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Game Developers Conference 2007現地レポート

任天堂の近藤浩治氏、「マリオ」、「ゼルダ」のサウンドを語る
インタラクティブなゲーム音楽を作る多彩な手法

3月5日~9日(現地時間) 開催

会場:Moscone Center

通常のセッションとしては広めの部屋を使って行なわれたが、ほぼ満席の状態。「マリオ」や「ゼルダ」の作曲者となると、さすがに注目度が高い
 GDC3日目となる3月7日(現地時間)、任天堂株式会社のサウンド統括グループマネージャーを務める近藤浩治氏によるセッション“Painting an Interactive Musical Landscape(インタラクティブな音風景を描き出す)”が開催された。

 セッションの区分はオーディオとなっており、内容は誰でも理解できるレベルではあるものの、基本的にはサウンドクリエイター向けのもの。それでも入場を待つ人の大行列ができるほどで、これは基調講演だろうかと思うほどの人気を集めた。

 近藤氏はまず、自らがゲーム音楽を作る際に心がけていることとして、「リズム」、「バランス」、「インタラクティブ」という3つを挙げた。この3つのキーワードをもとに、作曲を担当した「マリオ」シリーズや「ゼルダ」シリーズの映像と音楽を交えながら、順に解説が行なわれた。



■ リズム

「スーパーマリオブラザーズ」の映像を見せながら解説した近藤氏。これ自体はただのゲームプレイムービーなのだが、ムービーが終わると会場からは拍手喝采。さすがは世界一の人気タイトルである
 第1のキーワードとして挙げられた「リズム」とは、「ゲームにあったリズム」という意味のもの。近藤氏はファミリーコンピュータ用の「スーパーマリオブラザーズ」を例に出し、ゲームでマリオなどのキャラクタが動くゲーム特有のリズムに、音楽のリズムを合わせて作曲しないと、ゲームには合わない、と説明した。

 どのようにしてゲームのリズムに合わせるかは、「とにかく何度も遊ぶしかない」という。実際に「スーパーマリオブラザーズ」においては、マリオが走る姿やジャンプしている時間を、近藤氏が感覚的にとらえた結果から、リズムができあがったという。

 また近藤氏が内蔵音源によるシーケンシャルサウンドにこだわる理由については、「生のバンドやオーケストラのリズムは、その演奏者のリズム感になってしまい、ゲームに合わなくなってしまうことが多い。ゲームはコンピュータのクロックに合わせて動いているので、音楽もそのクロックに従うのが一番しっくり来るはず」と説明した。

 「そのリズムを掴んでから、リズムを生かすメロディを作る」という近藤氏。参考として「マリオ」シリーズと「ゼルダ」シリーズの音楽の作り方の違いについて、「『マリオ』シリーズでは、アクションや操作感の気持ちよさを感じてもらえるように考えている。対して『ゼルダ』シリーズでは、情景や場所ごとの空気感を重視している」と語った。また共通点としては、「曲ごとの特徴が2、3秒でわかるよう、最初に違いを出すようにしている。新しいステージや新しい場所に来たときのワクワク感を裏切らないことと、どこへ進んだかが瞬時にわかる記号の意味を持たせるため」という。



■ バランス

 第2の「バランス」は、様々な面からバランスを取ることの重要性が語られた。まず効果音とBGMのバランスにおいては、溶岩が流れるような低音が入る場所では、BGMに低音を使わないことでバランスを取る。またプレーヤーキャラクタは通常、画面の中央にいることが多いため、効果音もセンターに出力される。このためBGMは左右に振り分けるようにするという。

 次に楽曲全体のバランスについて。「ゲームソフト1本全体で1曲とする意識が必要。イントロ部分はタイトル曲、サビの部分はボス曲といった感じ。各曲のつながりや全体のバランスが非常に重要だと考えている」という。これは作曲家本人だけでなく、ディレクターにも理解してもらう必要があるとし、「ディレクターに曲を聴いてもらうときには、4、5曲まとめて聴いてもらう。1曲ずつ聴かせると、独立した1曲として完成度を問われ、全体としてのバランスが悪くなる」と、聴かせ方の重要性も合わせて示した。

