「言及してない批判」。
えーっと、こういう状況だと理解しているのですが。
↓
↓
……どうなんですかね。
(そもそも問題の発端は、AKB欅坂46の「ナチっぽい衣装」らしくてよくわからないのですがそこまで話を遡って追う気力はないです)
もちろん、私自身は、歴史修正主義批判の方を含め、疑似科学と戦うあらゆる方々を心から応援するのですが。
しかし、どの分野であれ、疑似科学(歴史修正主義含む)を腰を据えて批判するには、その分野の専門家であることが必要になってくると思うのです。
……疑似科学を「支持する」ことには、なーんにも専門知識はいらないのですよ。
疑似科学は、まっとうな学術的根拠、専門知よりも、「自分が納得できるか」=「自分にとって気持ちいい結論であるか」を重視するので。
しかし、だからこそ、それに対抗する側には専門知が重要なのでは。
そりゃまあ、例えばホロコースト否定論や反相対論がトンデモであろうことは一般人にも常識として(大抵は)判断できますけど、本気度の高いビリーバーが分厚い資料を抱えて迫ってきたら、対抗論陣を張るには専門家を呼ぶ必要がありますよね。
そう考えると、歴史が専門でなければ、歴史問題への口出しは控えよう、という態度はむしろ当然だと思います。
だから、
「言及してない批判」
は基本的にお門違いじゃないんでしょうか。
そもそも、例えば代替医療を批判してる人が天文学分野に言及してないからといって、「ヴェリコフスキー支持者め!」とか糾弾する人はいないし、いたら無茶だと思うんですけど。
それは歴史修正主義でも同様なのでは。
……あと、それ関係で、Apeman氏に
「ご自身が歴史修正主義批判は熱心な一方でEM菌やホメオパシーには言及がないことは平気なんです?」
と聞いたところ、
「このデマゴーグが!」
と罵られてしまいました。
優生学は科学的には「正しい」。だが倫理的には正しくない。核兵器が倫理的には正しくないが機能するのと同じ。/id:Apeman氏、歴史修正を盛んに批判する一方でEMやホメオパシーには言及「優生学は科学的には「正しい」」といい出すバカまで登場したよ! あと「EMやホメオパシーには言及しない」というのはお前が知らないだけ! このデマゴーグが。
2016/11/08 23:06
えー、実際、氏のブックマーク及びはてなダイアリーを「EM菌」「ホメオパシー」で検索したところ、ホメオパシーに言及したコメントおよび記事が複数存在しました。
「ホメオパシーと陰謀論にどっぷり浸かった陸自の現役一佐の問題」(2010年)とかそういうですね。
お詫びして訂正いたします。確認不足でした。
で、それはそれとして、ニセ科学批判に積極的な菊池誠氏は、ナチス擁護についても否定的に言及しています。
「もちろん」とは思わないな。そもそもそれは「ニセ科学」ではないから、「ニセ科学批判」とどう関係あるのか不明。僕はナチス擁護を否定していますけど、それは「ニセ科学批判」とはまったく関係ない。こういう意味不明のことを言われる筋合いはないと思うよ https://t.co/82wNExZRlk
— 菊池誠(11/25 ベアーズ) (@kikumaco) 2016年11月4日
これに対して「歴史修正主義は疑似科学ではないというのか!」とかカテゴリー区分で怒るのは、わりともうどうでもいい話なんじゃないでしょうか。*1
私は、
「ボクは親学には批判的だけど、ああいう“疑似教育学”は疑似科学には含まれないと思う」
とかいう人がいたって別にそう怒らないですけど。親学を支持してるかどうかの方が重要。
ところでApeman氏、「EM菌」での検索については記事もコメントも発見できなかったのですが、たぶん私の検索能力の及ばないどこかで言及してらしたんだと思います。
しかし別に「言及していないこと」が批判さるべきだ、という話ではないのですよ? むしろ逆の話で。
各人が専門分野で戦うのが、誰にとっても幸せなんじゃないですかね?
