1月20日、劇場先行版『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』を鑑賞した。この記事は本作品の紹介と感想である。
『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』とは
あまりにも知らない人向けの概要
ひどく簡単に言ってしまうと、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』とはガンダムシリーズの最新作である。「GQuuuuuuX」は「ジークアクス」と読む。「u」がたくさん重なっているが「くあああああくす」などと発音する必要は無い。
ガンダムシリーズの始まりは時をさかのぼること40年以上前になる。1979年放送の『機動戦士ガンダム』(通称「ファーストガンダム」)は、当時のテレビアニメとして画期的な設定やストーリーが話題を呼び、放送終了後のガンプラブームもあいまって大人気コンテンツとなった。ガンダムシリーズはこれまでアニメ、漫画、ゲーム等々で様々な直系ならびに派生作品が発表されきた。その新シリーズが『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』である。
本作品はカラーとサンライズのタッグ体制で制作されている。制作体制については2024年12月4日にYouTubeでライブ配信された「ガンダムカンファレンス WINTER 2024」内で初めて発表された。この発表はオタク達の間で大きな話題となった。
『GQuuuuuuX』発表時にオタク達が沸いた訳
この制作体制にオタク達が騒いでいる理由がわからないという方向けにざっくり説明すると、まず、平たく言ってしまえばサンライズは「今までずっとガンダムを作ってきたアニメ制作会社」である(現在はバンダイナムコフィルムワークスのアニメ制作ブランドとなっている)。一方、カラーは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』を世に送り出し、『シン・ゴジラ』や『シン・ウルトラマン』の制作にも深く関わった映像制作会社である。カラーのトップは庵野秀明さんだ。
言うまでもなく、庵野秀明さんは『新世紀エヴァンゲリオン』を生み出した中心メンバーの一人というか核(コア)であり、「日本史上オタクとして最も大成したオタク」である。そんな彼の制作スタジオカラーなので「カラーがついにガンダムに手を出すのか…!」ということでオタク達は騒いでいたのだ。
とは言え、何故オタク達はそこまで騒ぐのか。何を隠そう『GQuuuuuuX』は単に「庵野秀明のスタジオが制作協力するガンダム」では済まないからだ。監督を務める鶴巻和哉さん、シリーズ構成・脚本の榎戸洋司さん、メカニックデザインの山下いくとさんは、皆『新世紀エヴァンゲリオン』の制作に関わっており、本作品はまさしく「かつてのエヴァのスタッフが手掛けるガンダム」なのだ。極めつけに、庵野秀明さんが脚本として『GQuuuuuuX』に携わることが明らかになり、オタク達は「庵野、ガンダムやんのかよ」と衝撃を受けたのであった。
劇場先行公開版『Beginning』について
一部話数を劇場上映用に再構築
そして、『GQuuuuuuX』のテレビシリーズ放送に先行して2025年1月17日から劇場公開されているのが『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』だ。『Beginning』は「一部話数を劇場上映用に再構築した」ものと公式で謳っている。
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テレビアニメの劇場先行公開自体は特段珍しいことではない。近年では『鬼滅の刃』等ですっかりおなじみになっている。劇場先行公開は、ファンからすればちょっとしたお祭りイベントであり、制作側からすればファンからできる限りお金を回収…ではなくファンが気持ちよく推し活できる場を提供する取り組みであり、シリーズのスタートダッシュを勢いづけることにもつながる。
