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足掻あが)” の例文
むしろその毒血自体がのたうつてゐる足掻あがきであり、見様によつては狡猾なカラクリであり、女はそれを意識してゐないであらうが
戦争と一人の女 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
奔馬ほんばちゅうけて、見る見る腕車を乗っ越したり。御者はやがて馬の足掻あがきをゆるめ、渠に先を越させぬまでに徐々として進行しつ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は、奥歯をじっと噛んで、ますます殺気のみなぎる瞳で、門倉平馬のめ下ろす視線を、何のくそと、はじき返そうと足掻あがくのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
林冲はののしりつづける。その面罵めんばに、王倫はぶるぶる五体をふるわせ、地だんだを踏み鳴らしたが、足掻あがきも、前へは踏み出せない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、頻りに泥をはねかす音と足掻あがく音がすると共に、霧の中から一人の男の声が聞えて来た。「それあドーヴァー通いの馬車かい?」
彼の眼は子供のように、純粋な感情をたたえていた、若者は彼と眼を合わすと、あわててその視線を避けながら、ことさらに馬の足掻あがくのを叱って
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
馬のひづめの音と足掻あがきの絵との加速度的なフラッシュ・バックにはやはりちょっとすぐにはまねのできない呼吸のうまみがあるようである。
三千人と一ト口に言うが、大したものだ、要所要所に上飯台の連中を配置し、寸分も足掻あがきを効かせまいと行届いた手配だ。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
しかし、どこにも怪我けがはなかった。すぐ起き上がって花房のほうを見ると、花房は足掻あがきをして起き上がろうとしながら起き上がれずにいた。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
踠き足掻あがいて夢から逃れたのだったが、今夜は、今夜も、駈け去りたい気が強いのだけれど、足が鉄のように砂にめりこんで、動かないのだった。
あの顔 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あんないわしの干物のような奴が、どう足掻あがいたって、洒落本はおろか、初午の茶番狂言ひとつ、書ける訳はありますまい。
曲亭馬琴 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その大后いはの日賣の命、いたく嫉妬うはなりねたみしたまひき。かれ天皇の使はせるみめたちは、宮の中をもえのぞかず、言立てば、足も足掻あがかに妬みたまひき。
さて、暫くそこに坐っていますと、ふいに頭の上で馬の鼻息と足掻あがきの音が聞え、同時にヘールゼの教會の塔のすぐ上の空に長い火花が見えました。
れが一斷念だんねんすればまでであるけれど、二度ふたたび三度みたび戸口とぐちつて足掻あがはじめれば、つてはきたり、つてはきた
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「やっぱりああいう人が男だ! 俺なんかこうして患っているうちに馘だ。どう足掻あがいたって仕方がない。こうして死ぬのを待ってるようなもんだ。」
母親 (新字新仮名) / 若杉鳥子(著)
「僕は東京丈けだ。成行に委せる。足掻あがいても駄目と見越がついたから、当分鮎でも釣って頭を休めようと思う」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
馬に乗っているなら、試みにその気高い動物を波に向かってり入れ、おそろしさに足掻あがくのを見るもよかろう。
軽井沢の別荘から沓掛くつかけの別荘まで夏草を馬の足掻あがきにふみしかせ、山の初秋の風に吹かれて、彼女が颯爽さっそうむちをふっていたとき、みな灰になってしまった。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
大晦日の江戸の街は、一瞬転ごとに、幾百人かずつ最後の足掻あがきの坩堝るつぼの中に、眼を覚さして行くのでしょう。
一五六九年における北方大名伯爵の反逆は、旧勢力がその運命を避けようための最後の大きな足掻あがきだった。
しかし、藻掻けば藻掻くほど、足掻あがけば足掻くほど、私の足は次第々々に深く泥の中に入つたのだつた。
病室より (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
天皇を兵庫の御道筋おみちすじまで御迎え申し上げたその時の有様を形にしたもので、おそれ多くも鳳輦ほうれんの方に向い、右手めて手綱たづなたたいて、勢い切ったこま足掻あがきを留めつつ
「すると、あの野郎に決まってる。旦那、わっしゃあ其奴に手を藉して、泥濘どろん中にめり込んで足掻あがきが取れねえでいるやつの自動車を持上げてやったんで——」
双面獣 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
苦悶くもんの一瞬足掻あがいて硬直したらしい肢体は一種のあやしいリズムを含んでいる。電線の乱れ落ちた線や、おびただしい破片で、虚無の中に痙攣けいれん的の図案が感じられる。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
よく神馬じんめとして神社に納めてある、あの馬である。木像のようでもあったが、人を乗せて、静かに足掻あがいている。馬のあとには若者がついてゆく。従者なのであろう。
思えば思うほどひとり壁立万仭ばんじんの高さに挺身ていしんして行こうとする娘の健気けなげな姿が空中でまぼろしと浮び、娘の足掻あがく裳からはうら哀しいしずくが翁の胸にしたたって翁を苦しめた。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