科学と正しさの話。
科学って、政治的にはカーナビみたいな側面があると思うのです。
例えば、
「医療費を削減したい」
とか、目的地を指示すると、
「社会スポーツを振興するとこのような費用対効果が」
「高齢者負担の引き上げの試算を」
「ジェネリック医薬品の活用で」
「病人を片っ端から殺せば医療費はゼロになりますよ。死ぬけど」
……とか、何はともあれ目的に続く経路を(リスク込みで)列挙するのが科学の仕事で。*2
その中から、どの道を選ぶかを決めるのが政治の仕事であり、市民の仕事です。
(複数の選択肢を同時に選べるのがカーナビと違うところですが)
その点、疑似科学の何が問題かと言うと、
「EMドリンクを飲ませれば安価にガンでもエイズでも治ります!」
とか、一見魅力的だけど目的地に続かないデスロードを提示してくるところにあります。
で、
「科学的に正しい」
というのは、
「何はともあれルートの存在は確認されている」
という意味だから、必ずしも「倫理的に正しい」という意味ではない。
核兵器は倫理的に考えれば廃絶されるべきものですが、じゃあ
「核兵器は爆発しない。兵器として無効である」
というのが科学的に正しい発言か、といえば、それは明らかに「科学的に」間違っています。
だから、
「核兵器は有効だ、というのは科学的事実」
と言った時に
「お前は核兵器を支持するのか! 広島・長崎の悲劇を忘れたのか!」
とか難詰されても困るよね、という。
むしろ、核兵器が現実に存在し、兵器としては有効であるからこそ、その廃絶に努力が必要なわけで。
核兵器に限らず、倫理的「でない」科学的事実というのは色々あります。
差別は人間の本能に根ざしているとか、獲得形質は遺伝しないとか。
この宇宙が、慈悲深い神によって、人類の幸福のために創造されたものであれば、すべての科学法則は人類の道徳的価値観にそぐうように設計され、非倫理的な科学的事実など存在しなかったでしょう。
しかしまあ……どうやら我々はそんな宇宙には住んでいないようなので。
しかしこれは、非倫理的な行いが許されるとか、科学が不道徳を肯定するとかいう意味ではありません。
(そういうのを「自然主義の誤謬」とかいうのだそうです)
そのような科学的事実は、私たち人類が、倫理によって立ち向かうべき障害を明らかにしているだけなのです。*3
慈悲深い神が存在しないなら、我々自身の……科学の力で障害を明らかにし、倫理によってそれを克服しなければならないのです。
余談(優生学の話)
……というような文脈で「優生学は“科学的には”正しい」と言ったらバカ呼ばわりされました。
あー……。
いや別に、ナチスのガス室が素敵な政策だとか、性犯罪者の断種(アメリカの事例)を現代日本も採用すべきだとか言ってるわけではないのです。
(というか、同性愛や性犯罪が遺伝するかどうか疑わしいので、倫理的にも科学的にも間違っている)
はてなブックマーク - apesnotmonkeysさんのツイート: "ふだん「ニセ科学はひとを殺す」という棍棒を振り回しているから「じゃあこっちもどうぞ」と言われたわけだろ。もし優生学が科学としid:filinionそういう表層的な最適化は進化論的には既に多様性をもって反論されていると思います。断種すれば遺伝病は減るでしょうが遺伝病を種に不利なものと見るのは人間の主観で、遺伝子プール的には多様性こそが財産
2016/11/11 00:50
遺伝的多様性が大切、というのもわかってはいます。
「不利な遺伝子」というのが人間の主観であって、科学的な用語でないことも。
ただ、
「遺伝病患者を断種すれば遺伝病は減る」
というのは事実なのではないかなあ(それが社会的に有益だとか実行すべきだとは全然思わないけど)、その点では優生学は科学に立脚しているのではないかなあ、といった意味で書きました。
しかしまあ、
「いや、単に“優生学”と言ったら、普通は『貧困層と精神病患者の断種で民族を人工的に改良だぁー!』とかそういう価値観や政策判断込みの古典的優生学のことで、アレはどう考えても疑似科学だろ! オレオレ定義やめろ!」
と言われたら返す言葉もないですね。
ていうか、
「優生学の科学的に正しい部分は科学的に正しい」
というのはトートロジーですわな。
apesnotmonkeysさんのツイート: "「歴史修正主義や優生学は批判したくないニセ科学批判マン」が「優生学が正しければホロコーストは正しかったということになるのか?」と混ぜっ返していて優生学は科学的とも、科学的に正しいとはいえないかと。優生の定義は曖昧で形質と優生の因果関係を証明していません。また、種分化に至るような遺伝は隔離された小集団で起こるので、淘汰圧も弱く科学的に正しくない
2016/11/09 00:17
このブコメが一番得心がいきました。ありがとうございました。
しかし……そうすると、優生学というのは、単に無効であるがゆえに放棄されたんですかね。
だとすると残念です。
今まで、
「科学的に見れば有効な面もあったが、倫理的問題ゆえに放棄された」
という、人類の倫理の勝利の一つだと思っていたのですが、単に、科学が疑似科学に勝った事例に過ぎなかったという……。