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「なぜ財務部が?」…斎藤知事パワハラ「確証なし」発表のウラ側 重用される「知事の後輩」

兵庫県の斎藤元彦知事が「パワハラ」「おねだり」などの疑惑を告発された問題で、県当局は11日、元・西播磨県民局長の公益通報について調査結果を発表し、斎藤知事によるパワハラは「確証までは得られなかった」とした。この発表について元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、「県当局」の実態に疑問があると指摘した。

西脇亨輔弁護士
西脇亨輔弁護士

元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士が指摘

 兵庫県の斎藤元彦知事が「パワハラ」「おねだり」などの疑惑を告発された問題で、県当局は11日、元・西播磨県民局長の公益通報について調査結果を発表し、斎藤知事によるパワハラは「確証までは得られなかった」とした。この発表について元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、「県当局」の実態に疑問があると指摘した。

 私は昨年までサラリーマンだった。だから、斎藤知事のパワハラ疑惑について県当局が「確証なし」と発表したことを伝えるニュースを見て、引っかかる点を感じ取った。

 なぜ、この発表を「財務部」が行っているのか。

「財務部」という部署は、文字通り「財産」の管理・運用や資金調達などを担当するのが普通だ。しかし、兵庫県では「財務部」が公益通報の対処も担当しており、斎藤知事の疑惑について元・西播磨県民局長が県に通報した際も同部が中心となって対応した。兵庫県には、弁護士などがメンバーの「公益通報委員会」もあるが、これは「意見を聴く相手」という位置付け。関係する県職員を実際にヒアリングしたとされる「財務部」が、今回の発表も行っている。その理由を考えていくと、ある事実に目が留まった。

 兵庫県に「財務部」を作ったのは、斎藤知事だったのだ。

 それまでなかった「財務部」という組織を斎藤知事が兵庫県に新設したのは2022年4月。「県財政の立て直し」という重要政策を実現するための新部署だった。そして、斎藤氏はその初代部長に当時39歳の男性を抜てきした。その男性の前職は「総務省 自治税務局」。総務官僚出身の斎藤氏と同じ部局の経験を持つ4年下の「後輩」だった。

 この人物をトップに据えた「財務部」に兵庫県の「公益通報窓口」が置かれた。今年4月に斎藤知事を巡る疑惑を元県民局長が内部通報した際も、窓口となった財務部は「斎藤知事の後輩」が部長だった。なお、この「後輩」はその後、県の「ナンバー4」とも言われた「若者・Z世代応援等調整担当理事」が一連の問題で離任した今年8月、斉藤知事によってその後任に引き上げられた。現在の財務部長にはその下で働いていた次長が昇格している。

 しかし、この公益通報窓口のあり方は、疑念を招かないだろうか。

 会社の場合、公益通報の内部窓口は「コンプライアンス」の担当部署であることが多い。組織トップが告発される可能性もあるので、経営陣からある程度「独立」した部署の方が忖度なく公益通報を扱えるためだ。この理屈は自治体でも同じで、東京都は「コンプライアンス推進部」、大阪府は「法務課」が公益通報の内部窓口になっている。こうした専門部署がない自治体では、様々なことを引き受ける「総務部」が窓口となることが多い。

斎藤知事が新設した「財務部」が、公益通報窓口を担当

 だが、兵庫県では斎藤知事が自分で新設し、総務省から来た自分の後輩を初代トップに据えた「財務部」が公益通報窓口を担当している。この組織の形は「斎藤知事に批判的な公益通報に適切に対応できるのか」という疑念を招かないだろうか。現に元県民局長は当初、県の窓口に通報しなかった理由について「今の兵庫県では当局内部にある機関は信用できません」と主張したという。

 県側の発表も、よく読むと斎藤知事のパワハラ疑惑を「確証までは得られなかった」とし、肯定も否定も「断言」しない内容だ。だが、世間一般には「疑惑に根拠がなかった」という印象を与えかねないものになっている。そうした内容を百条委員会や第三者委員会といった「斎藤知事の部下ではないメンバー」による独立した調査が始まっているのに、その結論が出るより先に公表する理由はあったのか。そんな疑問について考える時、兵庫県の「公益通報窓口のあり方」は疑念を広げる材料となるおそれがある。そうした事態を避けるためにも、公益通報を扱う組織作りには細心の注意を払い権力からの「独立」を意識するべきだろう。

 そして、今回の「財務部」による発表内容は冷静に読み解かなくてはならない。そうやって百条委員会や第三者委員会が不要な影響を受けず、粛々と検証を進められる環境を作ることこそ、今、何よりも大切だと思っている。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。今年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。

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