 また多人数での作曲においては、「皆さんも苦労していると思うが……」と前置きしながらも、「1曲ごとの役割や、全体のバランスを確認するためには、他のスタッフとの綿密な調整が必要になる。これができているかどうかで、ゲーム全体の質が決まると思う」と厳しい意見を述べた。

 このほか、「前作のテーマを使ったり、同じメロディをアレンジして使うことで、ゲーム内容が音楽によって整理され、わかりやすくなってより楽しめるようになる」と主張した。これについては例として、「スーパーマリオ」シリーズにおいて、スターを取ったときの音楽がずっと同じであることを紹介した。また「一定時間パワーアップする」という共通点から、ニンテンドウ64用「スーパーマリオ64」のメタルマリオの音楽に、スターの音楽のアレンジを使ったことも紹介した。

「スーパーマリオブラザーズ」のスターを取ったときの音楽と、「スーパーマリオ64」のメタルマリオの音楽は、「一定時間パワーアップ」という共通点を示すために同じ音楽が使われている



■ インタラクティブ

 3つ目の「インタラクティブ」は、今回のセッションのテーマにもなっている。近藤氏はこの点について、「ゲームが他のメディアと違うのは、リアルタイムに反応があるということ。このインタラクティブ性を生かしたサウンド作りをする、サウンドのアイデアを盛り込むことが一番重要だと考えている」とし、最も詳しく、多くの例を示しながら話題を展開した。

 最初に紹介された例が、スーパーファミコン用「スーパーマリオワールド」でヨッシーに乗った際、BGMにパーカッションが加わるというもの。同様の手法は、ニンテンドーゲームキューブ用「スーパーマリオサンシャイン」でも使われている。近藤氏はこれについて、「パワーアップしたことを示すには、曲を変えるという方法もあるが、この場合は曲の切り替えが頻繁に発生してしまう」といい、そのためメロディが変わらないこの手法を採用したという。

「スーパーマリオワールド」でヨッシーに乗ると、パーカッションの音が加わる。僅かな違いではあるが、音楽で「状況が変わった」ことを示すという意味がある


 次に、場所によって音楽のアレンジが変化する手法が紹介された。「スーパーマリオ64」では、通常はエレクトリックピアノだけのものが、水に潜るとストリングスが加わり、洞窟に入るとベースとドラムが加わる。場面の雰囲気に合わせたアレンジをシームレスにつなげるという手法で、Wii/GC用「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」の城下町などでも使われている。

水中や洞窟の中など、場所によって楽器が変化する。ただしメロディやリズムは変化しないので、ゲーム画面の変化と合わせて、自然と耳になじむ


 3つ目は、キャラクタの動きに応じて音の位置を変えるというもの。「マリオサンシャイン」では、影マリオが登場するとBGMが変化するが、このとき影マリオの位置に応じて、BGMの再生される方向が変化する。これによって、追いかけっこをしている様子をより明確に伝える効果が得られるという。この手法は、「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」のスタルキットでも使用されており、トランペットの音色がスタルキットの方向から流れてくる。

「マリオサンシャイン」では影マリオ、「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」ではスタルキットのいる方向からメロディが流れてくる。特別なキャラクタが登場したことを表わしつつ、その位置を示すヒントを与えている


 4つ目は、曲のフレーズをランダムに変える手法。ニンテンドウ64用「ゼルダの伝説 時のオカリナ」で使われており、同じフィールド用BGMでありながら、音楽が毎回変化する。1つのゲーム中で何度も流れることになるBGMだが、8小節ごとのフレーズが12パターン用意されており、それをランダムに繋げることで、プレーヤーを飽きさせない。

「ゼルダの伝説 時のオカリナ」でハイラル平原を歩くムービーが2種類流された。ゲームの場面的には同じものだが、音楽の始めの部分だけ共通していて、あとの部分は異なっていた


 5つ目は、キャラクタの状態によって曲を変化させるもの。例に出された「ゼルダの伝説 時のオカリナ」では、敵を攻撃して戦闘状態に入ると、曲の楽器が変わって物々しい雰囲気になる。また立ち止まって武器を選ぶ際には、ゆったりとした曲になる。ただ、どの状態でも基本となるメロディラインは変わっておらず、統一感を残しつつ緊張感ややすらぎを表現している。RPGのように戦闘シーンへと完全に移行するものならば、曲もがらりと変えてしまえるが、本作の場合はシームレスなので、この手法をとったという。