まだまだと云ってるうちにいつしか此世のひまが明いて、もうおさらばという時節が来る。其時になって幾ら足掻あがいたって藻掻もがいたって追付おッつかない。覚悟をするなら今のうちだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
腹這はらばいにさせて浮かしてやったり、シッカリ棒杭ぼうぐいつかませて置いて、その脚を持って足掻あがき方を教えてやったり、わざと突然手をつッ放して苦い潮水を飲ましてやったり
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
何か一やま当てて、あの女の鼻を明かすような働きがしてみたいが、どうも足掻あがきがつかない。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
……こんな事なら仲間に話し、遠巻きさせればよかったんだが、何が烏組と莫迦にしたので、とうとうこんな破目はめに落ち込んでしまった! どうにも足掻あがきがつかないねえ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そうだとも、実際はどれだけあるか分らないんだけれど、岸の浅いところだって泥沼のようになって落ちこむと、足掻あがきもできないそうだよ。ずいぶん怖いところでしょう。」
不思議な国の話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
若者に教えられて、御陣屋目ざしながら出かけようとしたとき、いかさま容子探りに行ったのが事実であるらしく、足掻あがきを早めながら駈け戻って来たのは先刻のあの二人です。
「親方を知っているのは吉公たった一人だよ。その大切な奴をばらしちゃったんだから、お気の毒だが、もう分らねえよ。旦那方がいくら足掻あがいたって金輪際知れっこありゃしねえ」
鳩つかひ (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
「冬の仕度はなんにも出來てやしないのに、弱つちまふよ。……おたまさんなぞ、手まはしがいゝから、慌てることはないだらうけれど、こちとらは、これから足掻あがき廻るだけよ。」
玉の輿 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
浮世うきよよくかねあつめて、十五ねんがほどの足掻あがきかたとては、ひとには赤鬼あかをに仇名あだなおほせられて、五十にらぬ生涯しようがいのほどを死灰しくわいのやうにおはりたる、それが餘波なごり幾万金いくまんきんいま玉村恭助たまむらけうすけぬしは
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
どちらにしても、当分足掻あがきがつかないということだけは確かめられた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
其処らを足掻あがき廻っている中に、雑木が次第に殖えて、恐ろしく背の高い偃松が姿をあらわしたと思ったら、うまく切明けに出た、長次郎が休んでいる、南日君と実君はずっと右寄りの藪の中から
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
足掻あがきやがるな、経師屋きょうじや
何処ぞへ行って、おらあ生命いのちがけで、日本一の刀鍛冶に成って見せなけれやアならねえ。——身の出世に、あくせく足掻あがくわけじゃあねえよ。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一向足掻あがかないのでも分る。見込のないのは自分だ。家の財産は山に飼ってある馬ばかりだと聞かされている。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と、その椀を、うしろから投げつけたのが、くう足掻あがく馬のかかとに当ると、生ぬるい水がざぶりとかかった。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
地獄の騒音の底で古沼の沈澱を探りたいなどと勿体もったいぶった言い草もくだらない独りよがりで、見掛倒みかけだおしの痴川は始終古沼の底で足掻あがきのとれない憂鬱をめていた。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
それを知って父は急に足掻あがき出し、奪還策として、山林田畑を売り払っていろいろの事業に手をつけ、失敗に失敗を重ね、かえって加速度を与えるの結果となったのであった。
簡略自伝 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
彼等は、頭をうなだれ尾を震わせながら、折々は、四肢の附根つけねのところで潰れはしないかと思われるくらいに、足掻あがいたりつまずいたりして、どろどろの泥の中を進んで行った。
扱い方にコツがあると見えて、猫は啼きもせず足掻あがきもせず、皮の外れから顔を出し、金色の眼で武士を眺め、緋の編紐の巻いてある咽喉を、ゴロゴロ鳴らして静もっていた。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あれ程までに足掻あがきつもがきつして穿鑿しても解らなかった所謂いわゆる冷淡中の一ぶつを、今訳もなく造作もなくツイチョット突留めたらしい心持がして、文三覚えず身の毛が弥立よだッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
薄陽うすびと河風を顔の正面まともにうけて源三郎は、駒の足掻あがきを早めた。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
んでは足掻あがいて/\さうしてほかつてしまふ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
青い一匹のいなごが止つて足掻あがいてゐた。
忘春詩集:02 忘春詩集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
とどま足掻あがく旅の馬、土蹴る音は
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)