本作品の場合は単なる先行公開ではなく「劇場上映用に再構築」という表現をしているが、これに対して私は「単に先行上映するんじゃ芸がないから一話から三話あたりまでを一本の作品として形になるように編集したのかな?」などと考えていた。大方のオタク達もそのように考えていたのではないだろうか。そう、上映開始までは…。
『Beginning』公開後のオタク達の反応
そんなこんなで『Beginning』は公開日を迎えた。私は現在そこまでガンダム熱に燃えていないので公開日はスルーしたが、熱心なオタク達は当然の如く映画館に足を運んだ。
公開初日、私がいつものようにX(旧Twitter)のおすすめタイムラインを眺めていると世のオタク達のポストが流れてくる。『Beginning』について語らうオタク達の様子がおかしい。記憶を頼りに再現しよう。
- 「とんでもないものを観てしまったのでは?」
- 「ネタバレされる前にとにかく早く観に行け!」
- 「GQuuuuuuXを見てるときのオレ」(「何だ今の?」のミーム画像付き)
- 「新しいガンダムが始まると思ったら新しいガンダムが始まった」(改変した「な…何を言っているのかわからねーと思うが~」ミーム画像付き)
- 「開始早々違和感を覚えたが5秒後には確信に変わり脳を焼かれた」
- 「特撮好きの友人が『シン・ウルトラマン』の冒頭で味わった感情をガノタの自分も体感することができた」
- 「庵野ノリノリで草」
こんなことを言っているオタク達がたくさんいた。私はちょろいところがある人間なので、さっきまで興味が無かったくせになんだかとっても気になってきた。
私の鑑賞記
軽いネタバレを食らってしまった
私がおすすめタイムラインをもう少し眺めていると『Beginnig』の内容についてそこそこ踏み込んだポストが流れてきてしまった。X(旧Twitter)のアルゴリズムにはうんざりである。
ネタバレによると、『GQuuuuuuX』には「宇宙世紀」が絡んでくるようだ。「宇宙世紀」というのは、1979年放送の『機動戦士ガンダム』から続く最もメジャーなガンダムの世界設定およびシリーズを指すもので、続編やスピンオフ作品が数多く作られている。ガンダムを知らない人でも「アムロ・レイ」や「シャア・アズナブル」というキャラクターの名を聞いたことがあると思うが、そのアムロやシャアが生きている世界が「宇宙世紀」である。
前情報で完全新シリーズのような顔をしていた『GQuuuuuuX』が、まさか宇宙世紀のガンダムとは思わなかった。宇宙世紀の最も新しい時代?だとしたらそこまで騒ぐことでもないような…。あるいは『シン・ガンダム』的なことをやったのか?庵野さんが参加しているのはそのため?だとしたらオーソドックスなガンダムらしさは保ってほしいものだが…。この謎を晴らすため私は映画館へ向かった。

今回はさいたま新都心のMOVIXさいたまで鑑賞した。
サプライズ部分の感想(というか私のリアクション)
開始早々私の知っているガンダムが始まった。どういうことだ?本当に『シン・ガンダム』なのか?私は混乱した。単にオマージュを入れているだけかも知れない。いやしかし、ナレーションの内容がアレそのまんまじゃないか。などと考えていると次の瞬間あのSEが劇場に鳴り響いた。
トテテューン!! デドゥドゥーン…(オリジナル流用SE)
ここまでオマージュするか!?って、ああ、ザクがサイド7に!?新デザインとは言え赤いザクもいるぞ。じゃああの男が乗っt、乗ってる!!今見ている映像は『GQuuuuuuX』に繋がるのか?それとも単なるファンサービス?
私の頭の中は混乱と興奮でいっぱいいっぱいになってしまい、私は考えることをやめた。カラーが生み出した新しいガンダムに身をゆだねようではないか。カラーが考えることを私などがわかるはずがないのだ。
お、サイド7での偵察が始まったぞ。親父にもぶたれたことがないあの少年がそろそろ出てくる~出てこない…!じゃあガンダムは誰が…ってそうきたか~!っていうか、そういうことやっていいんだ~!そりゃ公式でファーストガンダムのIFをやられたらみんな驚くだろうよ。
なるほどそこをそうしたら、あれがああなってこうなって、そこでそのキャラをピックアップしてきてそこに熱い信頼関係が生まれるのね、そうなのね。しかし、これはどんな結末を迎えて、どうやって『GQuuuuuuX』本編につながるのだろうか?
