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アレルギーについてわかってきた「常識を覆す意外な事実」

これは、新しい時代の大きなテーマだ

厚⽣労働省の推計によると、今、国⺠の2⼈に1⼈が何らかのアレルギーを持っていると⾔われる。⾷物アレルギー、花粉症、アトピー性⽪膚炎、気管⽀喘息……。アレルギー疾患はここ半世紀ほどの間に急増しているというのが各分野の共通認識だ。

photo by iStock

わずか数⼗年から100年程度で、人間が生物として大きく変化したとは考えられない。にもかかわらず明らかな異変が起きている。何らかの環境の変化が、現代病とも呼べるアレルギー症状を誘発していると考える方が自然だ。

変わる⾷物アレルギーの認識

⾷物アレルギーは世界的に増加傾向にあり、ショック症状が重ければ命にも関わる。当時、ピーナッツアレルギーが問題となっていたアメリカでは、2000年頃にアメリカ小児科学会がガイドラインを作成し、乳幼児期にピーナッツを食べると深刻なアレルギーにつながると発表した。

年々増加する子供の食品アレルギーを背景に、加工食品や調理済み食品の販売に対しての⾷品表⽰義務の厳格化が世界的に広まった。鶏卵や⼩⻨、⽜乳、エビ、カニ、ソバやピーナッツなど、多くの⾷品がアレルギーの原因物質=アレルゲンとして、⾷品表⽰義務を課されている。

食品アレルギーの予防には「できるだけアレルゲンの摂取を避けること」というのが、今までの常識であった。しかし近年、その常識を覆す事実が次々と出てきている。

 

アレルゲンを少量ずつ食べた方が…?

2015年アメリカアレルギー学会で、ロンドン⼤学のギデオン・ラック(Gideon Lack)教授が発表したのは、「アレルギーの原因となる⾷物を避けるより、アレルゲンを少量ずつ⾷べる⽅がアレルギー反応は起きない」という、これまでの常識を覆す衝撃の内容だった。

教授はピーナッツアレルギーに関する研究で、離乳期からピーナッツバターが使われている「バンバ」というおやつをよく⾷べるイスラエルの⼦供と、離乳期から幼少期にピーナッツを含む⾷品を避ける傾向にあるイギリスの⼦供に、アレルギー検査を行った。

その結果、ピーナッツを避けていたイギリスの子供の⽅が、ピーナッツを日常的に摂取していたイスラエルの子供よりも、ピーナッツアレルギーをもつ⼦供の割合が10倍も⾼かったのだ。

アレルゲンを避けている子供に、なぜアレルギー症状が多く出てしまうのか。教授は90年代に、アメリカで研究していた頃のことを思い出した。

それは、マウスの皮膚に卵を塗ると、皮膚を通して卵アレルギーを起こすマウスが現れることだった。そのマウスにその後、卵を食べさせるとアレルギー症状を引き起こすようになってしまうのだ。

そこで、イギリスの子供の生活環境を調べていたギデオン・ラック教授が注⽬したのが「ベビークリーム」だった。

当時イギリスの多くの⺟親が、おむつかぶれや乾燥肌などに使⽤していたベビークリームの中に、ピーナッツオイルを原料に使⽤しているものがあったのだ。

調べてみると、このピーナッツオイルを含んだベビーオイルを使⽤していた⼦供は、使⽤していない⼦供に⽐べて、7倍もの⾼い割合で経口摂取によるピーナッツアレルギーをもっていることが分かったのだった。

なぜこのようなことが起こるのか。

「経⼝寛容」という免疫の性質

私たち動物は、毒物や細菌、ウィルス、寄生虫といったものに対してか弱い。生命を守るために、そうした異物に接触した時に、危険な物質であるかどうかを敏感に見極め、異物であると判断すれば細胞レベルで攻撃する力が備わっている。それが、免疫である。

ただし私たちは、他の⽣命を⾷物として⾷べないと⽣きていけない。その為、⼝から⼊って消化器官を通るものに対しては、免疫は寛容になるという特徴がある。これは「経⼝寛容(免疫寛容)」という性質で、「これは⾷物である」と免疫系が認識すれば、アレルギー反応を起こすことはない。

免疫システムには大きく分けて2種類ある。免疫の働きを「活性化するもの」と「抑制するもの」。この両者のバランスにより、生命活動は維持される。このバランスは、免疫に対する負荷の違いにより変わってくる。

例えば、マラリアなどに感染する地域では、攻撃性の高い免疫を備える一方で、花粉など害のないものには非常に抑制的に働く。幼少期から感染症リスクの高いアジアなどの農村部では、アレルギー疾患の子供は極めて少ない。

本来安全なものを危険な異物であると認識し、免疫細胞が活性化することで身体の各部で炎症反応が起こることになる。これがアレルギー反応だ。

日本を含め都市化した先進国では、免疫への負荷が低いため、本来の調整機能に不具合が生じ、花粉などの人体に害のないものにも過剰に反応してしまう傾向にある。この傾向が強まれば、まさに免疫が暴走し、自分自身の細胞をも破壊してしまいかねない。将来、自己免疫疾患に分類される重い病気に発展してしまうこともある。

免疫細胞はある物質に対して一度アレルギー反応を示すと、何度も同じ物質に対し反応することになる。アレルゲンに対して、子供がアレルギー反応を起こすかどうかは、先に、これは異物だと”アレルギー認定”するか、これは安全だと”寛容”するのかが大事になる。

そこで先ほどのケースに戻るが、イスラエルの子供は「バンバ」を幼い頃から日常的に食べることで、ピーナッツに対して経口寛容が働いていた。対してイギリスの子供は、口にする前に敏感な肌からピーナッツの成分に感作してしまっていたために、その後、ピーナッツを口から摂取した際にアレルギー反応を起こしまったと考えられる。

こうした事実が判明したことで2008年頃から、アレルゲン除去⾷に⾷物アレルギーの増加を⾷い⽌める効果はなかったとして、現在のガイドラインでは、特定の⾷品の摂取を遅らせるような指導はなくなっている。

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