思います。ですが、基準値と謂う考え方は健常者の集団を対象に調査した結果を基にしており、その値の中央95%の範囲を基準範囲としており、範囲から外れる両側約2.5%は健常人であっても、基準値から外れてしまう事を意味します。(分かりにくい文章だなぁ、理解が今ひとつの証左ですね)
ようするに健康なヒト*2が検査を受けた時でも5%の確率で基準値を外れてしまう可能性があるというわけですね。ましてや臨床検査は一つではありません、検査項目が10個であれば、基準値を外れる結果が出る確率は4割ほどあることでしょう*3。このあたりは広く理解されていないような印象です。
■数値を正しく解釈するためには?
どうやら正しく理解する事はとても難しいことのようです。どらねこも栄養関連分野であればそれなりに理解しておりますが、それ以外の事であればさっぱりです。世の中には理解には専門的知識を必要とする数値が沢山ありますが、個人の努力でその全てを理解することは現実的ではないと思われます。示された数値の意味を理解し、正しい理解に基づく対応を行うためには何が必要なのでしょうか。
その一つはやっぱり専門家の解説が大切になるのだと思います。しかし、一般の人には誰が本当の専門家なのかその見極めが難しいかも知れません。○○大学教授と謂う肩書きが信頼の担保にならないケースを震災関連報道でよく見かけたからです。
誰が信頼に足る情報を提供してくれるのか、それを見極める事がやっぱり大切なのかも知れません。ですが、その見極めるチカラを持たなければイケナイと謂うのもまた一苦労です。これも自己責任なのでしょうか?誤った情報を流すヒトが淘汰されるような仕組みをつくるのも大変そうです。こういうときこそ、信頼に足る科学コミュニケーターの出番だと思うのですが、急には育つようなモノではないですよね。何事も平時からの備えが大切なのだなぁ、そう思いました。
■教えて!
結局どらねこは良い提案を思いつきませんでした申し訳ありません。こんな方法がオススメだよ、仕方ないな教えてやるよと謂う奇特な方がいらっしゃいましたら、※欄やブックマークコメント、ツイートなどで教えてくだされば嬉しいです。