それにしてもこの仮面の男、あそこでああなりさえしなければ、あの少年さえいなければここまでやれる男なのだな。新しい声優もキレ者の若造っぽさがハマっているし好印象だ。イメージ変わったぜ、たいしたもんだよと思ったところで何やら不穏な空気が漂い始める。ああ、やはり彼は我々の知る人物だ。すごい脚本と演出だな、ここまで魅せておいて一気に引き戻すとは。歴史の修正力でも働いたのか。
仮面の男については公式でネタバレが出ているので観たい人は観てほしい。
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だいたい40分ほどのサプライズ部分だったが、あっという間の40分だった。ちょっと疲れた。気持ちの整理がつかないまま本編(?)が始まる。
本編の感想
衝撃のサプライズを受け始まった本編は物静かな雰囲気で始まった。時は宇宙世紀0085。主人公のアマテ・ユズリハ(CV:黒沢ともよ)はコロニーで生まれ育った普通の女子高生だ。彼女は何不自由無い生活の中で閉塞感を感じながら生きている。駅の改札で運び屋の少女ニャアン(CV:石川由依)とぶつかったことで彼女の人生が動き出す。ファーストガンダムIFから数年後に駅の改札でトラブルが発生するというのは、制作陣の遊び心だろうか。何のことかわからない人は『機動戦士Ζガンダム』を観てほしい。観なくても『GQuuuuuuX』は楽しめるのでご安心を。
キャラクターについて
アマテは事の成り行きで非合法の決闘競技クランバトル(クラバ)に参戦し「マチュ」の名でエントリーする。ここに至るまでの彼女の行動が非常にアグレッシブで物語をグイグイと引っ張っていた。普通の女子高生とは思えない狂犬ぶりで大変痛快である。初っ端からアクセル全開娘だ。やり場のないもやもやを振り払うべく若さに任せて躍動するマチュが本作品一番の見所だと私は思う。丸っこいデザインもどんどんかわいく見えてくる。
運び屋の少女ニャアンは女子高生の制服を着ているが、私の勘違いでなければこれはカモフラージュのための制服であり、彼女が普通の女子高生マチュとはまったく異なる人生を送ってきたことが伺える。与えられた環境と生まれ持った素質、どちらも恵まれたマチュが大暴れする一方で彼女は運び屋としてポンコツである。運び屋の闇バイトでちゃんと生計を立てられているのかと心配になる。おそらく彼女はパイロット適性が低いため、モビルスーツに搭乗する機会は少ないのではないか。そんな彼女が今後どのように活躍するのか楽しみだ。
バトルシーンについて
バトルシーンもおもしろい。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』や『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』に見られるようなロボもカメラも高速でぐりんぐりん動き回るような映像になってしまうのではないかと危惧していたが、杞憂に終わった。マチュのニュータイプの素質が覚醒した後はどうなるかわからないが、現時点ではまだまだ不慣れなマチュの操縦とニュータイプ特有の常人には不可能な空間把握と先読みの描写が嚙み合ってガンダムらしさを感じるバトルシーンを楽しむことができた。『GQuuuuuuX』では、ロボットアニメが培ってきた「見栄を切る」「溜めを作る」「適切な間を置く」といったノウハウが3DCGを使ったスピーディーでダイナミックな戦闘の中に見て取られる。それがバトルシーンで感じられる「ガンダムらしさ」の正体ではないだろうか。
話はちょっと逸れるが、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』や『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』の戦闘描写は私には何が起きているのかわからない場面が多々あった。作り手としては「手書きじゃない3DCGだとこんなこともできるよ!」「こういうの作りたかったんだよね!」という気持ちがあるのかも知れないが、物には限度がある。ウルトラマンシリーズでも2000年以後の作品で3DCGで描かれたウルトラマンと敵宇宙人が空中をビュンビュン飛び回って「板野サーカス」と呼ばれるような戦闘をしていたが、ウルトラマンとして新しい試みではあるし確かに迫力もあるのものの、地上でのスーツとミニチュアを使った戦闘とのギャップが生まれすぎていて一本の作品として統一感を失っていたように思う。それから時を経て『シン・ウルトラマン』や『ULTRAMAN』(Netflixのアニメ作品)ではシリーズお馴染みの描写を3DCGで発展させるという方向性に舵が切られ、私は大変満足した。
あとがき
もともと私はガンダム熱が冷めている状態だったので『GQuuuuuuX』は観れたら観る程度の心づもりだったのだが、X(旧Twitter)でオタク達が騒いでくれたおかげで本作品を鑑賞することができた。観て良かったと思う。オタク達に感謝。
テレビシリーズの放送はいつになるだろうか。楽しみが増えた。だが、それまでに途中になっている『Gのレコンギスタ』を完走させねばならない。『ユニコーン』も途中だった。うーん、ファーストガンダムのテレビ版を見直すか。