通常時は普通にフィールドの音楽が流れているが、戦闘になると音楽が少し変わる。また武器の持ち替えなどでも静かな音楽に変化する。これも基本的には同じメロディラインなので、プレーヤーの意識が向かないところだが、気にして聴いてみると随分と違いを感じられる


 6つ目は、リアルタイムにフレーズが変化するもの。GC用「ゼルダの伝説 風のタクト」で、エネルギーボールのようなものを弾き返すとメロディが半音上がる。それを繰り返して攻撃を命中させると、今度はファンファーレ的なフレーズに変化する。完全に別の曲を持ってきたり、効果音だけで表現するのではなく、あくまで既存のメロディを調整して演出効果を高めるという手法だ。

「ゼルダの伝説 風のタクト」でエネルギーボールを弾き返して戦うシーンでは、弾くごとにメロディが半音上がり、緊張感が高まる。命中時のファンファーレにしても、元々のBGMを壊さず、きちんと繋がっているところに驚かされる。ゲーム内容に合わせて作曲されている証拠だ


 最後の例は、音楽がゲームに影響するというアイデア。ニンテンドーDS用「New スーパーマリオブラザーズ」において、コーラスのフレーズに合わせて、敵がジャンプする。動きにランダム性が加わりゲームを面白くするとともに、ジャンプした敵に乗って高い位置に移動するといった仕掛けも用意されている。ゲームの演出効果として裏方にいるのではなく、ゲーム内容にまで影響するという、今までよりも1歩踏み込んだ音楽の使い方である。

音楽に合わせて敵が動くという、音楽ゲーム的な要素も取り込んでいる。それを使ったゲームの仕掛けも組み込まれており、かなり綿密な調整が行なわれたものと思われる


 近藤氏はこれらの例を振り返り、「これまでいろいろなインタラクティブなサウンドの要素を入れてきた。ゲーム音楽はCDなどのメディアとは異なり、リアルタイムにインタラクティブな変化ができるということは、非常に面白い特徴だと思う」と語った。



 近藤氏はゲームの作曲について、「インタラクティブな変化を取り込むことで、いろいろな利点がある」といい、「飽きの来ないよう、同じ音楽でもプレイするたびに変化する曲を作れる」、「同じ曲の中で曲調が変わり、多彩な演出ができる」、「曲の変化で新しい驚きを与え、ゲームをより楽しく遊んでもらえる」、「音楽からのアプローチにより、ゲームの楽しみの要素が増える」という4点を挙げた。ここからも、ゲーム音楽をただのBGMとして終わらせないという近藤氏のこだわりが見える。

 最後に近藤氏は、「ゲーム音楽はいろいろなジャンルの音楽を作れるし、いろいろなアイデアを盛り込めるところが本当に楽しいと思っている。ゲーム音楽は映画やテレビ番組などの単なるBGMではなく、リアルタイムにプレーヤーの状況によって変化する音楽。特有なゲーム音楽ジャンルを確立できるよう、皆さんも一緒に頑張っていきましょう」と来場したサウンドクリエイターに呼びかけ、セッションを締めくくった。

 近藤氏の言う作曲のアプローチからは、「音楽からゲームをもっと楽しくしたい」という強烈なメッセージが伝わってくる。それは世界的な人気を誇るシリーズを出し続けるための答えの1つなのだろう。ただそれを実現するには、サウンドクリエイターがもっと制作しているゲームに近づくことが必要になる。近藤氏の示したインタラクティブなゲーム音楽を作るためには、近藤氏のいる立ち位置に進むことが、何より難しいことなのかもしれない。

セッション終了後、会場の聴講者からスタンディングオベーションが起こった Q&Aの時間が取られなかったこともあってか、その後も近藤氏に話を聞こうという人が次々と集まっていた 聴講席には、「マリオ」や「ゼルダ」で開発を共にする宮本茂氏の姿も。早速サイン攻めに合っていた


□Game Developers Conferenceのホームページ
http://japan.gdconf.com/

(2007年3月8日)

[Reported by 石田賀津男]



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